「農民」記事データベース20191104-1383-08

日本農業を異次元の総自由化に
さらす亡国・背信の決断
(2/2)

ウソとゴマカシの
日米貿易協定を許さない!

関連/日本農業を異次元の総自由化にさらす亡国・背信の決断(1/2)
  /日本農業を異次元の総自由化にさらす亡国・背信の決断(2/2)
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TPP超え、米も危ない

協定にひそむワナとゴマカシ
TPP超えの大幅な譲歩次々に

 (1)米も危ない

 茂木外務大臣は「米は全面的に除外させた」と“戦果”を誇り、全中会長も「これで生産現場は安心できる」と持ち上げています。しかし、ここにはワナとゴマカシがあります。

 第1に、日本側の協定付属書には「アメリカは将来の交渉において農産品に関する特恵的な待遇を追求する」という異常な条項があります。これは「今後も農産物で譲歩を迫る」というアメリカの 強い意志を示したものであり、安倍政権はこれを受け入れたのです。

 第2に、共同声明には「協定が発効して4カ月後に関税などで再交渉する」と書かれています。TPPでは「発効から7年後に見直す」という規定になっていたのに対し、4カ月後に再交渉する!――これはTPP超えの大幅な譲歩といわなければなりません。

 第3に、政府対策本部の責任者は「もう農産品というカード(取引材料)がなくなったのでは?」との記者の質問に対し、「いや、農産品カードは残っている。農産品の関税撤廃率は40%以下なのだから」と答えています。

 これは、米を筆頭にした「60%以上」の関税撤廃をしていない農産品を差し出すという宣言にほかなりません。

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首相官邸前で日米FTA反対を訴える農民連の仲間たち=10月3日

 選挙モードのトランプ大統領に頼み込み、同氏の地盤が産地であるトウモロコシ275万トン“爆買い”の見返りに、地盤ではないカリフォルニア米5〜7万トンを除外してもらって体裁をとりつくろったものの、今後は「自動車のために米も差し出す」という密約の存在さえ疑わせるもので、「安心」どころではありません!

 (2)牛肉セーフガードのゴマカシ

 政府は、牛肉・豚肉関税下げを「TPPと同水準にとどめた」と自慢しています。しかし、牛肉関税は現在の38・5%から9%まで引き下げられ、豚肉も1キロあたり482円の関税が50円まで引き下げられます。内外価格差からすれば、関税ゼロ状態になります。

 しかも輸入急増から国内生産を守るためのセーフガード(緊急輸入制限)は、大骨も小骨も抜かれることが協定から明らかになりました。カラクリは二つ。

画像  図のセーフガード発動基準数量61万トンは、TPP12で定められたアメリカを含む数量ですが、TPP11交渉で日本が何も言わなかったため、アメリカが抜けてもそのまま。これに、アメリカ向け数量を24万トン追加したので、二重計上状態です。

 政府はTPP11諸国と再交渉するとしていますが、相手は拒否しています。そうなれば、TPP11向けセーフガードは未来永劫に発動されないままになる――これが第一のカラクリです。

 第2のカラクリは、アメリカ向けセーフガードです。貿易協定のとりきめでは、セーフガードが一度でも発動されれば、ただちに「発動水準を一層高いものに調整する」ことが合意されています。TPPでは、発動基準数量の見直しは7年後。これも大幅譲歩であり、セーフガードは全く役立たずの「抜けがら」になってしまいます。

 (3)「和牛輸出拡大」??

 「和牛輸出拡大のチャンス」という宣伝もインチキです。TPPでは現在200トンの対米輸出枠を6250トンに増やし、関税をゼロにするはずでしたが、これらはすべてとりやめ。かわって既存の「その他枠」(約6万トン)に入れるというのですが、この枠は満杯状態で、TPPの枠を確保できる保証はなし。

 アメリカは牛肉輸入枠を1トンも増やさず、日本には関税9%とセーフガード無力化を押しつけ、36%に下がった牛肉自給率をさらに引き下げさせる――不平等協定そのものです。

 (4)「自動車関税撤廃」のゴマカシ

 「牛を取られて車は取れず」――交渉の完敗をおおい隠すため、安倍首相は「自動車・部品の関税撤廃を約束させた」と虚偽宣伝しましたが、これはウソっぱち。協定文に書いてあるのは「自動車と自動車部品の関税の撤廃については、今後のさらなる交渉次第である」ということだけ。

 「今後の交渉次第」を「撤廃約束」にすり替えたうえ、自動車・部品の関税が撤廃されたことにして「GDP(国内総生産)が0・8%押し上げられる」という政府試算を発表する――見え透いたウソで、国民をだますのもいいかげんにしろ!といわなければなりません。

 (5)「追加関税なし」のゴマカシ

 安倍政権を日米貿易交渉に引きずりこんだのは「自動車追加関税25%」の脅しでした。首相は、トランプ大統領の口約束をアテにして「追加関税なし」を勝ち取ったと言い訳しています。

 しかし、協定本文には「協定のいかなる規定も安全保障上の措置をとることを妨げない」と明記されています。「安全保障」はトランプ追加関税の最大の口実。トランプ大統領が、自動車への追加関税適用という強力な武器を振りかざしながら、「第2ラウンド」で、米を含む農産物市場のいっそうの開放や日本の医療保険・薬価制度の見直し、食の安全にかかわる規制の撤廃、金融・共済の規制緩和などをゴリ押しすることは必至です。

本格的な日米FTA交渉の
中止を求める世論と運動を

 ゴマカシだらけの日米貿易協定の国会承認を許さず、本格的な日米FTA交渉の中止を強く求める世論と運動を急速に広げるために全力を尽くすことが求められています。


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富山・富山市 金崎美穂子
 
大阪・松原市 関戸しげみ

(新聞「農民」2019.11.4付)
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2019年11月

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