新聞「農民」
「農民」記事データベース20191125-1386-10

安全でより豊かな学校給食を(3/3)

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埼玉・草加市

全小中学校で自校給食

地元農産物活用 心も体も健康に

 埼玉県草加市は、1960年代から東京都のベッドタウンとしてマンモス団地が建設されたことなどにより人口が急増し、小中学校校舎の建設も相次ぎました。それに伴い、学校給食センターが完成し、市内の2小学校、1中学校に配送されていました。

 センター給食では、運搬に時間がかかり、食べる子どもたちの声も届きにくく、自校給食を求める父母の声は署名運動に発展していきました。こうして80年に給食センターが廃止され、市内全小中学校に給食室が完備され、自校方式がスタートしました。

 新鮮でおいしく、地域経済も活性化

 自校方式なので、野菜や肉、豆腐などの生鮮食品は市内の商店や地元の農家から調達でき、こうして新鮮でおいしい学校給食が実施できることになりました。現在、市の給食費の総支出額の33%、約3億3000万円が市内の業者に支払われ、地域経済の振興にも役立っています。

 その後の新設校はすべて自校方式で運営され、小学校21、中学校11の合計32校すべてで「自分たちでつくった学校給食」の思いが実現しました。78年から調理士として携わってきた菅千代子さんは「自校方式実現後、街中で『給食おいしかったよ』と声をかけられました」と振り返ります。

 また、当時から輸入食品、添加物、着色料などが給食に多く使われ、問題にもなっていました。よりよい給食の実現をめざそうと、84年には「草加・子どもの健康と学校給食を考える会」が発足しました。

 85年からは、当時の文部省が「学校給食業務の合理化」の方針を出し、全国的に民間委託の方向が進むなか、88年に市民アンケートを実施。92%が「とってもおいしい」と答える一方、「熱くて持てないアルマイトの食器を改善してほしい」「草加の野菜を給食に」などの率直な意見が寄せられました。

 「考える会」は、市民と一緒になって運動を続け、91年には全小学校、翌年には全中学校で強化磁器の食器が実現。草加市のシンボル「草加松原」の絵柄が入ったオリジナルの磁器食器になりました。郷土愛を育み、割れるかもしれない食器を大切に扱うという食育の一環としての役割も果たしています。

 地元農産物の活用で農業の振興と食育に貢献

 「草加の学校給食のよさは、地元の野菜や果物が活用され、農家とともに歩んでいることです」。菅さんは胸を張ります。1993年に全小学校での地元産の枝豆が提供されるようになりました。当初は、市は「草加の枝豆は築地の料亭に行くのだから学校給食なんて無理」という姿勢でした。しかし、築地に行くのは3粒そろったさやだけで、「それならばそれ以外を学校給食に」ということになりました。

 今では子どもたちが苗を植えに来て、収穫にも来て、「お父さんのビールのおつまみの枝豆より給食の枝豆の方がおいしい」と言われるように。10年後には、小松菜の使用も始まるなど、地元産の活用が広がっています。

 「採れた野菜の3割ほどを学校給食に納めています。給食を通じて、地域、地元と密接に関わりながら農業ができ、地域の人に食べてもらえる。これが学校給食のよさです」。東武線草加駅から徒歩10分ほどの農地で少量多品目の都市農業を営み、市内の学校に野菜、果物を提供している中山拓郎さん(46)は、笑顔で語ります。

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学校給食に食材を提供する中山さん

 20年ほど前に、家のすぐ隣で調理士をしていた菅さんたちから声をかけられ、その学校への納入が始まりました。中山さんだけでは足りなくなり、「学校給食応援農家」として今では10軒ほどの農家が学校給食に出荷しています。地場産は32品目に増え、地産地消率は25%程度になりました。

 枝豆のほか、キャベツ、大根など自らも農作物を学校に届け、配達が終わってから農作業と自らが営む直売所の運営に携わります。中山さんの農場には、納入している学校の児童をはじめ、父母や家族連れが収穫体験に訪れ、市民との交流も中山さんの楽しみの一つになっています。

 草加の学校給食の魅力を伝えるパンフレット『ひろがれ、おいしいにおい』は今年で29刷を数え、考える会が編集し、23刷目からは市教育委員会が費用負担しています。

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市教育委員会が発行するパンフレット『ひろがれ、おいしいにおい』

 菅さんは「草加のおいしい給食で、心も体も健康な子どもに育ってほしい。地域に根差した草加の“安全・安心の手作り給食”が今後も発展していくよう運動を続けます」と展望しています。

(新聞「農民」2019.11.25付)
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