「農民」記事データベース20000306-440-03

国際シンポジウム

パネリスト五氏の報告(大要) [1/5]

CONTENTS(順不同)

 食料は単なる貿易商品ではない
  ―食料主権と人民の自給の権利―
  イタリア・国際センタークロチェビア代表 アントニオ・オノラティー氏

 アメリカでも深刻な農業・環境破壊と、高まる反対運動
  アメリカ・農業・貿易政策研究所代表 マーク・リッチー氏

 韓国の農業の現状とWTO反対の運動
  韓国・全国農民会総聯盟 劉相郁氏

 森林の再生・環境保全考えない貿易に反対
  三重県・速水林業代表 速水亨氏

 われわれはWTO協定の抜本的改定を要求する
  農民連代表常任委員 小林節夫氏


食料は単なる貿易商品ではない

―食料主権と人民の自給の権利―

イタリア・国際センタークロチェビア代表 アントニオ・オノラティー氏

 友人のみなさん。私はみなさんの国の草原の匂いを嗅いだこともなく、田植えで足を入れる水の冷たさも経験していません。桃の花の色をした虹がどのくらい失われたかということも知りません。私の考えは、私が住んでいるヨーロッパの現実にもとづいています。

 私たちは何世紀もの間、「何を食べるかが、その人間をつくる」と言ってきました。しかし、最近のシアトルの会議で、あるリーダーは「食はいまや政治的な行為となった」と言いました。政治的という意味は、様々な利害のぶつかり合いということです。このたたかいで勝ったものが、消費と生産のモデルを決定し、社会全体に押しつけてきます。

農業の発展には家族農業こそ最適

 この少数の支配者たちは、今や農業を工業の延長と考えています。彼らは、その支配をより強固にするために、遺伝子技術や市場のグローバル化という新たな道具を使います。それが世界の人々を、図り知れない危険にさらし、かつその結果 に責任が持てないのに、です。

 こうして食料は、工業化のための原材料という性質を帯びるようになりました。これは、地域的な生産と消費を破壊し、生産物の質を下げます。NGOは長年、「食料は単なる貿易商品ではない」と活動してきました。その行動が、シアトルでのWTO会議を完全にマヒさせたのです。

 私たちはこれまでに、農業を発展させるいくつかのヒントを得ました。(1)農業の多面 的機能への配慮と同様、雇用の保護が非常に重要、(2)農村地域の複雑性にこそ目を向けるべき、(3)多様化する農業は、その地域の文化的伝統と景観に新たな価値を付け加える、(4)時間的、空間的に短いサイクルで結ばれたネットワークは、生産物と生産システムの質を向上させる、(5)都市と農村、生産者と消費者の結びつきを発展させるべき――という点です。私たちは、こういうことの達成に、家族農業がもっとも適していると考えています。

遺伝子技術支配ねらうアグリビジネス

 家族農業は、農地と消費者を守り、多様性を確保して農業を存続させるカギです。家族農業で世界の増加する人口をまかなうことができるのかという疑問をもつ人もいます。しかし、答えはイエスです。家族農業は、安全で質の高い、そして人口増にも対応できる十分な量 の農産物を生産できるのです。

 そのためには、農家が自らの必要にもとづいて土地を使う権利の保障が前提となります。また、遺伝資源と生物の多様性が、集団的に管理される必要があります。

 そこで問題になるのが、遺伝子の組み換えです。遺伝子操作は、機械化と農薬・化学肥料に続き、農業の工業化に新たな局面 を開きました。今や膨大な新技術が一握りのアグリビジネスの手に集中し、種子の地球規模での独占が進んでいます。私たちは、生命の価値こそが文明の基盤であり、それを商業化すべきでないと確信しています。私たちは以下のことを要求します。(1)生命の特許化のためのいかなる立法措置も拒否する、(2)生命形態に関する特許承認の全面 凍結、(3)GMOの商業化の緊急停止。

始まりは小さな運動も必ず変化起こす

 農民は、単なる生産者ではなく、自然を破壊することなしに食料を供給する責任を負った社会的存在です。自然の営みの工業化・私物化に反対し、生産と自分たちの生活を自ら作り上げなければなりません。私たちは、「世界の主人」のようにふるまう輩を引きずり下ろさなければなりません。そして、農民の役割と労働に報いながら、共同で食料・文化・景観を生み出すのです。

 私たちは夢を見ているのではありません。スペイン・バスクの農民はこう言います。「我々は、現実と対決できる大きな理想にもとづく明確な目標を持たなければならない。それによって現在の状況を現実的に解決できるんだ」と。レジスタンスはいつも、小さなグループから始まりました。そして、しまいにはすべての人を巻き込むのです。変化を起こすことは必ずできます。ともに、がんばりましょう。

(新聞「農民」2000.3.6付)
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2000年3月

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