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石川県馳知事の「国防一体型復興」を斬る ―軍拡より農拡― 岡山大学名誉教授 小松泰信

神奈川、沖縄、能登半島訪問で思う

自治体学校参加 基地の実態知る

倒壊した家屋(石川県輪島市)

 7月21日、「第66回自治体学校in神奈川」の現地分科会「再編強化進む神奈川の基地巡り」に参加し、米軍の兵たん・事前集積・物流基地である横浜ノースドックから横須賀基地、座間キャンプ、厚木基地に行き、大和駅前で行われたオスプレイ配備反対集会に参加した。
 昨年6月、沖縄県名護市辺野古、石垣市、与那国町を訪れ、南西諸島の急速な要塞化には言葉を失ったが、神奈川県における軍事基地強じん化が加速度的に進んでいることにも驚くばかり。まさに軍拡路線まっしぐら。

石川県珠洲市の2メートル超隆起した田んぼ

 他方、7月19日に訪れた能登半島の被災地は、復旧・復興の槌音(つちおと)が聞こえず不気味な静けさの中にあった。訪問した大規模農業法人は、耕作田に2メートル超の土壌隆起があるなど、多数の亀裂やのり面の崩壊、揚水機や頭首工の破損など甚大な被害を受けていた。半島の随所に、このような被害が残り続ける限り、能登農業に明日はない。
 復旧作業に見えないブレーキをかけているのは、馳浩石川県知事が3月28日に県の復旧・復興本部会議で発した「国防一体型復興」発言。要約すれば、「半島における災害と国防とを一体的に考えていく必要あり。防衛省の支援に感謝するだけではなく、輪島分屯地や能登空港がどのような国防的機能を持つべきか意識しよう」とのこと。
 国土全体の軍事要塞化を目指す連中が泣いて喜ぶこの発言は、ショック・ミリタリズム(惨事便乗型軍拡主義)そのもの。『石川県創造的復興プラン』(6月27日公表)には、このような文言は一切なく、ただ「のと里山空港に着陸した自衛隊機」の写真があるだけ。だからこそ不気味である。

平和的国防産業農業の充実こそ

 半島のインフラ整備を手っ取り早く進めるためには、日本海の向こうに控える国々の脅威を強調し、軍拡バブルの波に乗り、ミサイル基地や軍港等の防衛施設を誘致するのが最善策。その時半島に居座る住民も、後継者不足の衰退産業であるにもかかわらず土地を占有する農業も邪魔。だから、復旧を遅らせ、住民や農業者が諦めてその地を離れることを狙っている、と考えるのは決して妄想ではない。
 「幻想としての有事」を触れ回り、今苦難にある国民と農業を斬り捨てる政権に、「国防」を語る資格はない。
 農業者やその団体は、農業再生による地域再生を希求し、食料と多面的機能を営々と生み出してきた平和的国防産業である農業の充実、すなわち「農拡」運動に進まねばならない。