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持続可能な農業へ〜生産者と消費者で未来を語り合った!農民連青年部 夏の学習交流会in九州・福岡(2025年09月15日 第1666号)

病害虫、高温障害…地球沸騰化が農業直撃
地域資源生かし、技術や工夫を模索する青年たち

 8月27、28の両日に福岡県で開催された農民連青年部夏の学習交流会in九州・福岡。約40人の生産者や消費者、学生などが集まり、農の現状と未来を語り合いました。27日は温暖化をテーマに福岡市でシンポジウムを開催。28日は同県糸島市の生産者、松崎治久さんのほ場を見学しました。

シンポジウム 夏の暑さで農業はどうなる?どうする?

全員でパチリ

 シンポジウム「夏の暑さで農業はどうなる?どうする?~九州で持続可能な農業生産を消費者とともに」では生産者2人と消費者、農民連の役員の4人のパネリストが報告しました。

福岡県糸島市で米・麦・大豆を生産
株式会社 百笑屋
松崎治久さん

大豆は播種早め日照時間を確保

 お米は温暖化によりカメムシ被害による不稔、着色が増加し雑草管理を徹底。またニームオイル使用に昨年から挑戦しています。斑点米は色彩選別で対応しています。米の苗はポット育苗で苗を固くし、ジャンボタニシの食害を防ぎ、雑草だけをタニシに食べてもらいます。
 米作りの特徴のもう一点は堆肥の使用です。500平方メートルと700平方メートルの堆肥舎を建設。近隣の畜産農家からふんを分けてもらい、わらくずや乾燥機の集じん、ジビエ解体時の内臓や骨、竹のチップなどを混ぜています。金銭的にはまだ化学肥料を使う方が安く、長い目で見て堆肥舎の建設費用をペイできたらと思っています。
 大豆は早めに中耕を行い、9節くらいで摘心しています。九州は9月頃に台風が来るので、丈が高いと倒伏のリスクが高まります。また9月以降の日照がここ数年で低下している傾向にあり、早めの播(は)種と摘心で開花期以降の日照時間確保も狙っています。
 「糸島ビアファーム」という取り組みを2010年から始めて今年は15回目になります。九大の先生と「畑で取れたての枝豆でビールが飲めたら良いな」と話したのが事の発端です。毎年500人くらいのお客さんが来ます。
 消費者に現場を知ってもらえる機会を多く作ることがこれから生き残っていくために必要だと思っています。

佐賀県白石町で米とイチゴを生産
佐賀県農民連事務局長
川崎五一さん

高温でイチゴの年内出荷難しく

パネリストの話に聞き入る参加者

 4年前から妻の実家の白石町で米とイチゴを作っています。非常に作りにくくなっていて「いつまで続けられるか」というのが多くの農家の共通の思いではないでしょうか。
 今年の田植えで初めて経験したのが、藻の大量発生です。藻が苗の上に載ってしまい稲を抑えてしまいます。すべて稲が消えてしまった田んぼも多く出ています。
 佐賀の田んぼは比較的1枚の面積が広く、排水口近くでは水温が43度を超えていました。田植えが遅かった田んぼが、全部枯れてしまう被害が出ています。
 イチゴはこれまで、9月初めの気候で秋を疑似体験し、花芽がつくよう品種改良されてきました。しかし夜温の上昇で、年内の収穫が難しくなり、従来の作り方ではできなくなりつつあります。
 大豆の産地でもあるのでヨトウムシが大発生し、イチゴの芯を食べられてしまう被害の発生や、新たな病気で産地の崩壊も起こりえます。
 高温対策として遮光資材をかぶせたうえで、日が当たっていない方角を巻き上げ、できるだけ通気を良くしています。それでもハウス内は直射日光が当たっていない場所でも36度くらいになっています。
 バイオスティミュラント資材の活用で植物自体の耐熱抵抗性を上げることや、扇風機による通気性の向上や霧状の水を噴霧して気化熱で温度を下げるなどもしています
 イチゴは耐熱性の品種改良がメインになってくると思いますが、クーラーの導入かトロピカルフルーツへの転換を検討せざるを得ないかもしれません。
 田んぼから出るメタンガスなど、農業自身も温暖化に寄与する側面があります。自分たちが加害者になりうるということを意識しなければという危機感が、ここ1年ぐらいで強まっています。

一般社団法人グリーンコープ共同体代表理事
日高容子さん

生産者の努力を理解して価格に

 温暖化への取り組みのきっかけは組合員からの手紙でした。
 生産者と話し合う機会を設け、生産者がどう感じているのか、苦労などをお聞きしました。学習会や理事会での議論を重ね、待ったなしの課題として受け止め私に何ができるのかを考え2023年に「2027カーボンニュートラル」運動方針を作成しました。1日で地球1周できる距離を走っている配送トラックの電気自動車化や再生可能エネルギーによる発電の推進、マングローブの植林など実施しています。
 産直事業では「生産者と手をつないでいきます」「日本の農業を守り、食料の自給率の向上をめざします」などを掲げて取り組んでいます。
 カタログでは生産現場の声を伝え、猛暑で規格外の野菜が発生しても、価格を下げずに販売をしています。農薬などの厳しい基準を守って生産を続けている生産者の努力で、私たちは安心安全な農産物を手にすることができています。だからこそ再生産可能な適正価格で通年取引をしています。
 さまざまな課題が多くありますが、何ができるか、ともに考えて、これからも進んでいきたいと考えています。

農民連事務局次長
来住誠太郎さん

地域に根ざしたあり方の農業を

 アグロエコロジー(生態系の力を生かした持続可能な農業)を目指さないと気候危機に対応できないのではないかと、2023年2月に「農民連アグロエコロジー宣言(案)」を発表しました。
 世界の7割の食料を作っているのは、資源の25%しか使っていない小規模・家族農業であり、地域に根差した規模の農家、特に若い世代が重要です。
 令和の米騒動でも実際、国の無責任な米政策と水害、高温による不作などで「お米が足りていない」のです。政府は増産を言い始めていますが、畑にしてしまった田んぼを戻すのは容易ではありません。政治を変えることが必要です。
 国土の7割が山の日本では山間地の農業が重要です。地域に根差した農業の在り方を消費者と一緒に話し合いをしていきたい。
 この状況で日本の食料を支えていること自体が価値のあることで、慣行農法の農家を差別するものではありません。すべての農家とどういう社会にするのか話し合っていくのが農民連の役割だと思っています。そうはいっても年配の方が長年の慣習を変えるのは難しいので、若い世代が先頭に立っていってほしい。そのために努力をしていきたい。

地域農業の継続に支援策強化を

 討論では各地からの参加者が、自分の状況や感想、質問など話し合いました。
 山形県の阿倍佑一さんは「複合経営をしていますが、農業部門がなかなか安定せず、従業員の募集をしてもなかなか集まらない。雇用の維持はどう工夫をされているのでしょうか」と質問。
 松崎さんは「スタッフは6人います。糸島地域には未活用の有機質資材が眠っており、百笑屋が堆肥化して耕種農家に還元し、堆肥利用率を上げて、畜産農家も喜ぶ取り組みのハブになってくれないかと言われています。ここでスタッフの給料を生み出せたらと考えています」と回答。また機械修理や林業など農業以外の分野も取り組んでおり「模索し続けることが大切。僕は『中継ぎ投手』で地域を回して、次の世代がプレーしやすい土台を作るのが本筋ではないかと考えています」と答えました。
 川崎さんは「『百姓』は言葉通りすべてのことをできた方が便利で、自分も配管など自分でやっている」と話しました。
 また、米価に対しては「農家は米を高く売ることに罪悪感があるように感じる。しかし自分の販売価格が備蓄米の売り値以下でありこれは適正価格なのかと疑問も出てきた。農家の適正価格と消費者の意識にかい離があるように思う。そこが解決すれば農家の経営はある程度成り立つのではないか」と提起。
 それを受けて来住さんは「低米価が米農家を減らした。また災害もあり、どうしても収量が一定にはならず、所得補償や価格保障が必要。今の補助金は機械や施設の導入など、借金とセットになる。そうではなく数量や面積に対する補助で若い人が入りやすくする必要がある」と農政の転換を提起しました。
 日高さんは「自然相手で予測しないことが起こることは本当に深刻だということをあらためて感じました。やはり適正価格が大切です。ちゃんと実態を理解して買うことと、そのための話し合いが大切です」と消費者の理解を広げることの大切さを述べました。


現地視察 株式会社百笑屋
畜産県ならではの家畜堆肥で土づくり
貴重な話 地域に帰って生かしたい

倉庫いっぱいのトラクター

大豆畑で説明する松崎さん(右)

1・1ヘクタールの大豆畑は花ざかり

 株式会社百笑屋の乾燥調製施設や堆肥のペレット化施設、農薬散布用ドローンやトラクター、堆肥舎とほ場などを見学しました。
 3台の穀物乾燥機(80石、45石、45石)で28ヘクタールのうち25ヘクタール分を乾燥させます。玄米は低温貯蔵庫に保管します。玄米はJA糸島で玄米色選をかけますが、色彩選別を行わなかったものは精米後に自前で色彩選別を行います。
 「近くのコンクリート工場から現場で余ったコンクリートが出ると連絡が来ます。それをもらっ
て、敷地内の舗装も進めています」と松崎さん。
 ポット苗の苗箱も紹介し、1枚448穴の箱を10アール当たり32枚(ヒノヒカリ)使用。ミルキークイーンになると40枚ほど必要になります。「28ヘクタールだと通常の苗箱では6000枚で足りるところ、1万枚必要になりますが、苗が太く硬く育つのでジャンボタニシの食害を抑制し、穂首が太くできるので粒数も増やせます」
 松崎さんは自家製堆肥のペレット化にも挑戦しています。「2023年度の福岡県の補助事業で200万円ほどの機械を導入しました。1時間で100キログラム弱しか加工できないので、農家向けではなく、プランターなどの家庭菜園用に1キログラム単位で販売を目標に試作中です」

自家製堆肥の発酵促進に工夫

 畜産が盛んな地域で、豚ぷんをメインに牛ふんや鶏ふん、乾燥機の集じん、ジビエの内臓や骨を加えています。「うち1軒ではまだまだ使いきれません。今は堆肥舎に空きが出たら、向こうから持ってきてくれるようになっています」
 堆肥にはにおいの対策も付きものですが、「特に空調はつけていません。その代わりマグネシウムと二価鉄が含まれる液体を堆肥に混ぜ好気性菌に酸素を供給。2週間に1回程度切り返して、発酵を促進し3カ月ほどで、においはなくなっています」と工夫を紹介。
 農機具倉庫には所せましとトラクターなどが置いてありました。ネットオークションなどで落札し自分で修理したり、知り合いから古いトラクターを譲ってもらうなどもしています。
 松崎さんのお米を西南大学の野球部におにぎり用に提供する代わりに手伝いに来てくれています。大豆の草刈りなどをお願いしています。
 大豆畑には九州大学との共同研究用の日照時間や地温などの観測装置が置かれ、継続して計測していました。
 「うちは納豆に加工までしているので続けていますが、農協に出荷して補助金をもらっても面白くない程度の収入しかなく、作る人が辞めているのが国産大豆の現状ではないでしょうか」と松崎さんは話します。
 視察後の感想交流では「貴重な話が聞けた。地元に戻って周りに伝えたい」と意欲的な感想が相次ぎました。