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農業基本法改定案 衆院農水委員会参考人質疑 鈴木 宣弘 東大教授の陳述(要旨) 食料自給率高める施策を

 衆院農林水産委員会で4月4日に行われた「食料・農業・農村基本法改定案」についての参考人質疑で、東京大学の鈴木宣弘特任教授が意見陳述を行いました。要旨を紹介します。

 農村現場では農業者の平均年齢が68・4歳であり、あと10年で日本の農業・農村が崩壊しかねません。今もコスト高で廃業が加速しています。

 改定案は、世界情勢の悪化と国内農業の疲弊を踏まえて、今後の生産を強化し、食料自給率を高め、国民の命を守れる国にすることを打ち出すと考えられました。

 しかし原案は、食料自給率の言葉さえありませんでした。改定案では、なぜ自給率向上が必要で、そのための抜本的な政策は何かが書かれていません。現行の農業支援では農業の疲弊が止まっていません。コスト上昇が加味されない現行政策ではコスト高に役に立たず、今農業が危機であるという認識が必要です。

 いま苦しむ農家を支える政策が提示されないまま、輸入先との関係強化や海外での農業生産を増やしても、不測の事態に物流が止まれば日本に食料が入ってきません。一番必要なのは、国内生産の強化です。

 有事の際に、カロリーを取りやすい作物への転換・増産命令など、平時に輸入に頼り、国内生産を支えないでおいて有事だけ作れと言われても無理です。普段から自給率を高めておけば済む話です。

 多様な農業形態の位置づけの対象は、あくまで効率的安定的な農業経営であり、その他は施策の対象とはしない。定年帰農や半農半X(別の仕事をしながら農業をする)など多様な農業経営形態が、農村コミュニティーや生産を維持するために重要な存在であることが反映されていません。

 水田を水田として維持することが、有事の食料安全保障の要であり、地域コミュニティー、伝統文化も維持されます。日本は1・5カ月分の備蓄しかないことで国民の命を守れるのでしょうか。日本の水田をフル活用すれば1200万㌧作る潜在生産力があります。米を増産し国の責任で備蓄する政策を取れば危機に備えることができます。アメリカから武器を買うのに43兆円も使うのだったら、まず命を守る食料を国内で守るために使うのが先で今考えないと手遅れになります。

 種の問題も深刻です。野菜の9割は海外の畑で種取りしており、これが止まると自給率8%になります。食料は命の源であり、その源は種です。種の自給なくして食料の自給なし。大事な種を国内で循環させる仕組みを作らなければ日本の食料は守れません。種の自給を確立し、農家の自家採種の権利を守ることを基本法に明記すべきです。

 改定案には、規模拡大や、輸出促進、スマート農業、海外農業生産への投資などが盛り込まれていますが、今問われているのは、苦しみながらも踏ん張っている現場の農家所得の改善に直結する政策になっているかです。農業の担い手を支えて自給率を上げるために、直接支払いなどの充実が一番に追加されるべきです。

 農家の疲弊は消費者、国民の命の問題だと認識する必要があります。国民の食料と農業・農村を守るための抜本的な政策と予算が不可欠です。