農業を襲う気候危機 地域環境市民講座での報告 大阪農民連の中西顕治事務局長(2024年08月05日 第1612号)

報告する中西事務局長
NPO法人地球環境市民会議(CASA=カーサ=)は7月6日にオンラインで市民講座「温暖化の国内農業への影響と対策」を開き、大阪農民連の中西顕治事務局長(能勢町)が「農業を襲う気候危機」のテーマで報告しました。中西さんの報告要旨を紹介します。
高温障害対応も 耐性害虫が出現
2023年は記録的な猛暑となり、野菜にも米にも多大な影響を及ぼしました。昨年秋の報道で1等米が少なくなったという報道がありました。生産量が同じでも等級が下がると農家の手取りは減り、精米した米の量が減るのです。
米の等級とは、農産物検査法、農産物規格規程で決められた規格で、「すべての米粒から被害粒や未熟粒等を除いた整粒の割合(整粒歩合)」で決められており、整粒歩合70%以上、60%以上、45%以上がそれぞれ「1等米・2等米・3等米」に該当します。
この米の高温障害に対応するための研究・育種は20年も前から取り組まれていました。昨今高温障害耐性品種として「にこまる」が栽培されています。「にこまる」は2005年に九州沖縄農業研究センターで育成され、08年に大阪で栽培が開始されています。
だからといって安心できる状況ではありません。温暖化によって今までいなかった害虫が出現してきました。20年前にはカメムシによる食害など皆無でしたが、近年は被害が大きくなってきています。例年は7月くらいからほ場で見かける虫ですが、今年は春先から出現しています。越冬繁殖する個体が多くなってきたものと考えられています。
農家は絶滅危惧 自給率向上急務
また田んぼを根こそぎ食べ尽くしてしまうウンカの発生も危惧されます。その被害を防ぐために農薬を使うことも余儀なくされ、その行為も環境のためには良くないことですが、薬剤を使わずに避ける方法は見いだせていません。気候変動が要因ではないと思いますが、農家の方が絶滅してしまうのではないかと危惧されています。
本年改定された「食料・農業・農村基本法」では国内農家の減少に対する施策はほとんどなく、国民の食料確保は輸入頼みの方向にかじを切りました。今、野菜も米も肉もパンもどんどん値上がりしています。円安の影響で輸入物資の価格が1・5倍になっている状態です。
世界では飢餓人口がすでに8億人を超え、世界人口の1割が飢餓状態である中、国内生産を強化せずに輸入に頼り続けるのはいかがなものでしょうか。食料自給率の向上が必要です。
参加者の主な感想
「食料問題は、私たち生活者にとって、重要な問題です。農業は、他の産業と違い政策で守るべき産業だとの言葉が印象的でした」「国がもっと農業を支援しないと、将来、国民の命を守る日本の農業はだめになる」「大阪でも農民が工夫して努力していることに感銘を受けました。実際にお米をつくられている先生のお話を聞くことができて、大変勉強になりました。品種改良の苗を簡単には変えられないことも教えてもらい、本当に現状が大変なのがわかりました」