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オーガニック給食 フランス・ドルドーニュ県 地域・行政が一体で進める価格決定も農家で! 農家から始まった取り組み NPO法人「こどもと農がつながる給食だんだん」 代表理事 本田恵久(えく)さん(2024年05月27日 第1602号)

 フランスではどのような仕組みで有機給食が取り組まれているのか――。今回の研修視察を日販連と企画し、帯同したイギリス在住の本田恵久さんに解説してもらいました。本田さんはフランス国内でオーガニック給食を進める団体「CPPフランス」メンバーで、日本のNPO法人「こどもと農がつながる給食だんだん(CPP Japan)」の代表理事です。

 フランス南西部のドルドーニュ県では全ての中学校で100%地場産のオーガニック食材を使い、手作り給食にする計画が進んでいます。オーガニック認証機関「エコサート」の給食認証を取得した学校は現在、全体の3分の1になりました。
 この取り組みはオーガニック農家3軒が有機食材プラットフォームを作ったことから始まり、現在45軒が野菜、チーズ、小麦粉、肉、農産加工品などを給食へ出荷しています。流通価格は、45軒のうち数人で委員会を作り生産の中長期戦略を立て、価格を決めています。「生産者を増やし、農業を続けるためのプラットフォームを作りたかった。小さな農家が力を持つには他者との協力が不可欠だ」。創設者の農家、ドミニク・ルコントさんは言います。

協働の意識を県がサポート

 そしてドルドーニュ県議長を中心に2016年からオーガニック農業戦略を行い、100%オーガニックで地場産の手作り給食プロジェクトを始めます。高品質の地場産食材を給食で使用することで、中小企業や地元企業に市場機会を提供し、学校給食の社会的役割を取り戻す政策です。
 県の教育課と農政課を中心に、衛生、運営、農業供給などの担当部署を設け、専門職員が1カ月調理現場に入り、その学校が自立してオーガニック給食が進むようにサポートします。
 すでにオーガニック認証を取得した中学校では、80%の地場産農産物が導入されています。その給食調理シェフが、「農家が提示する価格を支払います。価格交渉は絶対にしません」と言った言葉がとても印象的でした。
 農家は自然に向き合う仕事で、気候に左右されることも多いため、農家と消費者が支え合う地域支援型農業(CSA)が日本にあるように、フランスの調理員は、買い手、売り手という関係ではなく、協働している意識が高いと感じました。そしてこれらの意識は給食現場を通じて、子どもや保護者に伝わります。
 22年には県による政策がさらに加速し、県内全ての中学校が28年に向けてオーガニック給食へ移行途中です。
 農から給食までの一連の流れの構築により、公共的資金でまかなう給食費のうち、年間約6億円が地域の農家に還元されます(CPPフランスの資料から)。

エガリム法など国も後押し

研修ではペリグーの中学生たちと一緒に給食を食べました

 このように農業生産からフードチェーンのあり方を官民で改善する動きがフランスで起きています。一連の流れの全体で環境への負荷を抑える、という狙いも重要です。
 フランスでは農業者を守り、消費者が健康的な食生活を送ることを目標に国がエガリム法を施行(18年)しました。
 エガリム法は、給食に50%の伝統的食材や環境に配慮された食材、少なくとも20%以上はオーガニック食材提供を目標としています。また、より地域に根づいた具体的施策として、食料問題に関して地域内の様々な関係者を結集する、PAT(地域圏フードシステム計画)が自治体主導で進んでいます。
 はじめはたった3軒の農家の個人的な意思から始まり、行政の政治的意思がそこに加わり、県内の給食へ広がった取り組み。
 国の政策がこのプロジェクトを後押ししています。
 すべての関係者が仕事に誇りを持ち、その目的は「子どものため」と口をそろえて言います。
 ドルドーニュ県のプロジェクトは、フードチェーンをつくるばかりではなく、社会的コミュニティーの形でもありました。