青年農家がフランスを視察 日販連が有機給食の研修を行う 座談会でおおいに展望を語る(2024年05月27日 第1602号)

農家出資によるプラットフォームを見学する皆さん
日販連(日本販売農業協同団体連合会)は3月18~25日の日程で「フランス有機給食の旅」を実施しました。フランス・ドルドーニュ県など、国内の有機農業の現状、現地でどのように有機給食を実現しているのかを学ぶ研修視察に14人が参加。その内農家は8人で、平均年齢34歳という若い世代の皆さんでした。研修では現地で有機農業を行う大規模穀物農家や小規模多品目野菜農家、畜産・酪農家などを訪れ、地元中学校や県庁訪問など様々な視察を実施。今回、フランスに行ったメンバー5人にオンラインで集まってもらい、研修を振り返る座談会を行い、実際に現地で感じたことや今後の展望を語ってもらいました。
◇現地で印象的だったことは何ですか?

寺戸豊太郎さん(45) 島根県益田市の有機米、有機ゆず農家。地区の営農法人で会計と機械オペレーターを担当。
寺戸さん 有機給食に関わる生産・流通・調理・行政の方々が共通の意識を持っていて、その意識の高さにも驚いた。
安曇さん そうですね。有機農業は“持続可能な農法として環境への負荷がより軽減できるから”という意識の高さにびっくりした。
香織さん 教育委員会や栄養士・調理員の横の関係性もすごく近い、と感じましたね。
秋元さん 個人個人の意識が先にあって、国の政策があるという感覚を私は感じた。
岩渕さん 手づくり給食は苦労も多いとのことでしたが、季節のものをなるべく使用したり、価格を抑える工夫などを皆さん誇りを持ってされていた。
◇農家目線でも日本との違いを感じましたか?

秋元正志さん(42) 青森県つがる市の有機米、有機大豆農家。前職はすし職人。
秋元さん 現地の農家の意識も高くて、私の地元では有機をやっているのは特別な人、という印象を持たれている。
寺戸さん もちろんフランスも慣行農法と有機農法のすみ分けはあるという話でしたが、私の地元の益田市は施設栽培が主流。それは季節をずらした付加価値で所得を得るためで、現状そこに有機が入り込むのは難しいと感じている。

塚田安曇さん(31) 長野県安曇野市で主に米、タマネギを生産している。
安曇さん 私は有機米を3年ほど前から30アールほど始めて、需要があるということで現在では約1ヘクタールまで広げました。慣行栽培の米も作っていますが、慣行は除草剤や殺虫剤を散布してしまえば何となくできてしまうけど、有機は抑草や代かきの方法など、慣行とまた違っておもしろい。毎年勉強させてもらっています。
岩渕さん 福島の農民連ではネオニコチノイド系農薬を使わない米づくりに数年前から取り組んでいますが、「確立したやり方を変えたくない」という農家さんもおられます。安曇さんの言うように「まずは小さな範囲でやってみる」というのは大事なことだと思う。

塚田香織さん(31) 安曇野市の学校栄養士。県採用で給食の献立や発注を担当。
香織さん 今の話と通じると思ったのは、フランスから戻って長野県内で先進的な有機給食の取り組みを実践している松川町に視察に行ったんです。そこの栄養士の先生が「『有機給食を進めよう』と言ってやってきたわけじゃなく、『地域の皆さんともっといいものを、子どもたちが喜ぶものを』という考えでやっていったら有機給食に行きついた」というお話がすごく勉強になった。
◇フランス研修を経て、今後の展望を教えてください。
寺戸さん 地元ではいま、「地域内での自給」への危機感がすごく高まっている。自給自足を目指さない国の農政など安全保障に全く寄与しません。私は地産地消や有機農業を“公共投資”という考えで捉えて行政が補助するべき、という位置づけを定着させたい。自分たちの命をつなぐ食料をつくる農地に投資して、それが地元でまわるお金になる、という考えです。
香織さん 安曇野市の栄養士会でフランスと松川町の視察の報告をしたら反響が大きく、調理員と栄養士で毎年行う調理実習で有機野菜を使った実習をすることになった。安曇野市として「子どもたちにもっといいものを」という形をつくっていきたい。フランスに行って本当に良かった!
安曇さん 昨日田んぼの代かきをしていたら、あぜ草の緑が鮮やかで、田んぼの水が風で小さく波うって、北アルプスが目の前に広がっている景色を見て、あ~自分はこの風景を守るために農業をやっているんだな、と実感した。フランスの経験から、有機米の面積を今年は増やそうと思っています。

岩渕望さん(40) 福島県農民連に専従として勤めている。
秋元さん 私は人に喜んでもらいたい、笑顔が見られる仕事をしたくてすし職人になったが、今は生産量を増やしたい、という思いから有機米づくりの現場に入っています。生産する人がいないとおいしいすしも握れないから!でもゆくゆくは飲食もやっぱりやりたい!
岩渕さん 秋元さんがフランスで握ってくれたおすし、おいしかった~。
寺戸さん 現地の皆さんに大好評でしたが、実は一番喜んでいたのは私たちでしたよね。
安曇さん パンはおいしかったけど、ほぼ毎日3食ともパンで…。
皆さん うんうん(笑い)。
◇
主催した日販連の代表理事専務・平井真美さんのコメント
昨年訪日したCPPフランスの中心メンバーに「現場を見たい」と話したことが今回の研修につながりました。そしてせっかくの機会なので、次世代の生産者と一緒に行こう、と計画しました。日販連は全国の農家の有機認証の取得を後押しし、国内の有機農産物の増産に努めていますが、フランスでの視察は今後の可能性を強く感じるものでした。日本では有機の定着がまだ少ないですが、フランスのように農家の側から働きかけることを一緒にやっていきたい。