食料供給困難事態対策法(有事食料法) 欠陥だらけの法案!
農村の要望に応えていない
食料供給困難事態対策法(有事食料法)が6月13日に参院農水委員会で可決され、14日に参院本会議で可決・成立しました。農民連は、野党議員と手を携えて、全国食健連など他団体とともに最後まで反対運動を繰り広げてきました(2面に抗議談話)。6月6日に行われた参院農水委員会の参考人質疑では、参考人から同法案への異論が多く出されました。家族農林漁業プラットフォーム・ジャパン(FFPJ)の池上甲一常務理事(近畿大学名誉教授)と株式会社資源・食糧問題研究所の柴田明夫代表取締役の発言要旨を紹介します。
FFPJ常務理事 池上 甲一さん
「営業の自由」侵害する法案

困難事態法案について、本法案の提出理由と本法案第1条を見れば、最優先されるべき食料政策は「国内生産の維持・増強」であることは明らかである。しかし、本法案にはたくさんの欠陥がある。
最大の懸念は、憲法22条「職業選択の自由」に内包される「営業の自由」を侵害する恐れが高いことである。花き作や畜産の飼料作など、非食料作物の部門は専業農家が多く、日本農業の中核を担っている。しかし、戦争・紛争や世界的な気候危機のもと、平時の生産が危機に陥る可能性が高い状況で、本法案による生産指示の発動を念頭に経営することは、経営の継続性だけでなく、将来を見通した計画的な農業投資や営農意欲に悪影響を与える恐れがある。
本法案が想定している生産・流通・消費さらには生産資材に至る管理統制について、戦前から戦後までの、個人の自由が軽視された歴史に学ぶべきだと強調したい。
農村の “人減らし法案” やめよ
スマート農業法案について、目下の日本にとって、優先すべき課題が食料の提供であることを考慮すれば、農村に人を残すことが必須である。しかし本法案は、今後20年間で基幹的農業就業人口が116万人から30万人に減るという予測を前提として、少人数に対応した高生産性農業を掲げている。
高生産性農業の結果、農村はごく少数の農家しか住まなくなり、地域社会の弱体化がもたらされる。本法案は基本的に「人減らし法案」である。問題は、スマート農業が、農業従事者の育成確保や重労働の軽減といった農村・農業の要望に応えるのではなく、生産性向上の名目の下に人手不足をさらに促し、コスト競争力を強化しようという狙いそのものにある。本法案は、大多数の中小家族経営ではなく、ごく少数の大規模企業農業を対象に策定しているのである。
株式会社資源・食糧問題研究所代表取締役 柴田 明夫さん
食料安全保障の定義すでに危機

政府が言う食料安全保障の定義、「良質な食料が合理的な価格で安定的に供給され、かつ国民一人一人がこれを入手できる状態」(改定農基法2条)はすでに難しくなっている。食料というものは極めて地域限定的な資源であり、地産地消を基本に考えないといけない。
日本政府は経済的合理性を追求する中で、極限まで「農業の外部化」を進めてきた。それにより食料の輸入拡大、その依存度が増し、国内自給率を低下させてきた。この危機的な状況からいま、まさに転換を図るべきで、緊急時の法律ではなく、平時の対応を考えないといけない。国内での食料生産の増大と備蓄に向けて、人・技術・予算・制度を集中させないといけない。
農家の合理的価格実現には
農家の生産コストが高くなり、生産物の価格は安くなる状況が続き、農家の経営・所得が非常に厳しくなっている。政府が言う「合理的な価格」というのは誰の立場か。それは消費者の立場であり、市場価格に委ねられる生産者の価格が合理的になることは難しい。ここを政策として、生産者所得の確保に努めなければいけない。
今回の農基法改定についての議論は、「緊急時にどうするのか」という話にすり替わってしまった。そして大きな経営体も大事だが、中小の農家の経営体も食料安全保障という考えの中で重要であることを強調したい。