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岐阜・白川町 油の自給から考える地域農業と健康 エゴマの魅力を発信する 服部圭子さん・晃さん ものづくりは自分たちが食べてこそ!(2024年04月22日 第1598号)

圭子さん(左)と晃さん。3年前に農民連に加入した晃さん。「農業政策がしっかり語られる新聞『農民』は勉強になる」

 岐阜県白川町の成山(なりやま)という集落で農業を営む服部圭子さん・晃さん。新聞「農民」4月8日付に掲載した「第14回エゴマサミットを広島で開催」の記事にも登場したお二人に話を聞きました。

 小高い場所に建つ服部さんの家からは、成山の集落がよく見渡せます。39年前に名古屋から移住し、農業を始めました。野菜や米をつくり、県内や名古屋の消費者に産直販売しています。

生活習慣病は油の選択が影響

韓国製の搾油機。「韓国の農家さんたちがエゴマの栽培方法などを惜しみなく教えてくださった」と圭子さん

 農薬会社に勤めた経験がある夫の晃さんは、移住前に愛知県半田市で有機農業の栽培を学びました。妻の圭子さんも当時、農薬によって奇形猿が生まれたという研究に携わった経験から、白川町へ移住後は無農薬・無化学肥料の有機栽培をずっと続けています。
 そして現在、「日本エゴマ協会」の3代目会長を務める圭子さん。初代会長は、農民連が事務局を務めるFFPJ(家族農林漁業プラットフォーム・ジャパン)代表の村上真平さんの父・周平さんです。
 もともと雑穀づくりの中でエゴマを作っていましたが、2000年の「第3回エゴマサミット」に参加したことがきっかけで、油の選択が生活習慣病を起こし、エゴマがそれを大きく改善することに衝撃を受けたそうです。「一番の喜びは『エゴマ油を自分たちでつくれるんだ』と知ったこと」と当時を振り返る圭子さん。

「白川エゴマ搾油所」を開設

 将来の医療費削減につながる、これを自分の町で広めたいとその年、韓国の搾油機を購入し、自宅すぐ下に「白川エゴマ搾油所」を開設します。
 圭子さんは「私たちの搾油所の特徴は、誰でも自作のエゴマを持ち込めることです。農家がつくったエゴマをここで加工し、皆さんの地元でそれを販売する形で、全国からエゴマが送られてきます」と話します。
 届いたエゴマは機械で搾る前に水分量測定や食味で状態を確認し、乾燥や水洗いが必要か判断するなど、品質に細心の注意をはらいます。
 日本国内の食用油の自給率は、農水省の発表でわずか3%です(21年度)。「油を自給すること」の意義を圭子さん・晃さんは情熱を持って語ります。「農地を有効に活用し、農村で加工することで利益を農家に引き寄せます」、「大事なことは農家がつくって販売するだけじゃなく、自分もエゴマを毎日食べること。自らが健康になった経験は、より良い品質を目指す意欲と食べ手からの信頼につながります」。

細胞膜の構成に「アルファ―リノレン酸」

 60兆個あるというヒトの細胞の細胞膜の構成に欠かせない「アルファ―リノレン酸」を多く含むエゴマ。食生活に取り入れることで様々な健康事例が報告されていると圭子さんは言います。
 「協会としてエゴマの栽培から栄養・料理・健康事例を学び合い、教え合い進化することを大切にしています。それがまた各自の土づくりや次期作への挑戦につながります。書籍などで外に発信することも私の大事な役目」と圭子さん。
 エゴマの加工を本格的に行う以前から、白川町で有機米グループをつくり、新規就農者はこれまで10人以上を研修で育成してきた晃さんと圭子さん。今は娘さん夫婦が米づくりやエゴマ加工の大部分を担っているそうです。

地域の自給が日本の自給に

シソ科のエゴマは夏作。4月は緑肥用のライ麦が育っていました

 国の農業政策について聞くと「地域で自給しながら品質を保つには、小規模で持続可能な形態でこそ。各地域で自給することが日本全体の自給につながる。農業基本法の改定はそういうことを定めないといけないのに…」と晃さんは危機感をにじませます。圭子さんはあきれた様子で「食料の供給が困難になれば、私たちだったら『エゴマ作りをやめてイモを作りなさい』と言うわけ? 平均年齢68歳の農民に罰金を払わせる? 政府は何を考えているの?」。
 ものづくりは自分たちが食べてこそ! 自分たちの健康を向上させるものを提供する、という薬食同源の農業を大切にする2人の姿勢にたくさん学ばされました。