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酪農業界の抱える問題について 金谷 雅史(千葉県農民連・千葉市の酪農家)

飼料は2年前より2万円/トン増

酪農家が3年で3分の2に激減

引き続き牛乳飲んで応援を

コストの全額転嫁は依然として叶わず

酷暑で人も牛もたいへんです

 数年前から全国の酪農畜産は本当に大変な状況が続いている。
 まずは飼料高騰に関してだが、直近の第2四半期の配合価格が1トン当たり約2700円程度値上げする。ここ最近、高止まりの状況の中で乱高下を繰り返していたが、2022年初頭に比べると1トン当たり2万円の値上げとなっている。もうこの価格から大きく下がることはない、現状に対応するしかない、と諦めにも近い感情を持っている酪農家が多数だ。
 次に乳価だ。2023年度、地域によって増減があるがプール乳価で概ね12円前後上昇した。この上昇幅は酪農史において初のことではなかろうか。ただし、そんな歴史上なかった乳価の上げ方をしてもなお、コストの全額転嫁が叶っていない。飲用乳価でもう10円の値上げを求めることが多い。搾れば搾るほど赤字、という状況ではなくなってきつつも、乳量を搾らなければ赤字、といった生産量を増やしていくことによる経営安定を求めざるをえない、いまだ足元の崩れやすい情勢と言えるだろう。

需給安定水差すバター輸入増量

 そんな中にあって生乳の需給は安定に向かいつつある。北海道において泣く泣く生乳廃棄をしていた状況が、廃業者の増加や他作物への転換、または昨夏の酷暑などの理由で牛乳余りの状態から脱しかけている。今年度の生乳生産量は増産計画へと舵(かじ)が切られ、ようやく満足に搾れる状況になってきている。だがそれでもまだ、牛乳余り問題の根本、脱脂粉乳の消費拡大のための出口対策の拠出金は乳業メーカーと生産者が出し続けている。
 そんな折に農水省が国家貿易のバター輸入枠を増やすことを決定した。その数量4千トン。生乳換算にして5万トン分の牛乳を輸入する枠を措置した訳だ。以前から問題視されている13万7千トンのカレントアクセス(現行輸入機会)輸入が5万トン上乗せされ18万7千トンとなるかもしれない。これは今夏もやってきた酷暑に起因する。
 この酷暑で生乳生産量が激減した時、バターの最需要期である年末の需要を満たせないかもしれない懸念があるためだ。
 農水省はそう説明するが、生産者、特に加工向けの生乳出荷の多い北海道の酪農家からは不満の声を聞く。
 先に説明したとおり「やっと搾れる!」と情勢が変化してきても、そこに水を差された形になっている。
 この酷暑による生乳生産量の減少幅がもしも思ったほどではなければバター輸入はされない可能性がある。だが7月末時点ですでに去年を上回る暑さを体感している。この夏、どう転ぶかで今年の年末の情勢が大きく変わってくるだろう。

酪農家戸数が1万戸切る予想

 子牛販売などの副産物収入が乱高下し、今後また価格の下落を心配する声も多い。
 更には北海道からの系統外出荷による道外移出乳の増大が加速し、飲用の乳価交渉において価格転嫁の障害となっている。
 そういった状況の中で廃業を選ぶ酪農家、畜産農家が多く、酪農家に至っては今年中に指定団体出荷の酪農家戸数が1万戸を切る予想となっている。
 21年は1万5千戸あったがたったの3年余りで3分の2へと減るのだ。地域によっては酪農牧場がなくなってしまっては地域コミュニティーの存続ができなくなる、町に人が居なくなる、といった問題もある。
 まだまだ問題の山積する酪農業界。今後も応援をお願いします。

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