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地域を守る持続可能な食糧自給と農業を学ぶ

総勢26人がいすみ市の米農家と酪農家を訪問

船橋市では学習交流会

生協労連と全国食健連千葉県で現地研修会 

有機米を地域の学校給食に地元産・国産エサをふやす

 生協労連(全国生協労働組合連合会)は7月6、7の両日で千葉県いすみ市と船橋市で現地研修会、「地域で食と農業をつなぐ 持続可能な食糧自給と農業を考える交流会」を開催しました。
 北海道、岩手、大阪、滋賀、福岡などから生協職員や労組専従者が参加。全国食健連(国民の食糧と健康を守る運動全国連絡会)も共催という形で参加し、総勢26人、初日は観光バスで米農家・酪農家を訪問しました。

 

給食と地域をつなげた矢澤さん

田んぼの前で話をする矢澤さん(左側)

 全国で唯一、市内の学校給食に地元産の有機米を全量提供している千葉県いすみ市。各地から注目されるこの取り組みを中心的に進めてきた米農家・矢澤喜久雄さん(農事組合法人みねやの里代表理事、農民連会員)の田んぼを訪れ、話を聞きました。
 「もともと地域の仲間と減農薬米づくりをしていた」と話す矢澤さん。いすみ市が2012年に「自然と共生する里づくり」協議会を設立したことがきっかけとなり、「本気で実現するためには、いすみ市の農業の90%を占める稲作で有機に足を踏み出すべき」と、13年に手探りで無農薬の有機米づくりを始めます。
 3軒の農家が草とたたかいながら2年目の14年、4トンの有機米を収穫。矢澤さんは「この米をこれから成長する子どもたちに食べてもらいたい。全ての子どもたちに平等に食べてもらうには学校給食しかない」と市長に進言。ここから「学校給食全量有機米」の取り組みが加速していったと矢澤さんは話します。
 「子どもたちに食べてもらう、という絶対的価値が保護者や地域に広がり、それが地域の農業の維持・活性化につながりました。学校給食に卸すことで、販路の不安が払しょくされ、生産者の意欲が増しました」。23年には29軒の農家が面積40ヘクタールで143トンの有機米を生産しているそうです。
 参加者は矢澤さんの無農薬の田んぼを見学し、草を抑えるための年間を通した取り組みや土づくりの話に熱心に聞き入りました。

 

循環型酪農で地域守る高橋さん

牧場を案内する高橋さん(中央)。後ろは牛の尿を発酵させて液肥をつくるための池

 次に向かったのは、いすみ市須賀谷の高秀牧場。200頭の牛を飼う県内2番目に大きな牧場です(搾乳牛80頭、広さ23ヘクタール)。「矢澤さんたちとは20年以上、耕畜連携をしています」と代表取締役の高橋憲二さんも気さくに話をしてくれました。
 35年前から「循環型酪農」を行ってきた高橋さん。そのきっかけは、当時のベテラン米農家が口々に「子どもの頃のほうが米がおいしかった」と話したことでした。「その理由は、昔はみんな牛を飼っていて、ふん尿を堆肥にして田んぼにまいていたから、と知り『米づくりが盛んな地域に貢献できる畜産農家になりたい!』と牛の尿から液肥をつくりました」
 4年前に千葉北部酪農農業協同組合(北酪)の組合長に就任した高橋さんは「餌となる穀類・粗飼料ともに100%国産を目指し、輸入飼料に依存しない畜産経営の実現」を掲げ、餌の地元産・国産の割合を年々増やしています。牧場の畑15ヘクタールでトウモロコシと牧草の輪作をして、周辺の米農家に飼料用米をつくってもらっています。
 「しかし昨今の飼料高騰による経営圧迫と、地域の農家の減少・耕作放棄地増大への対応は待ったなしです」。高橋さんたちは、後継者がいない地元の米農家の事業継承を行い、北酪として新会社を立ち上げ“自分たちも稲作をする”事業を来年から本格的に始める準備を進めています。「これをやることで地域の稲作農家と畜産農家を守ることができる。いすみの美しい風景を守り、若い人たちを育てていくためにも必要です」と楽しそうに信念を語る高橋さんの話にも参加者は聞き入りました。

 

今の農政は危険 地域守る給食を

 2日目は船橋市の研修室で農民連・齋藤敏之常任委員による講演と、参加者によるグループ交流が行われました。
 齋藤さんは戦後農政から現在の日本の農業危機までを縦横に語り、そのもとで行われた「食料・農業・農村基本法」改定と関連法の成立が、いかに危険なものかを解説。「地域を守る」をキーワードとしての学校給食に関する取り組みを各地で展開し、運動を広げようと呼びかけました。
 生協労連の渡邉一博さん(中央副執行委員長)は、「何より現場で見て聞くことができたことが大きい。これを次の運動・取り組みとして各地で広げていきたい」と話し、全国食健連の衛藤浩司さん(事務局長、全労連幹事)は、「2日間の研修で、日本の食料自給率の向上に向けて、全国食健連として運動を強めていく決意をあらためて固めました」と話しました。