「農民」記事データベース20101213-953-06

TPP(環太平洋連携協定)阻止の
国民共同を構築し、農山村を再生する
“核”となる組織づくりに挑戦しよう(2/5)

農民連第19回定期大会決議(案)
2010年12月3日 農民運動全国連合会常任委員会

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【2】農業をめぐる情勢

1、TPPをはじめ危険な自由化戦略にのめりこむ民主党政権

 (1)国民の生活と安全、 日本経済を脅かす自由化、戦略

   (1)TPP戦略は徹頭徹尾“日米統合”戦略
 菅首相は10月1日の所信表明演説で、突然「TPP等への参加を検討し、FTAAP(アジア太平洋自由貿易圏)構築を目指す。国を開く具体的な交渉を一歩でも進めたい」と述べ、全面的な自由化に乗り出す態度を表明しました。民主党政権のFTA戦略は、アメリカ、オーストラリアを含むTPPへの参加を推進し、これをテコに、中国を含むAPEC21カ国レベルのFTAAPを結成するとともに、さらにEU(欧州連合)とのFTAにも踏み込むというものです。

 所信表明の1週間後に財界・連合代表などに示した「包括的経済連携に関する閣僚委員会」文書は、もっと踏み込んで、次のように日米FTAが核であることを明記しました。

*TPPまたは日米二国間交渉を通じて、日米FTAを結び、これを日本市場開放、大胆な経済改革の「起爆剤」にする。
*日米FTAとTPPは、EU、日中韓FTA推進のテコになる。
*日米FTAとTPPは高い水準の自由化が必要。農産品や非関税分野で高い水準の自由化と改革を行う意思を表明し、それに伴うコスト(犠牲)を受け入れる覚悟で臨む。

 これは、財界とアメリカの圧力に屈した最悪の選択です。

   (2) 「すべての品目を自由化」することを明記した閣議決定、影響は広く深い
 2010年11月9日に閣議決定した「包括的経済連携に関する基本方針」は、米を含めて「すべての品目を自由化交渉対象」とし、「これまでの姿勢から大きく踏み込」んだ自由化を進めるために「農業分野、人の移動分野及び規制制度改革分野」の「抜本的な国内改革を先行的に推進する」ことを明記しています。また、菅政権は、2011年からEUとFTA・EPA交渉を開始することを合意し、3月までにEUが要求する「非関税障壁」の撤廃と規制緩和を行う決意を表明しました。

 こういう全面自由化の影響は、農産物だけでなく、これまで困難としてきた繊維や皮革・履物の市場開放、金融や保険、郵政、医薬品、労働などの分野の規制緩和、食品安全基準の国際基準への調和など、経済活動と国民生活の全般にわたります。「金融工学」を駆使した投機的で詐欺的な金融サービスの「自由化」はもってのほかであり、学生が過去最悪の就職難に直面している状況下で「TPP参加を機に、外国からの移住者をどんどん奨励すべきだ」(日本経団連・米倉弘昌会長)などと言い放ち、貧困と格差を拡大することなど、絶対に許されません。また、アメリカやEUは、自動車の排出ガス基準や安全性基準を「非関税障壁」と非難し、大幅な緩和を要求していますが、これは国民の安全を脅かし、地球温暖化対策に逆行するものです。

 (2)日本の農業・食糧、地域に壊滅的打撃をもたらすTPP

 APEC参加国とEUからの農林水産物輸入額は、全体の約90%に達します。アメリカはTPPを「21世紀型FTA」ともちあげ、アジアの需要を横取りする「輸出2倍化戦略」の最大の柱にしていますが、こういうTPPを「起爆剤」にして完全自由化戦略を進めれば、日本の農業・食糧、地域経済が壊滅的な打撃を受けることは、農水省の試算からも明白です。

 農水省は、TPPが結ばれれば、食料自給率は40%から13%に急落し、農水産物の生産額は4兆5000億円減、関連産業を含む失業者は現在の完全失業者を上回る350万人に及び、さらに米生産は9割減、小麦・砂糖・乳製品の生産は壊滅し、牛肉生産も25%しか残らないという無残な試算を発表しました。

 ある論者は「ドル安でさらに安価になった輸入農産物は、関税の防波堤を失った日本の農業に壊滅的な打撃を与えるのは間違いない。製造業なら海外生産によって為替リスクも関税も回避して生き残れるが、農業はそうはいかない……いったん失われた日本の農業を関税なしで復活させることなど不可能であり、食糧のアメリカ依存がさらに深まるのは確実だ」と述べています。その先にあるのは、工業の空洞化に続く農業の空洞化であり、「日本まるごとの空洞化」にほかなりません。

 それでも菅首相は「開国と農業を両立させる」の一点張りですが、その政策方向は、規模拡大による競争力の強化とアジアの需要をあてこんだ農産物輸出戦略です。しかし、農水省が試算に使った中国米価格1俵3420円に対し、日本の大規模農家(20ヘクタール)の生産費は1万1206円と3・3倍であり、農産物の輸出額は輸入額の5%弱にすぎません。いずれも「両立」の根拠になりえないことは明らかです。

 残る手段は損失額を財政によって補てんすることしかありませんが、「事業仕分け」で17兆円を確保すると大見えを切ったにもかかわらず、1割をひねり出すことしかできず、初年度から農業予算総額を減らした民主党政権が、4兆円を超える財源を確保できると信じる者は誰もいないでしょう。「開国と農業は両立」しないことは明らかです。

2、戸別所得補償について

 政府が2011年度から実施するとしている「戸別所得補償」は、2010年に実施した「米モデル事業」を引き継ぎ、畑作物については「水田畑作経営安定対策」を廃止して、戸別所得補償に一本化するというものです。民主党政権がTPPをはじめとした輸入自由化戦略にのめりこんでいるもとで、“自由化して価格が下がったら補てん”するという政策目的はいっそう明確ですが、自由化と価格暴落を前提にどんな政策を行っても無力であること、そして、民主党がマニフェストで公約した水準より大幅に後退したものであることをきびしく指摘しなければなりません。

 制度の内容では、米の固定払いを「モデル事業」と同様に生産費を反映しない全国一律「10アールあたり1万5000円」としていることや、畑作のてん菜、でんぷん原料バレイショが「水田畑作経営安定対策」より後退していることも重大です。戦略作物としている麦・大豆が、米と同様に買いたたきで価格が下落する危険も指摘しなければなりません。「水田利活用自給力向上事業」の交付水準の低さを補てんした「激変緩和」を「発展的に解消」し、「その他作物」と一体化して「産地資金」を創設するなどとしていますが、麦・大豆などの戦略作物以外の転作が困難になる危険があります。

3、世界的な経済・食糧危機のなかで、力を増す食糧主権の流れ

 (1)TPPの背景にあるのは世界経済危機

 民主党政権が「新成長戦略」を打ち出したのは、世界経済危機と日本経済の停滞の打開策としてでした。日本を「高齢化し、衰退しつつあるマーケット」と決めつけ、「成長するアジア市場を日本企業のビジネス・チャンスにする」ことをねらって、アジア・太平洋レベルのFTA推進戦略を進めるために「自由化に乗り遅れるな」「国を開かなければ世界の孤児になる」と脅しています。マスコミもこれに同調しています。

 TPPに参加しないと自動車や電機などの輸出産業が痛手になるといいますが、すでに大企業の多くは海外に生産拠点を移しており、アメリカが誘導している異常な円高による打撃は、TPP参加による関税引き下げ効果をはるかに上回ります。

 TPP狂乱の背景にあるのは、世界経済・金融危機です。アメリカは、サブプライム・ローンなどの詐欺商法によって「架空の消費」を作り出し、これに依存して自動車や電機製品などの過剰生産に乗り出したのが、日本であり、韓国、中国などアジア諸国でした。しかし、バブルがはじけ、アメリカの浪費に依存できなくなったため、過剰生産状態にある工業製品を売り込む手段としてFTAを通じた世界的な「市場分割」合戦が進行しているのです。

 日本の大資本は、自らが進めた格差と貧困のもとで縮小しつつある国内市場に見切りをつけ、さらに世界的な販売競争に対抗するために、低賃金を求めて海外生産に拍車をかけています。それは「国外逃亡」というべき様相をていしています。タイで小型車を製造し、7月から日本に逆輸入をはじめたタイ日産自動車の社長は「自動車は円高の国(日本)で作っている時代ではなくなりつつある」と述べていたほどです。

 (2)食糧主権は世界の流れ

 「エコ」を標ぼうしても、自動車も電機も、製造と使用の段階でCO2を排出することに変わりはなく、そのヤミクモな増産は地球温暖化防止に逆行することは明らかです。地球の飢餓人口が10億近くに迫り、ますます激しくなる異常気象のもとで、ロシアの干ばつと穀物禁輸、タイの大洪水、インドネシアの米輸入再開など、鎮静化していたかにみえた食糧危機の再来が懸念されています。

 工業と農業・食糧を天びんにかけ、工業の利益のためには農業も農村も食糧も犠牲にしてもかまわないという議論が横行し、人類の命運がかかった地球温暖化対策の国連会議の前途にも暗雲がただよっています。こういう無謀で、世界を破たんさせる世界から「もう一つの世界」を作り出すことが根本的な課題であり、食糧主権は「もう一つの世界」を作り出す根本的な対案です。食糧主権の確立が国連で繰り返し議決され、中南米やアフリカの国々で国家の基本政策として採用されるなど、食糧主権こそが歴史の進歩の方向であり、世界の流れです。

 「国を開き」、農業をつぶしてもかまわないという政治は、歴史に逆行し、破滅に進む道です。いまこそ、国民的な共同でTPP戦略に反撃し、食糧主権実現のためにまい進するときです。

(新聞「農民」2010.12.13付)
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2010年12月

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