上で発電 下で農作物生産 原発の対案 営農型発電 地域の食料とエネルギー自分たちで生み出す
二本松営農ソーラー株式会社(福島県)
代表取締役 近藤 恵(けい)さん
再生エネルギーの“これから”に胸躍る

収穫間近の小麦(左)はほぼ全量みやぎ生協が買い取り「有機全粒粉」として販売。一部は地ビールにも。右のイエローマスタードは郡山市の老舗漬物店で「粒マスタード」として販売。減農薬栽培のブドウ以外は牧草を含めて有機栽培で作られます
“ソーラーシェアリング”――。太陽の光を活用し、上で発電をしながら下で農作物をつくるという営農型発電を実践する「二本松営農ソーラー株式会社」の農場(福島県二本松市笹屋)を5月下旬に訪れました。
一級河川の油井川と国有林に挟まれた6ヘクタールの農地でブドウ、小麦、ダイズ、エゴマなどを作り、そのほ場の上には9500枚のソーラーパネルが設置してあります。
同社は「二本松ご当地エネルギーをみんなで考える株式会社(ゴチカン)」、「みやぎ生活協同組合・コープふくしま」、特定非営利活動法人「環境エネルギー政策研究所(ISEP)」の3者で共同出資し設立。2021年9月に竣工し、一般家庭618世帯分の電力をつくっています。

パネルの下で元気に動きまわる牛たち。福島県農民連の佐々木牧場、佐々木光洋さんの提案で始めたソーラー放牧
代表取締役の近藤恵さんは、ゴチカンの経営者として市民電力に携わり、ISEPの福島事務所の所長として再生可能エネルギーの開発に従事してきた経歴を持ちます。
もともと水田の耕作が放棄され、荒れ野になる一歩手前だったこの場所。近藤さんは笹屋の農場について、「農業と再エネの両立というよりは、農業や農地の価値、地方の価値を高める場所にしたい」と話します。
18年前にIターンで二本松で新規就農した近藤さん。東日本大震災が起きるまで3ヘクタールの有機農家でした。原発事故の翌年に農業をあきらめ、そこから紆余曲折、さまざまな思いとともに歩んできました。「本当に悔しかった。何とか原発を止めたい。でも原発反対を叫ぶだけじゃなく、実際に何ができるかを考え、営農型発電と出会い、勉強してきました」

定植4年目のブドウの花を愛でる近藤さん。「農場での農作業は20代の農場長と30代の青年2人に任せています。私は口を出さないように心がけています(笑)」
営農型発電は「同じ土地でエネルギーと食料を生産できるだけではない」と話す近藤さん。「大事なことは、地域のエネルギーを自分たちで生み出すこと。外部の開発業者が勝手に入ってきてメガソーラーをつくるのとは全然違う。笹屋の土地の地権者さんたちも私たちのことを信頼して譲ってくれました」
今年4月には市内の別の農地で垂直ソーラーを新たに設置し、この事業には福島県農民連も一緒に農水省補助金申請をしています。垂直ソーラーはさまざまなメリットがある中で、農地に限らず鉄道や高速道路のフェンス、マンションの手すりやプールの目隠しなど建築材の利用にも今後期待されています。
「営農型発電を多くの農家さんに見て知ってもらいたい。できる範囲での発電規模、下で何をつくるのかなど、各地でいろんな形でやれると思う」。地権者、営農者、発電事業者、そして食料を購入し、電力を消費する住民。地域の人々が一緒になって主体的に取り組む営農型発電。これが広がれば、一極集中の大手電力依存・原発依存を終わらせ、自律性が備わった地域の農業・農村の価値が高まり、若者が農村で農業に従事し、耕作放棄地も減らせる――。
近藤さんの強い信念とエネルギーづくりの「これから」に大きな可能性を感じました。
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農地に設置されたドイツ製の垂直ソーラー。牧草の一番草が刈り取られた直後でした
福島県農民連・佐々木健洋事務局長のコメント
原発事故以降、福島県農民連は「自分たちの使う電気は自らつくろう」を合言葉に、県内各地に太陽光発電所を広げてきました。今年度も新たな営農型発電事業の申請が農水省で採用される見通しです。今後もソーラーシェアリングや自家消費発電を進め、食とエネルギー自給圏を目指します。全国でも一緒に取り組み共育ちしていきましょう。