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国産の豚肉を食べ続けてほしい 国は現場に寄り添った政策を(2025年09月15日 第1666号)

猛暑・豚熱・飼料用米削減で 困難続く養豚の現場から

群馬 県農民連副会長
上原 正(下仁田ミート(株))

猛暑で豚の出荷頭数が減少

豚の世話をする下仁田ミートの従業員
(上原さん提供)

 毎日暑い日が続いていますが、群馬県伊勢崎市では8月5日に気温が41・8度になり、日本最高記録を達成しました。
 豚は体温調節機能を担う汗腺が退化しており、皮が厚く、皮膚呼吸できないため、寒さには強いが暑さに非常に弱い動物です。猛暑のストレスで食欲が落ち、体重の増加が停滞、事故率が増え、出荷頭数が減少しています。
 また、繁殖雌豚の受胎率が低下し、生産性が低下しています。その影響で豚肉価格が上昇し、7月の関東3市場(東京・埼玉・横浜)の価格は、枝肉1キロ当たり税抜き803円と過去最高となりました。しかしながら出荷頭数が減少しているため、取引先に年間契約の一部キャンセルをお願いしている状況で、売り上げは増えていません。

豚熱が発生 緊急消毒命令

石灰を散布した下仁田ミートの安中牧場の
様子。雪が降ったように一面、真っ白に

 群馬県では豚熱(CSF)が今年1月、2月、4月、5月に前橋市の4農場で発生し、約2万頭の豚が殺処分されました。3月には千葉県旭市でも発生し、約5千頭が殺処分されました。
 群馬県では野生イノシシが多くおり、経口ワクチンの散布も行っていますが、イノシシが農場近くまで進出しており、感染を防ぎきれないのが現状です。
 群馬県は豚熱まん延防止のため、「緊急消毒命令」を出しました。県内全域で農場内および農場周辺に消石灰を散布するというもので、期間は2025年4月9日から26年3月31日までの1年間です。
 市町村から消石灰の配給がありましたが、飼育頭数にかかわらず数量が一定のため、中規模以上の農場では1回散布したら終わり、という量でした。養豚農家からは、「消毒命令を出すなら、せめて必要量の半分くらいの消石灰を配給してほしい」という声が上がっています。

令和の米騒動で飼料用米が減少

飼料用米の使用を説明する
下仁田ミートのホームページ

 さらに、昨年夏以降、米が足らず「令和の米騒動」が起こりました。消費者が買う米価は5キロ2000円から4000円以上に値上がりしました。人間が食べる米が不足している状況なので、豚や鶏に食べさせる飼料用米が減少するのはやむを得ないとは思いますが、飼料用米を与えてブランド豚肉を生産している養豚農家は「今後どうなるのか」と、心配しています。
 農水省は7月18日、2025年産の飼料用米の作付面積が4・9万ヘクタールとなり、前年産(9・9万ヘクタール)から半減する見通しだと発表しました。過去最大だった22年産(14・2万ヘクタール)からわずか3年で3分の1の水準にまで落ち込むことになります。
 このため弊社では、これまでは生協との取引契約で、肥育期の2カ月間に国産の飼料用米を20%添加してきましたが、4月からは15%に減らし、10月からは「5%以上」という契約に変更しました。
 飼料用米「5%以上」の給餌では肉質への影響がでるのではないかと、不安が尽きません。

稲作農家に価格保障・所得補償を

 政府は8月5日、米の関係閣僚会議を開催し、需要量に対して生産量が不足していたことをようやく認め、石破首相は増産にかじを切ることを表明しました。
 しかしながら、米農家は減少し高齢化も進んでおり、将来価格がどうなるのかと不安もあり、なかなか増産するのも難しい状況にあります。大規模米農家だけではなく、中山間地の米農家を守るためにも、政府は農業予算を大幅増額し、価格保障や所得補償をすることが必要です。
 トランプ関税に屈してミニマム・アクセス米の輸入を増やすのではなく、国産の飼料用米や酒米などの加工用米の増産に踏み切るべきです。