「農民」記事データベース20011217-520-07

いまこそ農民を励まし、国民と連帯してた
たかい、農業・農山村の明日を切り開こう

農民連第十四回大会決議案

二〇〇一年十一月二十四日 農民運動全国連合会常任委員会


II 農業・暮らしをふみつぶす小泉政治と国民との対決の情勢

1 WTO協定と自民党農政の破綻

 (1)輸入の激増と価格暴落、ものを作らせない凶暴な農業つぶしの政治
 WTO協定後の六年間、急上昇したのは農産物の輸入と減反・減産面積、急下降したのは農産物価格と食料自給率でした(図)。それは、三〇%を超える米価の大暴落と史上最大の減反や青刈り、野菜や果樹の廃棄の押しつけなど、農民にものを作らせない凶暴なものでした。

 また、国民・消費者には、自給率の低下とともに、残留農薬たっぷりの農産物や遺伝子組み換え食品の氾濫など、食の安定供給と安全を脅かすものでした。

 自民党政府がWTO協定を絶対視して農産物輸入を自由化し、市場原理にゆだねて価格の下支えや価格保障を全廃したこと、これにつけこんだ大企業が徹底した買いたたきを進め、中国などの低賃金をあてこんだ開発輸入を洪水のように進めてきたことこれが、今日の農業の危機を招いた最大の原因です。

 (2)「新ラウンド」の開始を合意したWTOと、許しがたい日本政府の態度
 “テロに対する結束”をうたい文句に、カタール・ドーハで開かれた「WTO閣僚会議」は、次期ラウンドの交渉開始をいちおう合意しました。しかし、グローバリズムを前提に輸出国や多国籍企業の利益を最優先し、発展途上国などの経済主権を乱暴に踏みにじってきたWTOの基本的な問題はそのままです。

 問題は、WTO交渉に対する日本政府の態度です。「農業の多面的機能」は日本政府のWTO農業交渉提案の「基本的重要事項」です。ところが小泉首相は、閣僚会議直前、ブッシュ大統領に「農業貿易の改革」を迫られた時、「農業の多面的機能など議論を招きうる論点は提起しないよう努めてきた」と応じ、この提案の核心を取り下げたに等しい態度を明らかにしました。

 「輸入しながら減反とはなにごとか!」という農民の怒りを聞き入れて、米のミニマム・アクセス廃止をはじめ、WTO農業協定の抜本的改定を提起することが日本政府の務めですが、こういう姿勢では「議論を招きうる」からと称して、ミニマム・アクセスの削減すら提起しないことになりかねません。

 「すべての交渉はこれから」と言われるように、今後の交渉は難航をきわめざるをえません。これからが途上国や私たちNGO(非政府組織)の力の発揮のしどころです。

2 経済、暮らし、農業の危機を深化させる小泉「改革」

 (1)大企業の利益を至上とし、社会と人間の尊厳を踏みにじる危険なねらい
 日本の経済の悪化は深刻です。これは、小泉内閣の「構造改革」(1)中小企業の倒産と失業を増大させる「不良債権処理」、(2)大企業のリストラ応援、(3)健保の自己負担の二割から三割への引き上げ、老人健保の適用の七十五歳への引き上げなど、医療や社会保障改悪による、国民負担増によるものです。これは、大規模農家には負債整理、兼業農民にはリストラの押しつけ、医療や福祉の改悪は、高齢者の多い農村への打撃は計り知れません。

 小泉「改革」の基本にあるのは、「効率至上主義」であり、大企業の利益追求の障害になる「非効率部門」は「淘汰」し「創造的に破壊する」というむきだしの市場原理です。こういう小泉「改革」路線のもとで、電機・自動車・食品などの大企業が大規模リストラに乗り出し、その一方で中国などの低賃金国にいっせいに進出しています。野菜や米だけでなくコンピューターや電機製品、衣類にいたるまで「開発輸入」と国内産業の「空洞化」が進んでいます。

 こうした「市場原理主義」は、社会的・経済的ルールと人間の尊厳を蹂躪し、社会を荒廃させるものです。国民の生活にまったく目をむけず、ひたすら大企業の利潤追求に奉仕する政治に未来はありません。

 (2)日本農業を根底から破壊する農業版「構造改革」
 農業も「非効率部門の淘汰」を進める小泉「改革」の例外ではありません。農業版「構造改革」は(1)四十万程度の「育成すべき経営体」と「それ以外」を峻別し、兼業農民に“ガーデニング”などのレッテルをはって切り捨てる、(2)「育成すべき経営体」も野放しの輸入と価格保障廃止という「市場原理主義」に負けるような農業ならなくなってもかまわないというものです。

 農業「構造改革」の先駆けである「米政策の見直し」も重大です。農水省は、稲作の現状について、米価の下落と稲作所得の激減、大商社・スーパーの価格支配、減反政策の限界をあげ、「我が国の農業・農村の維持存続自体に影響を与えかねない事態」としています。

 食管法廃止以来の自民党農政の破綻は明らかです。しかし、「見直し」の方向は、兼業農家を稲作から排除する減反政策の再編成と数量配分化、大企業の米流通支配を強め、単位農協や中小米卸・小売の締め出し、さらに計画流通米制度の廃止など、国民の主食・米にかかわる政府の責任を放棄し、買い占めと暴落・暴騰を繰り返した戦前の状態に戻そうとするものです。

 こうした農業版「構造改革」の大きなねらいは、兼業農家を含む家族経営を壊滅させて大企業の農業・農地支配を進めることであり、これを許すなら、日本農業にとりかえしのつかない打撃を与えることは必至です。政府・自民党は農民や農業団体の強い反発の前に、「米政策の改革」を一年で強行することは断念しましたが、凶暴性にはいささかの変わりもありません。

3 セーフガード問題に現れた小泉政治の反農民的立場

 「セーフガードは暫定であり長期ではない」と言明してスタートした小泉内閣は、三品目の本措置への移行と、他の農産物のセーフガードの発動にとって重大な障害になっています。

 暫定措置の期限である十一月八日を前に、靖国神社参拝の強行に反発する中国に釈明するために訪中した小泉首相は「話し合いによって解決する」ことを中国側に提案し、本措置の回避を決めました。靖国参拝への批判をかわすためにセーフガードを“いけにえ”にすることは、とうてい容認できません。

 十一月にWTOに加盟した中国が、自動車や携帯電話などに高関税を課す“報復”措置を続けているのはルールに違反しています。日本政府が中国の“報復”に屈伏することは、ミニマム・アクセスなど農業や食料、国内産業に打撃をもたらすWTO協定の「義務」は受け入れるが、セーフガードという権利は放棄するという屈辱的態度であり、結局は、輸出大企業の利益を最優先するものと言わなければなりません。

4 自由化政策がもたらした狂牛病問題と畜産の危機

 日本で初めて発生した狂牛病(牛海綿状脳症)は、国民を震撼させ、日本の畜産を崩壊させかねないほどの深刻な被害を畜産農民にもたらしています。また、食肉流通業者、焼肉・飲食店などに大損害を与えました。ズサンで後手後手の対応をとってきた政府にすべての責任があります。

 政府は、いまだに感染ルートを突き止められないでいますが、狂牛病発生の原因が輸入肉骨粉の使用にあることは明白です。その背景には、(1)牛肉の輸入自由化と乳価買いたたきのもとで、肥育効率や高泌乳化のために「牛に牛を食わせる」というゆがんだ技術が奨励され、事実上強要されてきたこと、(2)FAOやEUが「狂牛病の発生が拡大する可能性がある」と警告していたにもかかわらず、平然と肉骨粉を輸入し続けてきたという二重の自由化・輸入依存政策があります。

5 情勢のもう一つの側面国民と連帯してたたかう方向にこそ展望がある

 (1)農業関連産業との共同の条件の広がり
 農業の危機は関連産業の危機でもあります。輸入の急増や「構造改革」による市場法の改悪、「米政策の見直し」は、大企業の流通支配を強め、青果市場や米卸、小売の経営危機に拍車をかけています。生き残りをかけた中小の流通業者のなかで、安全な国産農産物を求める消費者の存在を背景に、生産者や消費者との結びつきや共同への共感が広がっています。

 条件があっても運動は自動的には前進せず、大きな展望を確信にした粘り強い誠実な努力があってこそ切り開かれます。

 安全な国内産の農産物を求める消費者や中小流通関係者と連帯して大企業・商社の開発輸入や流通支配を許さず、市場の公的機能や卸・小売を守ることは、日本農業の再生と深く結びついています。

 (2)国民と連帯・共同を広げ、農政を転換させよう
 小泉「改革」は、国民のあらゆる分野に重大な「痛み」を押しつけるものであり、彼らの支持基盤をますます掘り崩すことは避けられません。

 WTO協定がスタートして以降の農政は、米の関税化や減反の推進など、政府・自民党・農協中央が一体となって進められてきました。しかし、日本農業を根底から破壊し、農協の経営をも脅かす農業版「構造改革」は、決定的な矛盾を引き起し、これまでの枠組みによる農政の推進を困難にしています。

 地域での矛盾はさらに深刻で、セーフガードのたたかいでの農協や農業委員会などとの共同が大きく広がっています。

 いま、大事なことは、農業や雇用、暮らしや福祉でも、国民のたたかう主体的力を大きくすることであり、農民連の運動と組織の前進とともに、新たな条件を生かした共同の拡大が求められています。

6 「テロ対策」を口実にした憲法違反の自衛隊海外派兵

 テロはどんな理由によっても許されません。

 テロ根絶のうえで重要なことは、軍事報復ではなく、法によって犯人を処罰し、テロリストが世界のどこにも居場所がないという国際的包囲網を作ることであり、国連がその役割を果たすことです。

 重大なのは、小泉内閣が米英の報復戦争に自衛隊を派遣する「参戦法」を強行し、艦船を派遣したことです。

 戦争放棄を宣言した、世界に誇る憲法を持った日本が、戦争に参加することは重大な憲法違反であり、戦後最大の憲法の危機、二十一世紀の日本のあり方が根本から問われる事態です。農業は平和の産業であり、平和こそ農業を発展させる土台です。

(新聞「農民」2001.12.10・17付)
ライン

<<BACK][2001年12月][NEXT>>

農民運動全国連合会(略称:農民連)
〒173-0025
東京都板橋区熊野町47-11
社医研センター2階
TEL (03)5966-2224

本サイト掲載の記事、写真等の無断転載を禁じます。
Copyright(c)1998-2001, 農民運動全国連合会