新聞「農民」
「農民」記事データベース20201214-1437-05

いまこそ要求で広く農民と結びつき、
国民の期待に応えられる農民連を!

農政を国連「家族農業の10年」の
方向に転換させるチャンス!
(3/10)

農民連第24回定期大会議案
2020年12月3日 農民運動全国連合会常任委員会

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(1)WTO農業協定の廃止と新食料協定交渉の呼びかけ

 「国連食料への権利特別報告者」に就任したマイケル・ファクリ氏は、20年7月の報告書で、WTO協定の廃止と、尊厳・自給・連帯に基づく新たな食料協定の締結を求めました。

 日本政府は、WTO農業協定を絶対視し、国内での生産を縮小させながら、農産物輸入自由化を無限に拡大していますが、報告は、WTO農業協定が国際市場・国内市場の安定化をもたらさず、大企業を守り、極めて不公正な状態を固定化していると鋭く批判しました。

 TPP(環太平洋連携協定)などの自由貿易協定についても、貧しい民衆の生活の改善につながらず、各国間の不平等な関係を再固定化していると指摘しました。

 その上で、WTOや自由貿易協定が敵視または無視している価値である尊厳・自給・連帯を基盤にする新しい国際食料協定を求めています。

(2)成長偏重の見直しを求める

 報告が経済成長偏重の見直しを求めていることも注目されます。

 その主な理由に気候変動をあげ、気候変動による干ばつの悪化、極端な気象の増大、天候パターンの変化が食料の生産・流通・消費のあらゆる段階に影響を及ぼすとして、「食料に関わる成長中心のパラダイムを見直すよう各国に求める」と述べました。また、経済が成長してもその恩恵を得られない人々が存在し、経済成長イコール飢餓や貧困の根絶とはならないことも指摘しています。

 日本政府や大企業が絶対視するWTOや自由貿易協定、経済成長偏重を国連の食料の専門家が、きっぱり否定する――これが、新しい国際的な潮流です。家族農業重視とアグロエコロジーへの転換はこうした流れの中で不可避的な方向として求められています。

V 私たちをとりまく情勢とたたかい

1.安倍・菅農政とのたたかい

(1)「安倍農政改革」とは何だったのか

 「安倍政治」は、立憲主義、民主主義を踏みにじり、暮らしと経済を破壊する戦後最悪の政治でしたが、とくに農業・農政の分野では、TPP、日米貿易協定、日欧EPA(経済連携協定)を次々に結んで戦後最悪の自由化政治を強行し、これに邪魔な家族経営を守る政策を破壊する「安倍農政改革」を強行してきました。

 眼目は「民間企業が障壁なく農業に参入できるようにする」「日本を世界で企業が一番活躍しやすい国にする」ことであり、そのためにやってきたのは、次のような悪政の数々でした。

 (1)家族経営を農業から追い出し、企業などに農地の8割を集中させる、(2)家族経営の協同組合である農協をつぶす、(3)戸別所得補償を廃止し、米の生産調整を農家の自己責任にして米価暴落を促進する、(4)命の源である種子を大企業に明け渡す、(5)農産物の輸入を完全に自由化し、食料自給率を引き下げる、(6)日本を世界3位、5兆円の食料輸出国にする。

 農民連は「デタラメ」改革に正面から反対してたたかいました。その結果、安倍農政改革は、目標を何一つ達成できないままで終わりました。しかし、食料自給率は戦後最低になり、販売農家戸数は3分の1に落ち込み、米価下落が続くなど、日本の農と食に重大な「負の遺産」を残しました。

(2)「安倍継承」の菅政治に未来はない

 菅政権の看板は「安倍政権の継承・発展」です。菅首相は「外国人観光客の誘致、農産品の輸出促進、観光や農業改革によって活力ある地方をつくる」と繰り返しています。しかし、この方向に未来はありません。

 第一に、コロナ禍のもとで、外国人観光客や食品の輸出が地方活性化の決め手にならないことは明らかです。20年4〜8月の訪日客は前年比マイナス99・9%、食品の輸出目標5兆円に対し19年の実績は0・9兆円で、コロナ禍によって輸出はさらに落ち込んでいます。

 菅政権の目玉戦略である食品輸出計画は、25年までに牛肉を5・4倍に増やすとし、牛肉やリンゴ、イチゴなどの増産分をそっくり輸出に振り向けようとしています。しかし、牛肉はコロナ禍で輸出と外食需要が激減し、牛肉の価格安定制度(マルキン)の破たんも放置したままで、和牛・輸入牛肉在庫の増加に打つ手なしというのが実態です。輸出をあてこんでの増産は夢想にすぎず、逆に自由化で国内の農産物市場は輸入食品に根こそぎ奪われ続けているのが現実です。

 第二に「菅農政」が描く青写真は何か。菅首相の“新自由主義の師”であり、官邸直属諮問機関メンバーである竹中平蔵氏(人材派遣大手パソナグループ会長)と新浪剛史氏(サントリーホールディングス社長)らが、安倍政権発足直後に産業競争力会議に提出した意見書が青写真の原型と見ることができます。

 意見書は(1)食料自給率にこだわらないで輸出農業に特化し、農産物輸出世界第3位をめざす、(2)企業の農業参入を全面的に自由化する、(3)経営規模50ヘクタールを実現する、(4)中山間地農業をつぶすこと――を要求しました。

 これは農村から家族経営を根こそぎ追い出し、中山間農業をつぶして、自給率を大幅に引き下げ、食料の海外依存をさらに強めるという宣言にほかなりません。

 市民と野党の共通政策の元になる「市民連合」の要望書は、菅農政に対する明確な対案です。野党連合政権を誕生させ、家族農業を基調とする農業政策を実現しましょう。

(3)価格・所得補償の充実で食料自給率向上を――農民連の対案と要求

 (1)米価暴落のもとで

 21世紀に入って、米価が生産費を上回ったのは大凶作だった03年だけという異常事態が続いており、コロナ禍による米価暴落のもとで、いま、生産費を償う価格保障の復活は切実な課題です。

 現在ある制度――収入減少影響緩和(ナラシ)対策や収入保険などに共通するのは、(1)生産費を無視しているため市場価格の下落につれて補てん水準が下がり続けること、(2)農家に過大な負担を押しつけていること、(3)農家を選別していること――です。

 農水省の試算(10月27日)によれば、米価が1000円下落した場合、ナラシ対策による補てんは1俵(60キロ)353円にすぎません。しかもナラシ対策の加入経営体は6・8万で、稲作経営94万の7%にすぎず、9割以上の農家は米価下落の打撃をもろに受ける状態に置かれています。

 WTOのもとで「“生産刺激的”な価格保障から直接所得補償へ」が世界的な流れであるかのように言われていますが、真相は全く違い、欧米諸国は最低価格保障を維持しています。

 アメリカは生産費を基準にした価格と市場価格との差額を補てん(不足払い)する「不足払い制度」を復活させ、EU(欧州連合)も市場が暴落した場合に国家が買い入れを行う「介入価格制度」を維持しています。これらの制度は生産費が基準で、農家負担も選別もありません。

 自給率が異常に低い日本こそ、“生産刺激的”な政策を禁ずるWTO言いなりをやめ、生産費を償う価格保障をベースにした価格・所得補償を充実させて食料自給率向上をはかるべきです。

 (2)価格保障についての農民連の提案と要求――コロナ禍の教訓を踏まえて

   ◆「不足払い」制度の実現を
 主な農産物に家族労働費を含む生産費を基準にした価格と市場価格との差額を補てんする「不足払い」制度を、欧米並みに農家の負担なし、選別なしで実現することを要求します。自給率の低い作物への転作条件を整備し、生産調整の押しつけをやめてこそ、自給率向上への道を開くことができます。

   ◆コロナ禍の教訓を踏まえて過剰対策を
 需要が著しく減少したコロナ禍の教訓を踏まえて、次の対策を要求します。

 (ア) 需要減に見合った輸入コントロール(輸入枠、関税の調整)。

 (イ) 需要減分を政府が買い入れ・備蓄し、あるいは在庫保管への支援を行う。買い入れた食料は備蓄のほか、国内外の生活困窮者などへの支援にあてる。これは、欧米では当たり前に実施されている。

   ◆戸別所得補償制度の復活を
 民主党政権がスタートさせ、安倍政権が廃止した戸別所得補償を野党連合政権の力で復活させましょう。戸別所得補償制度の「固定支払い」は恒常的に生産費を下回っている米価の底支えの役割を果たし、「変動支払い」は価格下落時に市場価格と生産費の差額を補てんする事実上の「不足払い」制度でした。市民連合も要求する戸別所得補償制度の復活は本格的な価格保障の確立・復活の足がかりの役割を果たします。

(新聞「農民」2020.12.14付)
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