農政に一言 国は農村・中山間地の振興にもっと支援を
中山間地域直接支払いの集落加算廃止は許されない
NPO法人中山間地域フォーラム副会長 野中 和雄さん(元農水省・構造改善局長などを歴任)
農基法の改定は農村政策不十分

今年6月に「食料・農業・農村基本法」が改定されました。食料安全保障という観点が強調された改定でしたが、中山間地域・農村の振興という観点からはどうだったのでしょうか。
国内農業を支えているのは、中山間地域・農村の農業者です。しかし、高齢化や後継者難などで営農が厳しい状況にあり、農業だけでは生活できない現状に、基本法改正が応えられるものだったかというと、それは疑問です。食料安保は大事ですが、農業を担う農業者の所得をどう確保するかという議論と施策、つまり農村政策は不十分だったと言わざるをえません。
次に、中山間地域が国民にとって大事だという位置づけとともに、今後どういう地域にしていくのか、農村振興のためには何が必要かというビジョン・展望を「改正法」の中でもっと示すべきだったと思います。
若者が農村に目を向けている今こそ
NPO法人中山間地域フォーラム 副会長 野中 和雄さんインタビュー
農村地域発展に加算が役割発揮
農水省は、2025年度予算の概算要求で、「中山間地域等直接支払制度」の「集落機能強化加算」を基本的に廃止することを明らかにしました。
私たち「中山間地域フォーラム」は9月24日、「中山間地域等直接支払制度の集落機能強化加算の廃止に関する意見書」を武村展英農林水産副大臣に提出し、その廃止方針を撤回し、継続するよう強く提言しています。
中山間地域等の農業を維持するために、営農以外の視点も含めた集落機能の強化が近年ますます重要になっています。
現行の「食料・農業・農村基本計画」のなかで、今後の農村政策として、農業以外の視点も踏まえ、地域コミュニティー機能の維持や強化を推進することがうたわれ、集落機能強化加算は、こうした動きを受け第5期対策(2020年から24年)の重要項目として新設されたものです。
にもかかわらず、その成果について第三者委員会等での検証も行われないまま短期間で廃止することは、継続性、基本計画との整合性、政策形成の透明性からみて重大な問題があります。
実際に集落機能強化加算は、すでに高齢者の見回り、買い物支援等に広く活用されて集落機能の強化に大きな役割を果たし、耕作放棄の抑制や農業生産の維持にも効果を発揮しています。加算を活用する地区数も年々増加傾向にあります。
こうしたことから、加算廃止の方針は、地域の現場に大きな失望と混乱をもたらし、集落の一体的な取り組みに努めてきた地域のリーダーや市町村の信頼を大きく裏切るものとなっています。
農山村は資源と可能性の宝庫
中山間・農村地域の振興には、農業者の所得を補償することが大切です。同時に、6次産業化、農福連携、鳥獣被害対策など農業への支援とともに、地域資源を活用した取り組みへの支援も重要です。再生可能エネルギーの活用、景観を生かした観光、地域の伝統芸能等文化的な取り組みなど、農山村は資源と可能性の宝庫です。
若者たちが農村に関心をもち、目を向け始めている今こそ、中山間地・農山村への十分な国の支援が求められています。