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生産者置き去りの農業政策を憂う 背景にある日米同盟の深化 有事の食料安保でなく持続可能な農政を 山口大学名誉教授 纐纈(こうけつ) 厚 (寄稿)(2024年05月27日 第1602号)

 今年4月の日米首脳会談は、単独で世界の覇権を狙うアメリカに、日本が無条件で従属することを約束させられる機会となった。日本はアメリカを中心とする多国間軍事同盟の一員としてアメリカの企画する世界覇権主義に付き従うことを一層鮮明にした。

日米首脳会談で軍事一体化宣言

 「日米共同声明」の「米国は、地域における抑止力を強化するための共同開発・生産を通じた協力を増進することになる、日本の防衛装備移転3原則及びその運用指針の改正を歓迎する」の一文は、明らかに日本の武器生産及び武器輸出入の強化を促すアメリカの意向を示したものだ。日本の武器移転、すなわち武器輸出の踏み込みは、アメリカの後押しを得て決定されたものである。
 アメリカは対中国包囲戦略の一環としての日本の防衛力強化を歓迎する背景には、アメリカの軍需産業の一層の利益確保のために日本のアメリカからの武器輸入を期待し、さらに日本の武器輸出をも奨励することでアメリカを始め、同盟国及び準同盟国との間に武器移転を通じた軍事一体化を要請しているのだ。
 こうしたアメリカの要請が日本の自立的な外交防衛路線の機会を奪っている。日本は、アメリカの引き起こす戦争に自動的に参戦する可能性を一気に高めることにもなる。日本はいつ戦争に巻き込まれるかもしれないところに追いやられているのである。

食料有事法案で生産統制ねらう

 その動きと連動するように、有事に備えて「食料供給困難事態対策法案」、いわゆる「食料有事法案」なるものが審議中である。政府が進める「食料安全保障」政策の一環であり、危機の兆候が出たら、対象品目や供給量の目標を定め、生産者や流通業者に出荷・販売の調整や生産・輸入の拡大を求めるというもの。供給不足が一定水準に達した「困難事態」では、業者に計画届け出を指示し、価格統制も行うという。
 同法案はドイツの「食料確保準備法」やイギリスの「イギリス農業法」をモデルにしたものであろう。問題なのは、生産者や事業者に食料確保計画を作成させ、不届の場合は20万円以下の罰金まで科す処罰規定を持つ法律ということ。生産者が望む農作物ではなく、生産者の意向を無視して本格的な生産統制の時代に入ることを意味する。
 日本の農業政策は従来から一貫性を著しく欠いてきた。米の生産過剰には生産調整を強いた。その結果、全国で休耕地が増え、米不足となるやタイ米の輸入に走った。日本農業の基本は稲作である。本当に食料安保が重要なら、余剰米が出たら輸出に回すべき。稲作農家にサツマイモなどの生産を強いるなど、およそ非現実的だ。
 併せて審議される「食料・農業・農村基本法改正案」には、「食料安全保障の確保」(第1章第1条)の文言が盛り込まれた。有事を想定する食料安保ではなく、平時での稲作を中心とする持続的な農業政策が望まれよう。