経済秘密保護法案 たたかいの舞台は参議院へ 危険なプライバシー侵害の本質がますます明らかに (寄稿)海渡 雄一さん(弁護士・秘密保護法対策弁護団)
2月末に法案が提案された
政府は2月27日、「重要経済安保情報の保護及び活用に関する法律案」(以下、「経済秘密保護法案」と呼びます)を通常国会に提出。4月9日に衆議院を通過しました。この法案は、次のような内容です。
①重要経済基盤保護情報のうち特に秘匿する必要性がある重要経済安保情報を政府が秘密として指定する。
②重要経済安保情報を漏えいした者と不正に取得した第三者を、最高5年の拘禁刑に処す。
③重要経済安保情報を取り扱う業務は、適性評価により、重要経済安保情報を漏えいするおそれがないと認められた者に制限する。
④行政機関の長は、民間企業の従業員、大学・研究機関の研究者らに対して、内閣総理大臣による調査の結果に基づき、適性評価を実施する。
内閣総理大臣のもとに膨大な個人情報が集められる
法案の問題点としては、第一に民間企業の従業員と大学などの研究者数十万人とその家族が適性評価の対象とされることです。「兵器の国際共同開発に日本企業が参加しやすくなるため」と説明していますが、信用情報、精神疾患、飲酒の節度など高度なプライバシー情報、さらに家族や同居人についても調査の対象となり、本人の同意は前提とはされていますが、調査を拒めば、結局その研究開発などからは外され、実質は強制です。
経済関連秘密の漏えいが厳罰に
「経済秘密保護法案は撤回せよ」と抗議する市民=4月10日、国会前
第2に、経済安保関連の秘密漏えいが厳罰に処されることになります。そもそも、「経済安全保障」という概念が定義もなく不明確です。対象は宇宙・サイバー分野にまで拡大され、歯止めがなくなる可能性があります。にもかかわらず、秘密の漏えいについては、漏えいが安全保障に著しい支障を生ずるときは最高10年(特定秘密保護法並み)、支障を生ずるときは最高5年の拘禁刑の対象とすることとされ、著しく重罰化されます。
3月28日の衆院内閣委員会の参考人公述で、日弁連の斎藤裕副会長は、コンフィデンシャル級(トップ・シークレットより重要度が低いもの)の秘密指定は英仏で廃止され、2022年の米情報保全監察局レポートがこのような秘密レベルの廃止を大統領に提言していることを明らかにしました。政府提案は英仏米の動向と整合せず、政府の説明を前提としても、法案の根幹にかかわる問題点があることが明らかになりました。
大川原化工機事件を繰り返すな
昨年12月27日、東京地裁において、大川原化工機事件の国家賠償訴訟判決が言い渡されました。この事件では軍事転用可能な装置を大川原化工機株式会社が中国や韓国に不正に輸出したとして、外為法違反に問われました。判決では、警視庁公安部が経済産業省の省令の解釈を立件方向でねじ曲げていたことなど、事件がねつ造されていたことが明らかになりました。
経済秘密保護法が成立すれば、このような人権侵害の拡大が止められなくなります。たたかいの舞台は参議院に移りました。反対の声を上げていきましょう。