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全国に広がるネオニコチノイド系農薬汚染 人の健康、環境、生物多様性に悪影響

各地で汚染の実態調べ対策の取り組み広がる
農民連食品分析センターも大きな役割

 人の健康をはじめ環境、生物多様性などに悪影響を与えるとされるネオニコチノイド系農薬。いま全国各地でその汚染の実態を調べ、対策を考える取り組みが広がっています。農民連食品分析センターの検査も調査に大きな力を発揮しています。各地の取り組みを紹介します。

青森 組合員の尿調査を実施
全員から2~4種類が検出

津軽農民組合

6月24日に開かれたネオニコ系農薬についての意見交換会

 青森県の津軽農民組合では、ネオニコ系農薬を減らす取り組みの一環として生産者自身の汚染状況を調べてみようと生産者の尿と水道水の検査をしてみました。分析依頼先の農民連食品分析センターの八田純人所長とオンラインで結んで検査結果の報告を聞いて意見交換を行いました。
 組合員10人の尿を検査した結果は、14種類のネオニコ系農薬のうち全員から2~4種類が検出されています。農繁期(9月)と農閑期(4月)で出方を比較すると、おおむね農繁期の方が数値が高めに出ています。
 原因は農薬使用だけに限らないものもあります。自分の園地ではネオニコ系農薬を使用せず、2カ月間、無農薬米を食べたあとも4月の農閑期に高い数値のネオニコ系農薬の成分、ジノテフランが検出された夫婦もいました。他所から飛散してきた可能性も考えられます。
 岩木川水系と浅瀬石川水系の組合員の自宅の水道水の検査でも、農繁期に採取した岩木川水系の水道水から農閑期の10倍の数値のジノテフランが検出されています。八田所長は「津軽平野の農薬の影響を受けやすいのでは」といいます。浅瀬石川水系の水道水が農繁期、農閑期とも低い数値であるのは、ダム周辺に農地が少ないことが考えられます。
 ネオニコ系農薬の代替薬として普及が進む浸透移行型殺虫剤スルホキサフロルとフロニカミドはいま問題になっているPFAS(ピーファス)(1万種を超える特定の有機フッ素化合物の総称)として扱われる場合もあるフッ素系農薬の一つです。
 参加者から「検出ゼロにはできないのか」との質問も出されましたが、八田所長は「ゼロは無理だが、有機食材を食べた人は確実に数値が下がっている。少なくとも学校給食は有機農産物の使用を求めていくことが必要」と答えました。
 (青森・津軽農民組合事務局長 須藤宏)

果樹でネオニコフリーに挑戦
奈良 北和センター 宮本 照三さん

 ブドウを約1ヘクタール、ナシを3反、栽培する奈良県農民連北和センターの果樹農家、宮本照三さんは、今年の春からネオニコ系農薬の散布をやめ、かん水時にニームオイルを希釈して散布する方法に挑戦しています。
 きっかけは、昨年、妻の静子さんが参加した、農民連女性部と食品分析センターが共同で行った女性農業者の尿のネオニコ系農薬の残留調査で、検体提供者全員の尿からネオニコ系農薬が検出されたことでした。
 「ネオニコ系農薬を使っていない女性農業者からも検出されたと聞いて、ネオニコ依存の日本の農業に疑問を持った」
 しかし果樹栽培では、ネオニコフリー栽培はきわめて難しいのが現実。それでも宮本さんのチャレンジ精神がムクムク。
 効果のほどは、「まだわからんのですわ。なにしろ今夏は酷暑と雨不足がたいへんで。長い目で見て、とりあえずやれるところまでやってみたい」と柔軟に考え、続けています。

無農薬栽培ソバの収量減る
秋田県民連 県にネオニコ規制求め要請

県に対策を申し入れました

 ネオニコ系農薬は殺虫剤として、水田や畑などに広く使用されています。しかし、ミツバチ、他の昆虫などを大量死させ、植物や土中への浸透性、残効性など生態系への悪影響、そして人にも神経毒性が及ぶとされています。
 私たち農家が栽培しているソバは、無農薬での自然栽培です。ソバは花が咲いてミツバチや他の昆虫が受粉の役目をして、実をつくることができます。
 ここ2年、猛暑の影響からか収穫が極端に落ちました。そこで養蜂家の方と相談して、初めてソバ畑に蜂箱を置いてもらい、ミツバチに受粉の助けをしてもらうことにしました。
 養蜂家からは、ネオニコ系農薬等、絶対に使用しないでと厳しく要請されています。ミツバチが死んでしまうからです。
 農薬を頻繁に使用した結果、土壌が汚染され、生態系への影響が危惧されています。今だからこそ、生態系にやさしい持続可能な農業のあり方が問われています。
 県に対して秋田県農民連は7月4日に、今後ネオニコ系農薬使用への規制をするよう早急な対策を要望しました。
 (秋田県農民連委員長 小林秀彦)

新自由主義政策が引き起こした広域大規模公害
水田流域のネオニコ系農薬汚染

秋田県立大学准教授 近藤 正

秋田市の水道水基準値大幅超

ドローンで農薬を散布

 2022年に秋田市の水道水中にEU(欧州連合)の飲用水中農薬類の基準(単一農薬1リットルあたり100ナノグラム未満)を8・7倍超える高濃度の神経毒性の強い殺虫剤ネオニコチノイド系農薬が秋田県立大学、東京大学等の共同研究で確認されたことを受け、23年も引き続き同市水道水中のネオニコ系農薬濃度を8月14日から3日間連続で測定したところ、ジノテフランは3日間とも昨年の最高値を超え、最高でEU基準の30倍を超える3000ナノグラム以上で検出された。
 最高値を示した8月16日は、測定8種類中2種類(ジノテフラン、スルホキサフロル)が500ナノグラムを超え、測定した8種類のネオニコ系農薬の合計だけでEUが飲用水中農薬類の総濃度の基準とする500ナノグラムの7・2倍を超える高濃度の農薬が秋田市の水道水中から検出された。

環境を考える県民の会が発足

11月19日に秋田市で行われた学習会で講演する近藤准教授

 測定値の速報を受け「秋田の環境を考える県民の会」が発足。水道水の粉末活性炭処理が行われてこなかった県への実態報告と、行政主導の詳細な実態把握、水道水対策、農業対策で県民の安全確保をとの緊急の申し入れが23年10月27日に行われ、その後も会主催のネオニコ学習会が11月19日に秋田市、24年3月3日に羽後町で平久美子医師を招き開催された。
 さらに公益法人の助成を受け、地域、女性団体などミニ学習会を5回実施。有機農家支援や農業課題の学習、ホームページでの活動や自主測定の報告、給食無償化と安全食材の地元産供給への参加、6件を超える賛同議員による国・地方議会質問へと展開している。
 健康被害のメカニズムを学び、農薬の基準値や法的制御、使用実態と農業の置かれてきた現状に市民が学び気付きつつある。ネオニコ汚染の実態と要因をたどると、農業を市場原理に放り出し、もうけの場に仕立て、規模拡大と単収増大による効率化とコスト削減型農業だけを推し進め、農薬、化学肥料の利益を最大化し、農業者の依存を強いてきた、新自由主義政府による農業の生産の場と、流通・価格操作の自由化(もうけの手段化)に気づく。

利潤追求型生産 農薬漬け農業に

 農業の新自由主義化、資本主義化の強化は、農業を環境汚染源の公害産業としてしまっている。この現れが秋田市水道水源水、雄物川流域のネオニコ系農薬汚染といえる。当然農産物や、米と水を原料とする秋田も得意とする日本酒への影響は大いに危惧される。
 農薬の安全基準やそれに基づく環境基準を骨抜きの数値として合法化し、企業活動優先の安全性を低めた制度の導入などの規制緩和の謀略も強行し、売り放題、使い放題に等しい野放しの法的条件も“整備”され、導入強化も図られている。
 「みどりの食料システム戦略」では、自ら導入してきたネオニコ農薬を悪者にし、さらなる新農薬の開発と導入に国の予算を注ぎ込ませる飽くなき利潤の追求が展開され、秋田の農村や風土、暮らしが壊され続ける恐怖を抱く。食料を生産しているつもりが農薬漬けの商品を生産している現状にも早く気づきたい。
 上流の水田地帯で父や祖父が農薬散布を業者に委託し、クーラーの効いた娯楽ホールで時間を費やす“農業経営”をし、下流の秋田市に暮らす娘や息子、孫たちは、高濃度に汚染した水道水を飲み、米、野菜から摂取したネオニコに暴露する。皮肉な構図が秋田の実態となっている。

給食の無償化と地産地消実現を

 これに対し、子どもに何を食べさせたいか。持続的で安全な食と暮らし豊かな自然環境を子どもたちに残したいと考える、秋田で有機栽培に取り組む農家の清純な思いと、資本主義社会の中で抑圧されている労働者や生活者、そして公務者が気付き相互に連携し、安全で安定な食料を地元から供給し、心と時間も地元で豊かに暮らす仕組みをつくる要望の第一歩として、秋田市でも給食無償化と安全食材の地元供給の実現を、の取り組みが開始されている。

日本釣振興会がネオニコを重大視

プロジェクト立ち上げる
水質調査で分析センター活用

下山さん(右)と三村さん

 「私たちも知ってしまった以上、強い危機感を持って取り組んでいる」――。
 公益財団法人「日本釣振興会」(日釣振、会長は常見英彦さん)は、昨年3月に「淡水魚減少対策プロジェクト」を立ち上げ、ネオニコチノイド系農薬の問題に取り組んでいます。
 漁族資源の保護・増殖事業及び調査・研究、水辺環境の美化・保全事業、釣り文化の振興・継承などを目的として活動する日釣振の役員の皆さんにその思いについて聞きました。
 「私たち全国の釣り人が、何となく肌感覚で抱いていた“最近、淡水魚が減ったな”という思い。その原因にネオニコが大きく影響していることを初めて知ったのは2019年でした」。専務理事の下山秀雄さんは当時を振り返ります。この年、日釣振の環境委員会が主催したシンポジウムで、当時筑波大学助教授の升秀夫さんが「農薬が日本の釣りを駆逐する」というタイトルで講演。その翌年も山室真澄さん(東京大学大学院教授)を講師にシンポを開き、ネオニコ使用により成分が水路や川に流れ出て、魚のエサとなる節足動物や甲殻類が死滅、結果として魚が減るという研究結果を目の当たりにします。
 三村達矢事務局長は、「私たちはさらに、ネオニコが人体に悪影響を及ぼすこと、諸外国に比べて日本の規制基準値が甘いことを学びました。釣り業界として肌感覚だけではなく、エビデンス(根拠)を持とうと話し合い、プロジェクトを立ち上げ、全国的な調査を始めました」と解説。昨年スタートしたこの調査は、各地の河川水を採水し、「釣獲調査票」を記入して事務局に送付してもらうもの。全国の釣り人から昨年46カ所、今年は200カ所を超える地点で採水され、その試料は分析センターでネオニコの成分別検出検査により測定されます。
 調査に加えて、多くの人にこの問題への意識を高めてもらいたいと、アニメーション動画「沈黙の水辺」を作成。農水・環境両省に規制強化を求める要望書の提出などを行ってきました。

環境委員長の柏瀬さん

 常任理事で環境委員長の柏瀬巌さん(群馬県太田市で釣具店を経営)は「国の対応に不信感を持った」と話します。「私たちは魚を釣るだけではなく、“水辺の監視人”というスローガンを掲げています。通い慣れた水辺の環境の小さな変化に気づくのは私たち釣り人です。それなのに国は『安全です』『基準値内です』の一点張り。生態系について、人体について気づいた時には手遅れ、を防がないといけない」と危機感をあらわにします。
 柏瀬さんは同時に、「しかし農家の皆さんの立場を理解することも重要だと私たちは考えています」と強調します。「工業製品のように規格が決まった農産物じゃないと市場に流通させないやり方や、水産物も同様ですが国の主導で『より安く』を追求してきた結果が、食料自給率の低下や環境汚染を招いたと思います」。三村さんも「農家の皆さんやその家族の皆さんの健康も考えて何とかしたい。日釣振として減農薬やネオニコフリーで栽培する農家さんを応援しています」と続きます。
 下山さんは、「国への要望は継続して行いますが、いろいろな団体や生協と連携して多くの皆さんへ訴えていかないといけない」と決意を語りました。
 昨年の採水調査の結果や動画「沈黙の水辺」は日釣振ホームページ、「淡水魚減少問題」特設ページ内で見ることができます。