アイコン 新聞「農民」

参議院での農業基本法「改定」の強行に抗議し、食と農の再生めざす政治への転換を求めてたたかう〈抗議声明〉(2024年06月10日 第1604号)

2024年5月29日  農民運動全国連合会会長 長谷川敏郎

 一、5月28日、参議院農林水産員会は、「食料・農業・農村基本法改定案」を賛成多数で可決し、翌29日の参院本会議で可決された。「改定案」には自民党、公明党に加えて日本維新の会が賛成し、立憲民主党と日本共産党、国民民主党、れいわ新選組、無所属が反対した。
 農民連は、食料・農業の危機打開には全く役に立たず、国民に食料を安定的に供給する政府の責任を投げ捨て、さらに危機を加速させる「改定」を強行した自公、維新に強く抗議する。
 二、改定基本法に求められていたのは、これまでの輸入自由化や新自由主義農政から、食料自給率を向上させる方向に農政の舵(かじ)を転換し、国内増産と生産基盤を強化する方向に踏み出すことであった。
 しかし坂本農水大臣は、驚くべきことに5月16日の参院農水委員会で「生産基盤は弱体化していない」と発言したが、野党の追及によって発言の撤回と謝罪に追い込まれた。こういうでたらめな認識で法案審議に応じてきた坂本大臣は罷免に値するばかりか、「衆参での議論が水泡に帰してしまう」(立憲民主党・羽田次郎参院議員)ほどの重大問題である。また、「自給率が確実に上がると言い切ることは困難」という坂本大臣の発言は撤回もされていない。
 三、異例なのは13項目にも及ぶ「付帯決議」が行われたことである。
 「付帯決議」は、国内生産の増大を通した食料自給率向上、農業所得の向上、新規就農支援等の積極的推進など、野党修正案の一部を拾い集める形で「改定案」が欠落させていた事項を列記している。この間の農民連などの運動や世論、国会論戦などで追いつめられた結果であるが、同時に、「改定案」が欠陥だらけのボロボロ法案であることを浮き彫りにしている。
 「改定案」の欠陥は法律の修正で正されなければならない。これまでも悪法を強行する度に「懸念事項への配慮」として付帯決議が幾度も議決されてきたが、政府による「配慮」が行われたことは事実上なかった。
 四、「改定案」の可決は強行されたが、たたかいはこれからである。今後、平時の備えを放棄したまま、不測時には罰則を振りかざして生産と流通を統制する「食料供給困難事態対策法」(有事食料法)の参議院での審議が始まる。今回の改定にもとづいた「食料・農業・農村基本計画」が策定されるが、2020年の基本計画では「1日イモ3食」試算にもとづいて、農地面積の半分に及ぶイモ類の作付け強要と養鶏・養豚の壊滅を想定している。
 政府は、「有事食料法」のもとでの統制と罰則が例外的で軽微なものであるかのように装っている。しかし、土壌の持続性を保つための輪作体系や家畜の糞(ふん)尿を堆肥として還元することを全く度外視したこの政府試算が現実のものになれば、日本農業は壊滅的状態に陥ってしまうことは必至である。「有事食料法」のもとで、戦時中の国家総動員法・作付統制令以上の強権の嵐が吹き荒れるといわなければならない。
 五、岸田内閣は、裏金問題、アメリカと肩を並べて戦争する国づくり、物価高騰から国民を守る無策などで国民から不信任を突き付けられた内閣であり、そもそも“国家100年の計”に関わる重大法案を提案する資格はない。
 農民連は破綻した「改定」の内容を国民に徹底的に暴露し、国会での野党の奮闘とも連帯して有事食料法を廃案に追い込む決意である。国内増産と食料自給率向上、食と農の再生に役立つ政治の転換を求める運動を一致するすべての団体や国民と力を合わせてたたかう決意である。