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トランプ関税 "全世界標的"に衝撃と怒り アメリカのねらい「次は米」 経済主権・食料主権を尊重する新たな貿易ルールを(2025年04月21日 第1647号)

「被害妄想」にもとづく一方的な宣言

トランプ米大統領

 全世界を標的に一方的に関税を課すトランプ米大統領のやり方が世界に衝撃と怒りを広げています。
 トランプ大統領は4月2日、「アメリカはあらゆる国家から略奪され、ぼったくられてきた。貿易赤字や国内産業の空洞化を『国家の緊急事態』と認定し、大統領権限で関税を発動する」と宣言しました。「アメリカは世界から搾取されてきたという被害妄想」(「日本経済新聞」4月1日)にもとづく一方的なやり方です。
 トランプ関税は(1)中国とカナダ・メキシコに20%~25%、(2)全世界からの自動車と鉄鋼とアルミニウムの輸入に25%の関税を課したのに加え、(3)アメリカに貿易黒字を持つ「最悪の違反者」に報復する「相互関税」をかけるというもの。
 「相互関税」は、すべての輸入品に一律10%の関税を課した上で、各国の“違反度”に応じて上乗せ関税をかけるもので、たとえば日本は24%、EU(欧州連合)は20%、中国は34%です。
 これに対し、ノーベル経済学賞を受賞したポール・クルーグマン氏は「相互関税は完全に狂っている」と痛烈に批判しています。こんな狂ったやり方で世界を「貿易戦争」に巻き込み、物価高騰と大不況の同時進行(スタグフレーション)に突入させるトランプ関税に毅(き)然と抗議し、撤回を求めるべきです。

暴走と迷走

 トランプ大統領は発動のわずか13時間後の9日、上乗せ関税の90日間停止を発表するなど、迷走ぶりをあらわにしています。株式と通貨、国債が下がる「トリプル安」で軌道修正を迫られたものですが、さらに11日には政府がスマートフォンとパソコンの関税除外を打ち出したかと思えば、大統領が打ち消すというドタバタぶりです。
 一方、対中国関税は145%に引き上げ、“米中貿易戦争”を宣戦布告。
 トランプ関税への対抗措置をとらない国には2国間交渉をもちかけ、ディール(取引)に引きずりこむことをねらっています。

米主導の自由貿易ルールを自ら破壊

 トランプ氏が問題視する貿易赤字と産業の空洞化を招いたのは、他ならぬアメリカ自身です。アメリカ主導の「自由貿易」体制のもとで、巨大企業は低賃金・低税率地域に工場や資金を移して莫大な利益を上げ、各国の国民に貧困と格差をもたらし、アメリカをも直撃しました。
 アメリカ主導の自由貿易ルールの行き詰まりは明白であり、多国間の協調によって是正すべきですが、トランプ氏の打開策は「他国の不公正な貿易慣行が原因だ」と決めつけ、筋違いの一方的な関税措置を強要するという乱暴なものです。米ハーバード大のケネス・ロゴフ教授は「トランプ氏は世界貿易システムに核爆弾を落とした」と批判していますが、同時にトランプ関税はアメリカ国民にも跳ね返ることは明白で、「自爆テロ」ともいえるものです。
 現に10年間で6兆ドル(約873兆円)の関税収入を見込んだはずが、トランプ・ショックでわずか2日間でニューヨーク株式市場の時価総額は6・6兆ドル減っています。

「牛を取られて車は取れず」

 同時に重大なのは、トランプ第1期(2017年1月20日~21年1月20日)政権時の日米貿易交渉をめぐる経過と今後の問題です。この時もトランプ政権が自動車関税25%で脅し、安倍政権はこれを回避するために日米貿易交渉にひきずりこまれました。結果は無残なものでした。
 牛肉関税は38・5%から9%に引き下げ、豚肉も1キロあたり482円から50円に引き下げて、ほぼ関税ゼロ状態という譲歩に追い込まれました。そのかわりに、アメリカの自動車関税(2・5%)撤廃を求めましたが、アメリカは拒否。まさしく「牛を取られて車は取れず」でした。
 この時のアメリカの戦略は(1)関税撤廃・削減による米国産農産物の輸出拡大、(2)米・麦・乳製品などの国家貿易の撤廃でしたが、(2)は積み残されました。

「次は米」--アメリカの狙い

都内のスーパーで“お試し販売”されていたアメリカ産米

 第2次トランプ政権は、本丸中の本丸である米と乳製品に照準をしぼっています。脅しの武器は相互関税24%+自動車関税25%に加えて、軍事費GDP(国内総生産)3%への拡大要求です。
 トランプ関税発表直前の3月、アメリカ政府は2つの報告を発表しました。
 (1)国際貿易委員会が発表した「米リポート」は、日本の米関税は793%だと言いがかりをつけたうえで、ゼロ税率になればアメリカの米輸出は10万トン増えるとはじいています。
 (2)通商代表部発表の「貿易障壁報告書」は、米高騰の中での外米輸入拡大の動きに目をつけ、“アメリカ産米輸出拡大のチャンス”だとあおっています。
 関税+軍事費戦略について、日経新聞(4月1日)は次のように指摘しています。「関税で米国市場への“ただ乗り”を止める一方で、米国の防衛に大きく頼る同盟各国には安保負担増を求め、通商面でもより多くの譲歩を求める圧力を強めるに違いない」
 自動車の輸出を守るために農産物が次々と犠牲になってきたのに加えて、今度は軍事費拡大圧力をからめて農産物が犠牲になるという構図です。
 こういう二重三重に不法なごり押しで自国利益を追求するトランプ政権のやり方は各国の批判と反発を招き、アメリカの孤立と“落日”は鮮明になっています。
 日本との交渉を担当するグリア通商代表は8日、農産物の輸出拡大などの譲歩を求めて水面下で日米協議を行っていると明らかにしました。石破政権が、取引の「交渉材料」に米や乳製品を差し出すことは断じて容認できません。
 今こそ、アメリカの顔色をうかがうだけの外交をやめ、各国の経済主権・食料主権を尊重する新たな貿易ルールの構築が求められています。