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これでいいのか!? 農業基本法改定案

食料自給率向上切り捨て
―この道は飢餓への道

 食料・農業・農村基本法の改定案の審議が国会で始まりました。気候危機やウクライナ・ガザ侵攻のなかで国連が「戦後最大の食料危機」を宣言する状況のもと、これで日本の食料自給率は向上し、食と農の危機は打開できるのでしょうか。

(1)食料自給率向上の放棄

 改定案の最大の焦点は食料自給率の向上です。自民党政権が農産物輸入自由化を次々に進めてきた結果、食料自給率は無残なまでに低下してきました。(図1)

 しかし、基本法改定案はまったく反省なし。それどころか、「食料自給率の目標」を「食料安全保障の動向に関する事項」に変えて食料自給率の向上を最大の目標からはずし、自給率向上を放棄することをねらっています。

 ①「自給率目標」を〝いろいろある指標〟の一つに格下げして二の次、三の次の目標にする

 ②自給率向上を政府の「指針」ではなく、国民の努力すべき課題にすりかえる

 ③食料危機の事態には、有事食料法案(食料供給困難事態対策法案)で、罰則をふりかざして農民に作物転換(花・牧草からイモへ)、国民には食料の「割り当て・配給」を押しつける

(2)〝イザという時は、1日イモ3食〟?

 日本の食料自給率は世界最低水準。国民が命を保つうえで必要なカロリー自給率は名目上38%ですが、農業生産に必要な肥料、飼料、野菜の種子、石油の90%前後は輸入依存です。これらが輸入できなくなった場合の自給率は10%です。

 政府が示している〝イザという時の食事メニュー〟は、「1日イモ3食、米は1日1食、おかずは野菜、魚は1日1回、肉と卵は1カ月に1回」という悲惨なものです(図2)

 改定案は、「不測時における措置」を新設し、あわせて有事食料法案を提出しています。

田植えの季節。生産の喜びを実感できる農政に

 「特に深刻な段階」では、カロリー重視の生産転換(イモ、米)を生産者に指示し、従わないと20万円以下の罰金。加工・流通業者も取り締まる流通統制、配給制度も実施。

 岸田政権が進める「戦争をする国づくり」と軌を一にした、「いざというときは農家にイモを強制的に作らせ、国民はイモを食べて飢餓に耐える」という「戦時食料法」そのものです。

今こそ食料の増産を
食と農の再生に役立つ基本法に

食料自給率向上を求める署名の提出集会=3月13日

(3)食料輸入大国日本、さらに輸入拡大―一方で〝食品輸出〟?

 現行基本法は、「国内の農業生産の増大を図ることを基本とし、これと輸入及び備蓄とを適切に組み合わせて」としながらも、国内農産物の増産をさぼり、輸入拡大と自由化を続けてきました。

 改定案は、「安定的な輸入の確保」という条文をわざわざ新設し、輸入をさらに増やすため、輸入相手国への投資と支援を促進することまでうたっています。

 一方、人口減少が進む日本では、農産物の輸出促進こそが農業の展望を切り開くとして、輸出に血道をあげることを表明。

 政府は「農林水産物輸出額が1兆円突破」と騒いでいますが、輸入農林水産物の総額は13兆円とケタ違いです。いざという時は、輸出農産物を食べろと言われても、まったく頼りにはなりません。

(4)新規就農支援は待ったなし―だけど対策はゼロ

 農家の高齢化が進み、日本の農の担い手は59歳以下が24万人(20%)、一方、75歳以上は42万人。しかも農家の7割は後継者不在です。新規就農支援は待ったなしの課題です。

 政府は「今後20年間で、農の担い手は現在の120万人から30万人に減り、農と食の持続性を確保できなくなる」と言いながら、若い担い手確保対策は放ったらかしです。

 改定案が示している政府の対策は①農民のかわりにロボットやドローン、AI(人工知能)を使う「ロボット農業」でしのぐ、②国民にはコオロギなど昆虫や遺伝子組み換え・ゲノム編集食品、人工肉を食べてもらう――の2つ。

 農民のいないロボット農業や、1日イモ3食に加えて昆虫や人工肉まで食べさせる――こんなやり方で危機を打開できるはずはありません。

 食料を大企業のもうけの道具にするだけです。

(5)価格保障・直接所得補償の充実を

 農の危機、担い手不足を打開するうえで、生産コストに見合う価格を実現することはキーポイントです。しかし、平均的な稲作農民の時給は、なんと「10円」(表)です。

 1日1~2食しか食べられない人々の増加や物価高騰を直視し、農民連は「価格保障+価格転嫁+直接所得補償+公共調達」の4点セットを提起し、農村で暮らしていける所得を国が保障することを要求しています。

 しかし改定案は、農家の赤字補てんのためにアメリカ・EUでは普通に行われている財政負担をともなう価格保障や所得補償をあくまでも拒否し、検討するはずだった価格転嫁の法制化も見送りました。

 いま国連「家族農業の10年」の真っ最中です。この時期に改定される農業基本法にふさわしく、後継者を育てて家族経営が活躍し、自給率を向上させる政治への転換が求められます。

(6)食料自給率向上署名を広げて、食と農の再生に役立つ基本法に――農民連は呼びかけます――

 「基本法改定のあとで、基本計画で具体化すればいい」という意見もありますが、自給率向上を放棄する改定を許してしまったら後の祭りです。

 私たちは、政府の改定案を廃止し、国民と野党の共同、消費者と生産者の連帯を強めて、真に明日の食料・農業・農村の再生に役立つ基本法を求めます。食料の増産に足を踏み出すため、大軍拡をやめ、諸外国に比べて極端に低い農業予算の倍増を要求します(図3)

 「食料自給率向上を政府の法的義務とすることを求める署名」にぜひご協力ください。