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なぜ全量転換なのか

生産者と消費者の権利を侵害
あきたこまちR問題考える学習会
県は方針の見直しを

パネル討論では様々な立場から意見が出されました

 秋田県は2025年産から県内で作付けする「あきたこまち」をカドミウム低吸収性の「あきたこまちR」に全量置き換えることを決定しました。この決定に対し不安や疑問の声が上がっています。生産者・消費者団体などで作る「あきたこまちR」問題を考える実行委員会は3月29日、東京都内で「『あきたこまち』をどう守る? 東京集会」を開催し、県の方針の問題点などを明らかにしました。

汚染対策は他のやり方ある

 「カドミウムの汚染対策はほかのやり方でもできる」と指摘したのはOKシードプロジェクト事務局長の印鑰(いんやく)智哉さんです。
 印鑰さんは第2次世界大戦前からの無理な鉱山開発がカドミウム汚染の原因と指摘。富山県神通川流域のイタイイタイ病被害後、神通川流域では汚染対策が行われましたが、その後の対策が不足し汚染地域が残っているにもかかわらず国はカドミウム低吸収米の導入を推進。国策の結果の汚染対策から手を引こうとしています。
 「有機質たい肥の投入で吸収が減るという研究結果もあり、またインドの在来種で吸収したカドミウムを根にため込み、米に移行させない品種もある」と紹介し、汚染土壌の改善も含めた根本的対策こそが必要だと批判しました。

発言する齋藤さん

全量切り替えが問題の本質だ

 「この問題の本質は『あきたこまちR』が安全かどうかではなく、全量を切り替えることにある」と話すのは秋田県立大学教授の谷口吉光さんです。
 全面切り替えによって、生産者はこれまでの「あきたこまち」を作付けする権利を奪われ、消費者は選ぶ権利を奪われることになります。
 県内では、全面切り替え計画の延期を求める署名8千人分が提出されたほか、「食の市民自治」の学習会が各地で開催されています。秋田県有機農業推進協議会も計画に反対の意見を表明。従来のあきたこまちの作付けを呼びかける運動などが展開されています。
 「食をめぐる問題は、地域で市民が集まって団体を作り、自分たちの望む『地域の食』を実現するために行動しなければ解決しません。私も県立大の教員だからこそ、この問題を止めなければならないと考えています」と谷口さんは話します。

県全体の米生産にも大きな影響

 また全量切り替えで県全体の米生産にも大きな影響が出る可能性を指摘したのは河田昌東さん(遺伝子操作食品を考える中部の会・分子生物学者)です。
 「あきたこまちR」の遺伝子は必須元素のマンガンを吸収するたんぱく質を作る遺伝子の、一つの塩基が欠損しています。そのためマンガンと、マンガンに似た性質のカドミウムの両方の吸収が抑制されます。マンガンの少ない土壌では収量の減少や、ゴマ葉枯れ病に弱くなります。
 また、同様の品種を中国が遺伝子組み換えで開発し、研究しています。それによると、同品種は開花期の高温で収量が20~30%も減少したとのことです。温暖化が進む中での全量転換は県農業と生産者に大きな損害を与える恐れもあります。

種子の更新で新たな負担発生

 毎年種子を購入するため農家と消費者両方に負担が増える恐れもあります。
 日本有機農業研究会副理事長の久保田裕子さんは、「あきたこまちR」は登録品種であることや、カドミウムの低吸収性は劣性遺伝子で、ほかの品種と交配すると特性が失われることから自家採種ができず、毎年種子更新が必要だとしたうえで、「種子更新には許諾料や特許料が発生し、転換した農家の負担増と、消費者価格の上昇の両面で影響が出る可能性がある」と懸念を示しました。
 秋田県有機農業推進協議会会長の相馬喜久男さんが、「県の担当者も呼んで、大潟村で勉強会も行い、反対の声明を出した。県に従来の『あきたこまち』の種子を供給してもらえるよう働きかけを重ねている」と話すように農家や消費者の声が県の姿勢を押し返しつつあります。
 農民連の齋藤敏之常任委員は「秋田県の方針は食料・農業・農村基本法の改定で、輸出戦略が位置付けられたこともかかわっているのではないか。国連が採決した『農民の権利宣言』でも、本来一人一人に種子や食べ物を選ぶ権利があると明記している。県の方針を撤回し、希望する農家に『あきたこまち』の種子を供給するよう求めていきたい」と決意を述べました。