新聞「農民」
「農民」記事データベース20200921-1425-07

ODA開発事業

アフリカ・モザンビーク
プロサバンナ事業中止に
(2/3)

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中止以上の意味を持つ
小農のたたかいの勝利

日本国際ボランティアセンター(JVC)
渡辺直子さん

画像  プロサバンナ事業の中止は、「問題の多い事業が終わってよかった」以上の意味を持つ、小農のたたかいの「勝利」でした。それを、プロサバンナ実施主体の3カ国のみならず、世界の市民・NGOや小農と連帯をして実現したことは、新自由主義的な考え方や仕組みに支配された世界を変えるための大きな一歩だったと思います。

 日本の外務省とJICAに大きな責任

 この事業は、反対の声をあげる小農に対する現地政府による脅迫・弾圧や事業下での土地収奪はさることながら、これらを知りながら、あの手この手ですべて「ないもの」として葬り、事業下における一切の人権侵害に対応せず、むしろ資金を投じ続けてきた日本の外務省とJICA(国際協力機構)に大きな責任があります。

 私たち日本の市民・NGOの活動は、(1)現地調査、(2)文献調査(公文書開示請求)、(3)これらに基づいた外務省やJICAとの直接的な政策協議、(4)市民にプロサバンナの問題を知ってもらうための発信(報告会、メディア)などでした。

 小農との共同現地調査では、小農たちが世界の小農との連帯から学び、自分たちで運動を広げ、実際に大規模土地収奪を防ぎ、土地を取り戻すようになる……そうした連帯と運動の成長、広がりの過程も目の当たりすることができて、私自身の世界も広がりました。

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モザンビークの農民たちと交流する渡辺さん(右)

 小農のたたかいがもたらした社会変革

 小農は、自然の恵みを生かした農業によって世界の食料の8割を生みだし、土地に根差した多様でおいしい作物、文化をつくりだしています。そうした農業は、環境も守りながら行われ、気候変動の抑止に一役買っているとも言われています。

 ビア・カンペシーナは、世界の人びとと連帯し、自らの実践と権力に対する抵抗運動を通じて得られた知見と経験を、「食料主権」や「農民の権利宣言」など新しい価値に転換して世界に提示し、世界的な規範まで昇華させ、社会変革をもたらしてくれました。

 歴史を振り返ってみても、自分自身が今享受している自由や権利というものは、モザンビークの小農のように、被抑圧・弱者の立場におかれながら命がけで「ノー」と言い続けた人々がいることでもたらされたものだと痛感します。

 本来の姿は市民・消費者が声をあげること

 とはいえ、弱者や被抑圧者がノーと言い続けて世界を変えるような状況自体を変えないといけないと思っています。

 それはどんな問題でも、本来は、その周辺にいる人たち、小農で言えば、私たち消費者(市民)、女性の権利の問題で言えば女性自身だけではなく周囲にいる男性……そこからまず変わって、おかしいと声をあげるのが本来の姿なのではないかと思います。

 これは私自身、外務省や財務省の官僚との協議の場で、女性だからということであからさまに見下され、恫喝(どうかつ)されるなかで実感してきたことです。

 だから、小農や食と農を取り巻く問題について知り、変わり、声をあげ続けることは、本来、農業者ではない消費者(市民)の責任だと思っています。

 その中で、ビア・カンペシーナや農民連の皆さんには、苦しい状況もあるかもしれないけれど、それへの問題提起は行いつつ、これまで通り、小農の実践・農業の価値を社会に提示し、自分たちの貢献度を堂々と伝えていってほしい。実践のポジティブな面を多くの人が知るようになってほしいと思っています。

(新聞「農民」2020.9.21付)
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