「農民」記事データベース20090323-869-08

大企業に農地を明け渡すな!(2/3)

農地利用だれでもOK…戦後「農地改革」の大転換

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 農地法「改悪」案はどこが問題なのか、農地問題に詳しい石井啓雄さん(駒澤大学名誉教授)に聞きました。


(「改悪」法案)
 この法律は、国内の農業生産の基盤である農地が現在及び将来における国民のための限られた資源であることにかんがみ、農地を農地以外のものにすることを規制するとともに、 農地を効率的に利用する者 による農地についての権利の取得を促進し、及び農地の利用関係を調整し、並びに農地の農業上の利用を確保するための措置を講ずることにより、国内の農業生産の増大を図り、もって国民に対する食料の安定供給の確保に資することを目的とする。

(現行法)
 この法律は、農地はその 耕作者 みずからが所有することを最も適当であると認めて、 耕作者 の農地の取得を促進し、及びその権利を保護し、並びに土地の農業上の効率的な利用を図るためその利用関係を調整し、もって 耕作者 の地位の安定と農業生産力の増進とを図ることを目的とする。


なんと家族経営の全面否定

画像 この法案は、「農地法」という名前だけは同じですが、1条の目的を大きく書き換えています。すなわち、「耕作者」(自ら農作業に従事する者)という文言を削除し、「農地を効率よく利用する者」に改めていますが、これは「外資系の企業でも効率よく利用すればいい」ということであり、農地利用の原則を根本から転換するものです。これでは、農民の土地所有を守り、家族経営によって日本の農業を発展させることはできません。この法案は、農地に関する権利を何が何でもほしがっている財界のねらいにそって、企業が農地取得を自由にできるように、現行法にある規制を骨抜きにするものです。

 耕作権を守る基本の制度が

 そもそも現在の農地法は、戦後の農地改革の成果を維持するために1952年に制定されました。農地改革では、小作地を国が買収し、約200万ヘクタールの農地を約450万戸に売り渡して、自作農を誕生させました。そして国は、国民の食糧を確保するために、家族経営を支援する政策を進めてきました。その重要な柱のひとつは、小作農の耕作権を保護するとともに、耕作する者が所有権を保持するという自作農主義など、耕作者の耕作する権利を守っていくことを基本にした農地制度です。法人化や規模拡大促進のために、何度も「改正」が行われましたが「耕作者主義」は維持されてきました。この基本は、危機的な状況にある日本の農業にとって、いまなおきわめて有効です。

画像
丹波市国領地区の赤農地(赤農地とは、原野と同程度の農地のこと)=丹波市農業委員会提供

 これ以上の規制緩和が必要か?

画像 この法案では、農業生産法人の構成員要件(出資制限)をさらに緩和していますが、これ以上の規制緩和がどうして必要なのでしょうか。税金対策や機械の共同化などを理由に1962年の法「改正」で創設された農業生産法人は、当初、個別 の耕作農民の共同経営を想定し、株式会社は論外でした。しかし、何度もの「改正」で事業要件や構成員要件が緩和され、株式会社の参入に道を開いてきました。とくに、2003年の「経済特区」法や2005年の「特定法人貸付事業」の創設で、貸借に関しては制約がないに等しい状況になり、2008年9月現在で320社の農外企業が農業に参入しています。いまのところ地元の建設業や食品産業がほとんどですが、カゴメやイオンなど大企業の参入も見られます。しかし、こうした地域では、水路の管理など農家どうしの共同作業が崩壊したといった事例も出ています。こうした企業は耕作放棄地の解消には見向きもしないでしょう。

 また、小作地所有制限や、この所有制限を超えた小作地を国が買収する規定を廃止することは、企業が相当の農地面積を取得した後に貸したりしても矯正することができず、企業の所有権取得という道につながるものです。小作地所有の制限をはずせば、小作地の所有は自由であり、国が買収をしないのであれば誰が買収するのでしょうか。

 これでは、耕作を目的にしないで農地を取得しようという企業や海外の投資ファンドも手を出しかねません。

 さらに標準小作料制度は、最も評判のいい制度の一つで、助かっている農家がたくさんいるのに、なぜ廃止するのでしょうか。標準小作料は、農業委員会が地域ごとの農業収益を基礎に定め、農地の借り手、貸し手の双方から高く評価されている制度です。この法案のなかには、変える必要もないのにあえて変えている条項がありますが、標準小作料制度の廃止はその典型と言えます。

 企業の参入で農業発展はない

 企業の参入で農業が発展するとは誰も思っていません。これは、現場の農家のみなさんが一番肌身で感じていることではないでしょうか。なぜ企業は農地をほしがるのか。財界の本音は、農地の所有権を自由に取得し、地域を支配したいということです。企業の参入を促し、家族経営を否定するこの法案は、廃案にするしかありません。

(新聞「農民」2009.3.23付)
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2009年3月

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