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農水省との「農業基本計画」意見交換会 全国有機農業推進協議会 消費者負担型の農政は限界

普通に農業できる環境を

 農水省は、今年5月に改定された「食料・農業・農村基本法」に基づき、おおむね5年ごとに策定される農政の中長期的ビジョン「食料・農業・農村基本計画」(以下、「基本計画」)の第6期計画を来年3月末までに策定するとしています。

 全国有機農業推進協議会(全有協)は9月27日、「基本計画」策定に向けた農水省との意見交換会を農水省内で開催しました。全国から生産者や農業団体、市民団体150人以上が集まり、農水省側は参事官はじめ12人が対応しました。
 農水省大臣官房政策課の梅下幸弘参事官は、今回の基本法改定のポイントとして、「基本理念に『環境と調和のとれた食料システムの確立』を新たに位置づけた」と強調。また農産物の適正な価格形成について、「食料システムの関係者(農業者、食品事業者、消費者等)により、食料の持続的な供給に要する合理的な費用が考慮されなければならない」という2条5項を強調しました。

適正な価格形成 直接支払いで!

農水省に提言する下山さん(前列手前)。後列右から池上さん、齋藤敏之さん、斎藤博嗣さん

 全有協の下山久信理事長は農水省への提言として、(1)災害級の暑さは気候変動によるもの。農業生産も脱炭素、CO2排出の低減を加速させるために農薬・化学肥料を使用するマニュアル式生産からの転換を、(2)国内の食料自給率を上げることは、世界中からの化石燃料を使った食料輸送を減らすことにもつながる、(3)スマート農業の推進は、自然生態系の「循環」を手助けする機械化を、などを列挙。自給率目標や農地確保・労働力の見通しを求めたうえで下山さんは、「農業者をいかに減らさないか、なりゆき任せではダメだ!消費者負担型の農政には限界がある!適正価格の形成には直接支払制度の導入を!」と語気を強めました。  各地の生産者からも切実な声が相次ぎました。
 「地域の実態は人口減少、外国人労働者頼み、医療の崩壊、学校の統廃合が進み本当に深刻。農水省はこの状況をふまえて業務にあたっているのか」(長崎県南島原市の農事組合法人代表)、「新規就農者を育てる人への支援の予算化を」(茨城県笠間市の農家)、「基本計画の中に畜産についても触れてほしい。畜産においても消費者や都市生活者との連携が必要」(山形県米沢市の養鶏農家)、「集落の若い世代や役場の職員から声を聞いてきた。国の新規就農者支援の対象年齢を50歳以上に引き上げてほしい、適正な価格保障の実現だけでなく適正な所得補償を、スマート農業の導入はコストが高すぎる、などの声があり、とにかく普通に農業ができる環境をつくってほしい、という思いだ」(宮城県角田市の市議会議員)。

農地集積も限界 食料支援議論を

 福島県二本松市の菅野正寿さん(福島県有機農業ネットワーク)は「国や県は農地の集積目標を80%に、と言うが現実は40%にも満たない。多様な人々が農村の維持に関わっている。中山間地の急傾斜地に対する直接支払いの増額を」と述べました。農民連の齋藤敏之常任委員(千葉県船橋市の農家)は、政府が9月から備蓄米をフードバンクや子ども食堂に供給することを決めたことに触れ、「一人一人の食料へのアクセスを保障するための増産計画が必要だ。これを機に、備蓄米の制度の在り方や食料支援制度について議論を」と要望しました。
 FFPJ(家族農林漁業プラットフォーム・ジャパン)の池上甲一常務理事(近畿大学名誉教授)は、多様な担い手としての中小家族農業への支援強化、農民の種苗権の制度化などを要望した上で、「基本法6条で地域社会の人口維持に言及したことは評価し、今後の具体的実施に期待したい」と述べました。同じくFFPJ常務理事の斎藤博嗣さん(茨城県阿見町の農家)は、「食料だけを見て、農業・農村を見ない形になってはいけない。農的生活に関心を持つ多種多様な人々をくみ上げ、農家・農村を支える仕組みを一緒に考えよう」と訴えました。

政党の農業政策 衆院選で問おう

 農水省は「交付金をもらうことが経営の目的になってはならない。所得補償よりも適正な価格形成の議論をしたい」、「私たちは確かに20年後には農業従事者は30万人にまで減少する、という試算を出しているが“減って当然”とは思っていない。問題意識は皆さんと同じ」などと回答しました。
 下山さんはあらためて、「日本という国の在り方が揺らいでいる。衆院選挙では各地で各政党に対して農業政策について問うていこう」と参加者に呼びかけました。