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生物多様性脅かす遺伝子操作
遺伝子を破壊するゲノム編集技術
遺伝子組み換え食品でいま何が起きているか。動植物での応用が進み、通常より速く成長するサケがアメリカのベンチャー企業により開発されました。さらにアメリカでは、遺伝子組み換えリンゴが開発され、皮をむいても変色しないという性質をもっています。
格安で機能のアップうたうが
遺伝子組み換えの開発が進むなか、多国籍企業などが遺伝子を操作することで新たな技術開発が進んでいます。現在、政府は内閣府を中心に、ゲノム編集技術など新しいバイオテクノロジーを応用して、高機能稲やトマト、魚などの開発に力を入れています。ここでは、おいしくなるとか、栄養価が上がる、高収量になるなど、作物の機能をアップさせることをめざしています。遺伝子組み換え技術は、他の生物種の遺伝子を別の生物種に導入する技術であるのに対して、現在主に利用されているゲノム編集技術とは、遺伝子の働きを壊す技術です。成長を抑制する遺伝子の働きを壊すと、成長に歯止めがかからなくなり、成長が早まります。従来の遺伝子組み換えと比べると格段に容易で、開発コストも安く済むといわれています。
ゲノム編集は、生命体が本来必要とする機能を止めることで、自然界になかった生命体を発生させます。成長を早めようと、片一方の機能をなくすと、そのバランスを崩すことになり問題です。
進められている開発例をみると
現在進められている開発の例をみると、たとえば、肉の量を増やすために、筋肉量を抑制する遺伝子を切断することにより、筋肉隆々の豚がつくられます。また、ジャガイモでは、ソラニンなどジャガイモの芽にできる毒をつくらないようにしたものもあります。
酵素の遺伝子を破壊する技術
最近、日本で初めて、茨城県つくば市でゲノム編集稲の野外での栽培試験が始まりました。日本の研究機関はこれまで、従来の遺伝子組み換え技術で、花粉症治療米や複合耐病性稲など、稲を中心に開発を進めてきました。稲のゲノム編集技術は、花芽の分化を促進する植物ホルモンを分解する酵素の遺伝子を破壊したものです。この酵素遺伝子を止めると、植物ホルモンが増加することで花芽の分化が促進され、その結果、もみの数が増加し、収量が増えることになります。
多くの科学者が問題点を指摘
開発が進む一方で、多くの科学者がこうしたゲノム編集技術の問題点を指摘しています。たとえば、『インデペンデント・サイエンス・ニュース』(2016年4月25日付)は、「この技術では安全神話が振りまかれているが、それは神話に過ぎず、特に問題なのは間違いを犯してターゲットでない個所でDNAを切断してしまうことである」と指摘しています。また、『エコロジスト』誌(2016年1月13日)は「遺伝子の働きは複雑であり、この操作が他の遺伝子の働きや、遺伝子間の相互作用に影響を及ぼす可能性は高いと考えられる。このことが毒性を増幅するなど食の安全性に影響をもたらしたり、栄養分を低下させたり、新たなアレルゲンをもたらす可能性がある」と懸念を表明しています。
日本国内では、ゲノム編集で作られた作物が、GM作物の環境への影響などを規制するカルタヘナ法の対象になるのかどうかが不明確です。
さらに、今回の稲の試験栽培のように、「他の作物と交雑するおそれがある」という懸念は解決されないままです。
こうしてゲノム編集技術は、人間の都合に合わせて生命を改造し、その影響が次世代以降に受け継がれるケースが多いほか、従来のGM大豆やトウモロコシにみられた単一品種化が進むなど、生物多様性を脅かす可能性が大きいといわなければなりません。