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有機食材でつながる地域循環 全国オーガニック給食協議会(2024年07月29日 第1611号)

長野県松川町で 視察研修会を実施

町職員、栄養士、生産者が思いを語る

6年生の教室の給食風景

 全国の学校給食で有機食材導入を実現させようと活動する、「全国オーガニック給食協議会(代表理事=太田洋千葉県いすみ市長)」が7月12日、長野県松川町で視察研修会を開催しました。

●給食の実食や校内を見学

この日の献立は、ごはん、アジのカレー揚げ、キャベツのナムル、具だくさん汁(煮干しからダシをとっている)、牛乳。この内ジャガイモ、小松菜、タマネギ、キャベツが「ゆうき給食とどけ隊」提供の野菜。大きめの紙コップで飲む牛乳の原乳も松川町産

 会場となった松川中央小学校(児童531人)には、全国から自治体職員、農協・農業関連団体、生協・流通団体や地元農家など74人が集まりました。参加者は中央小で実践されている有機給食の取り組みを視察。給食時間の校内を見学し、子どもたちと同じ献立を実食しました。
 「今日も『ゆうき給食とどけ隊』の皆さんの野菜がたくさん使われています。農家さんの紹介は給食室前に貼っているので見てくださいね」。児童でつくる給食委員会のメンバーが校内放送で情報を伝えます。
 長野県南部にある松川町は人口1万2千人余り。町の中央に天竜川が流れる果樹栽培が盛んな地です。町として、学校給食に有機食材を提供するようになって5年目を迎えます。

●遊休農地対策としてスタート

中央小の栄養士の木下さん

 「もともとは遊休農地対策として、新規就農者受け入れ制度(果樹研修制度)や農地の集約化を進めていく中で、2019年に農業委員会の主導で、非農家の皆さんを対象に『1人1坪農園』運動を事業化したことが始まりでした」。町の産業観光課農業振興係長の宮島公香さんが説明します。ケーブルテレビなどでの広報活動や勉強会で地元の農家とつながり、翌20年から実際に遊休農地を利用した有機野菜づくりを担う農家を町が募集。5軒の農家が手をあげ、「ゆうき給食とどけ隊」が結成されます。
 学校給食への買取価格が市場価格のように変動しないよう、町として年度はじめに生産者、給食現場、行政、納入業者と確認決定し、主要5品目については購入補助金を出しています。
 町の栄養職員として中央小に勤める栄養士の木下めぐ美さんは、有機食材の導入から得た学びとして、「地域の思いを受け止めて給食を運営することで、献立作成と調理の意識が変化し、給食室が変わった」と話します。

●「おいしい」をはぐくむ学び

有機米農家の久保田さん

 子どもたち自身が「ゆうき給食とどけ隊」の農家を訪れ、収穫体験や田んぼの生きもの調査、みそづくりといった食育活動を経験するだけではなく、給食調理員も自分たちでほ場見学や生産者との交流をすることが「子どもたちの『おいしい』をつくる学びになっている」と木下さんは強調します。「生産者・給食調理・子どもたち・地域が循環する有機食材導入を今後も発展させていきたい」と語りました。
 研修当日はあいにくの雨模様でしたが、参加者は農家のほ場見学も行いました。

 「ゆうき給食とどけ隊」メンバーで3・5ヘクタールで有機米をつくる久保田純治郎さんは、「子どもたちと有機について話すときは『体にやさしい』とか『安全・安心』という言葉はあえて使わず、『自然にやさしく、環境保全の農業としてやっています』と話します。長い目で見て、有機の田んぼなら豊かな生態系を維持できる、という意識を共有できたらいいなと思います。子どもたちが生きもの調査に来ると、学習というよりは遊びの延長で走り回っていますが(笑い)」と充実した表情で語ってくれました。

町農業振興係長の宮島さん

 5軒の農家から始まった「ゆうき給食とどけ隊」は現在12軒に増え、給食での有機食材の年間利用率は23・7%(米18・6%、ニンジン57・9%など)。遊休農地は18年235・5ヘクタールから23年時点で202ヘクタールに減少しています。

 研修会では協議会幹事の山田正彦さん(弁護士、元農林水産大臣)から、今年11月8、9の両日で「第2回全国オーガニック給食フォーラム」を茨城県常陸大宮市で開催することが発表されました。