WTO交渉の決裂と破綻を歓迎するいまこそ食糧主権にもとづく貿易ルール実現のとき二〇〇六年七月二十五日 農民運動全国連合会が声明
私たちはWTO交渉の「失敗」を歓迎する七月二十四日、ジュネーブで開かれていたG6閣僚会合が決裂した。これを受けて、ラミーWTO事務局長はWTO加盟国大使級会合で、全分野にわたって交渉を中断することを報告し、「このような根強いこう着状態に直面しては、提言できる唯一の方法は交渉停止しかない」「(凍結は)短期間では終わらない」などと表明した。直前に開かれたG8サミットが八月半ばまでの決着を指示し、七月二十八、二十九日にもG6会合を予定していたにもかかわらず、こういう結果になったことは、WTO体制の矛盾と亀裂の深さを示すものである。 アメリカの通商交渉権限は議会にある。このため、WTO交渉の結果について議会の承認を得るために必要な「包括通商交渉権限」がブッシュ大統領に与えられているが、これは来年七月一日に失効する。その半年前の今年末までに交渉を終えることが、ドーハ・ラウンドの事実上の期限となっていた。 アメリカの国内制度が国際交渉の期限を規定すること自体がアメリカの横暴を雄弁に物語っているが、皮肉なことに、その横暴が交渉の足かせになっている。 今回の結果は、単なる期限の延長や「凍結」にとどまらず、ブッシュ後の新大統領が二〇〇九年に就任し、改めて「包括通商交渉権限」を取得するまで、交渉が進まないことを意味する。 ラミーWTO事務局長は「交渉には『凍結』という概念はない。あるのは成功か失敗かだけだ」と述べ、さらにインドの商工相は「交渉は死んだわけではない。ただ間違いなく、集中治療室と火葬場の間だろう」と述べたが、現在の事態はWTOが「失敗」に向かって進んでいることを示している。 「悪い合意はない方がましである」。私たちは、世界の農業と農民を破綻に追い込んできた元凶であるWTO交渉の「失敗」を歓迎する。
交渉決裂の原因はアメリカの横暴にある交渉の最大の課題は、最も貿易歪曲的であり、世界の農業問題の元凶になっている輸出補助金を廃止することであった。世界最大の農産物輸出国であるアメリカの農業補助金は直接・間接に輸出補助金の性格をもたざるをえず、その削減・廃止が求められていたにもかかわらず、「アメリカの要求を他国が飲まないかぎり、交渉は死の渦巻きに向かう」などとおどして野放図な市場開放を求めてきた。これは、ブラジルなどの猛追を受けているアメリカが、輸出補助金にあくまでしがみついて農産物輸出大国の地位を死守する思惑にもとづくものである。こういう横暴が交渉決裂の直接の原因である。
国連機関から相次ぐWTO批判国連開発会議(UNDP)は「多くの発展途上国が自給率向上を望んでいるが、WTOのもとでの貿易自由化によって阻害されている。食料の輸入依存を打開し、農民を保護することが必要である」という報告を六月末に公表した。また、国連人権委員会は昨年九月、「WTOの農業貿易ルールは、各国政府が食糧安全保障を維持するために採用する政策に重大な影響をもたらす。WTOなどの国際機関が推進する経済モデルが、世界中の小規模農民の食糧に対する権利をおびやかしていることに懸念を表明する」と警告した。 このように、WTOが進める新自由主義的グローバリゼーションのもとでの体制的矛盾が国連機関などからも指摘される事態が目立っており、これが交渉決裂のより奥深い原因である。 交渉が決裂したとしても、WTOが消えてしまうわけではなく、政府与党や一部のマスコミが大騒ぎするように世界経済が破滅するわけでもない。G6メンバーであるブラジル・インドを含め、WTO加盟国の四分の三を占める国々の閣僚たちが共通して訴えた「今こそ熟考の時だ」という意思を尊重することこそが求められている。
いまこそ食糧主権を私たちは破綻が明白なWTOに対する根本的な対案である「食糧主権」にもとづく貿易ルールの確立を求める。さらに私たちは、WTOを金科玉条にして戦後農政の総決算をねらう「農政改革」の中止と見直しを強く要求する。
決裂は私たちの運動の成果ヘンリー・サラギ氏が談話私たちはWTO交渉の決裂を歓迎する。今日の事態は、私たちの運動の結果である。ビア・カンペシーナは、一貫してWTOが農業から出て行けと要求してきた。WTOは、農業と同様、すべての部門から出て行くべきだ。私たちはWTOに対し、完全に交渉をストップするまでたたかい続ける。いまこそ食糧主権実現の時だ。(「貿易キャンペーン」プレスリリース二〇〇六年七月二十五日、ジュネーブ)
(新聞「農民」2006.8.7付)
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[2006年8月]
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