日本でも本格的な食料支援制度を(2024年08月26日 第1614号)
その日の食べものに困っている人々の切実な声
ひとり親家庭や子どもの貧困問題の救済・解決にとりくむNPOやNGOから、深刻な報告があいついでいます。
これらの報告からくみとるべきなのは、国民が“飽食”状態にあるのではなく、食べたくても食べられない人々が確実に増えていることであり、食料支援制度の確立が必要だということです。
1人1食110円の家庭4割強

1人1食110円の食費で生活している困窮子育て家庭は4割強に達した――困窮する子育て家庭を支援するNPO「キッズドア」は6月、こんなアンケート調査結果を発表しました。調査の対象となった家庭の9割は母子家庭。
図は3人家族(親+子ども2人) の1カ月の食費を示したもので、1万円未満、1~2万円、2~3万円の合計で44%に達しています。3人で割ると1人1カ月の食費は1万円以下で、1日330円、1食110円。コンビニおにぎり一つも食べられません。
その結果、昨年に比べた日々の食事の変化は、「親の食事を抜いている」58%、「肉・魚、野菜を減らした」57%、「乳製品を減らした」40%、「主食の量を減らした」28%という状態になっています。子どもの健康状態や成長への悪影響は深刻で、「病気にかかりやすくなった」28%、「発育不全」18%、「栄養不良」13%となっています。
子どもも親も飢えているのが実態です。
「物価上昇で十分な食料を買うお金がない」が89%
別のNGO「セーブ・ザ・チルドレン」は7月から始めた「子どもの食応援ボックス」の申込者にアンケートを実施。申し込み理由のトップは「物価上昇で十分な食料を買うお金がない」が89%、「夏休みで給食がなく食費が心配」57%、「経済的な理由で親自身の食事量を減らしている」57%……。
回答者は、ひとり親世帯が94%を占め、年代別では40代が49%、30代が32%と、若い層が多いのが特徴です。物価上昇による子どものへの生活マイナスの影響を問う質問では、「大いにあった」51%、「ややあった」43%で、9割以上に達しています。
同NGOは「今春は過去最高の賃上げといわれたが、ひとり親世帯では所得が100万円未満の層が増えている」と格差の拡大を指摘しています。
手厚いアメリカの食料支援制度
一方、アメリカはどうか。23年度のアメリカの農業予算は約31兆円(2093億ドル)。そのうち7割(23兆円)が低所得者に対する食料購入支援(SNAP=栄養補助プログラム)などにあてられています。
特徴的なのは次の点です。
(1)給付額は月1人3万2千円。日本では1人1カ月の食費1万円以下が44%を占める(「キッズドア」調査)が、アメリカ並みの食料支援が行われば飢餓的食生活は一発で解決する。
(2)3億3千万人の人口の13%(8人に1人)がSNAPを受給しており、敷居が低いSNAPのもとで、アメリカでは格段に幅広い層に食料が届けられている。
(3)システムも簡便。支給された食料購入カードでスーパーなどから食肉、乳製品、野菜、果実、パンなどの食料を購入できる。代金は自動的に受給者のSNAP口座から引き落とされる。SNAPの受給要件は世帯所得が「貧困ライン」の130%以下。3人世帯の場合、480万円で、日本の困窮家庭のほぼ全てに当てはまる。
(4)食料支援予算は米国人の家庭用食料購入額の12%に相当。これは消費者の購買力を高めることによって農産物需要を拡大し、農家の販売価格も維持できる。食料支援は、消費者にとっても農家にとっても一挙両得。
(5)SNAPのほかに、学校給食補助(1食675円、3千万人が対象)、政府買入食料をフードバンクに供給、女性・子ども・高齢者向けの特別栄養補助など多様な食料支援を行っている。
(JA全中「国際農業・食料レター」24年2月、アメリカ農務省「予算概要」(23~24年版)をもとにしました)
超貧弱 日本の食料支援
これに対して日本政府がやっている「食料支援」らしきものは、子ども食堂にわずか127トン備蓄米を供給しているだけ。備蓄米総量の0・01%にすぎません。
農業基本法改定案は「食料の円滑な入手」をうたいましたが、中身は「食料の寄附が円滑に行われるための環境整備」だけ。
アメリカのSNAPに似た制度としては生活保護がありますが、SNAP受給率が13%に対し、日本の生活保護受給率は2%以下。予算も日本の生活保護制度への国庫負担は2・8兆円(24年)で、SNAP予算23兆円の1割にすぎません。
NGOの調査からは、米に対する支援が切実に望まれていることが浮き彫りになっています。能登の被災者への支援を含めて、国内でその日の食べものに困っている人々に、まずは備蓄米の無償提供を思い切って広げるべきです。
食料安全保障が大きくゆらぎ、日本で飢餓が始まっている現実を直視し、私たちは本格的な食料支援制度を1日も早く実現することを強く要求します。