農政転換の先頭に立つ土地勤労者同盟(ビア・カンペシーナ加盟団体)
英国の農民運動
中小規模農民の利益を擁護
駒澤大学名誉教授〈寄稿〉 溝手芳計さん

この冬、EU(欧州連合)諸国と並んで、英国(イギリス)でも農民の抗議活動が燃え上がった。大陸での抗議活動が極右勢力のかく乱工作等で紆余(うよ)曲折するなかで、英国では、抗議活動がEU離脱に伴う農政改革をめぐる戦いのなかに位置づけられ、特に3月25日の議会包囲デモが大成功を収めた。改革運動の先頭に立っているのが、中小規模農民の利益を擁護する国際農民組織ビア・カンペシーナの加盟団体、土地勤労者同盟(LWA)である。
環境優しい経済への転換めざして

スコットランド全土からスコットランド議会の外に集まり、農業への支援を求めるLWAのメンバーたち =2月19日(LWAのホームページから)
英国の農政改革は、環境に優しい経済への転換をうたうネットゼロ計画の一部として、工業的な農業から環境、動物福祉、食の安全・安心を追求する環境保全型農業への移行を促進するとされる。そのために、大規模農業経営に有利な面積割支払い(BPS)を削減、廃止し、その資金を用いて、環境維持など「公共の利益への貢献」に対する報酬を農家に支払う仕組みを導入しようとしている。
ただ、具体化の過程で利害関係者の勝手な思惑が表面化し、実情にあわない過重な条件や手続きの押し付けに対する不満が広がり、農民の抗議活動の焦点に浮上した。
農民運動の対応は、大きくふたつに分かれる。ひとつは、主流派農民団体のイングランド・ウェールズ全国農民組合(NFU)で、(1)環境保全型農業奨励政策への移行を遅らせ、受給要件緩和を図る、(2)食料安全保障重視を訴え、農業予算の増額を求める、(3)輸入拡大と農産物価格の低下につながる自由貿易協定(FTA)拡大に反対しつつ、他方で、輸出促進政策の拡充を迫っている。
農業予算倍増と食料主権掲げて
今ひとつは、LWAを中心とする潮流である。LWAは、(1)環境農業政策への転換方針を支持しながら、実施時に農民に過大な負担がかからないよう、特に中小農民への配慮を要求する、(2)農法転換に伴う投資援助や公益貢献に対する支払いのために農業予算倍増を求める、(3)環境保全型農業への転換で生じる経常的なコスト上昇分の価格転嫁を可能にする市場の確立を目指して、(a)食料主権論を踏まえてFTAの交渉停止や輸入品の適正な表示を求め、(b)農産物買取業者の横暴を抑える措置を要求している。
LWAは、昨年秋から他の団体とともに不公正取引慣行に関する国会討論を求める10万人請願署名に取り組み、成功させた((3)―b対応)。3月25日の議会包囲デモは、(3)―aに対応して安易な貿易自由化や輸入品の不公正表示禁止を求めて別の団体が呼びかけたものであったが、LWAが大きく貢献した。
これらの運動に対して、NFUは静観の態度をとった。公益貢献に対する支払いではLWAの運動が実り、2024年度から従来対象外とされていた5ヘクタール未満の小規模経営や新規農業参入者にも受給が認められることになった((1)関連)。
LWAの存在感は急速に増している。