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奥能登豪雨被害調査 大地震の被災地で線状降水帯による豪雨 国は被災農家に万全の支援を

収穫直前の米が大被害 来年の見通しも立たず

1次産業軽視改め、地域の再生を

 農民連災害対策本部は10月14日、豪雨被害を受けた石川県の奥能登地方、輪島市と珠洲市の被害調査を行い、石川農民連の宮岸美則会長と富山県農民連の水越久男副会長、農民連本部の渡辺信嗣災対部員らが、能登半島地震被災者共同支援センターの黒梅明事務局長の案内で現地を調査しました。

山林の荒廃が大被害の引き金

山崎さんの自宅(奥)前の道路は流木と土砂でふさがれたままです

 まずは輪島市山本町の大屋公民館に避難している農民連会員の山崎信寿さん(77)を訪ねました。
 同市の小池町の海岸沿いの田んぼに今年は200坪を作付けした山崎さんは、3分の1程度刈ったところで豪雨被害にあいました。片道徒歩1時間半かけて残りの刈り取りをしていましたが、9月16~20日にかけて雨が続き、はざかけを4つ干したところで残りはあきらめました。
 地震で被災した納屋は修理し、電気さえ通れば脱穀もできるのですが、水害で停電してしまい、復旧待ちの状態です。農地には50坪ほどサトイモも植えてあり、「ボランティアに収穫を手伝ってもらえないか」と山崎さんは話しています。
 山崎さんの自宅はいまだに大量の流木と土砂が残され、1階部分は埋まっています。流木が家の中にまで流れ込み、家の前に停めていた軽トラは潰れ、ガラスも割れ、壁も破損。角の柱も折れてしまいました。
 「近隣の荒れた山が震災にあい、今回の大雨で土砂と流木が大量に流れてきた」と山崎さん。林業の衰退が災害の呼び水になっていると指摘します。いまだに家に入ることすらできず、早く流木と土砂を片付けてほしいと山崎さんは熱望します。

農民連の支援に助けられた

 山崎さんの隣家に住む倉田真之さん、幸子さん夫妻も家の片づけで自宅に戻っており、農民連の腕章をつけた私たちに「農民連のみなさんの支援に大変助けられています、お米もとってもありがたかったです」と感謝を述べ、ボランティアの力を借りて泥出しをしていることなどを話してくれました。

家の前一面が川のような洪水

 町野町鈴屋地区で釜谷裕之さん、圭子さん夫妻のお宅を訪ね話を聞きました。
 この集落では震災後、釜谷さんと他の1軒以外は仮設住宅に避難しています。水害時には、裕之さんは能登町の職場におり、自宅には圭子さん一人でした。「目の前の田んぼがすべて川のようになり、道路標識のところまで水が上がりました。自宅の浸水は免れたものの、携帯もつながらず、とても恐ろしかったです」と振り返ります。集落の今後を話し合うこともできておらず、先行きは不透明です。
 珠洲市上戸町でも広範囲で田畑への土砂流入があり田んぼが跡形もない場所もありました。コンバインが使えず、手刈りして脱穀だけコンバインでしていた農家もいました。

地震被害の上で豪雨がとどめに

被害状況を説明する(有)すえひろの政田さん(正面右)と末政社長(同左)

 同市内で最大規模の生産法人「有限会社すえひろ」の事務所を訪問。浸水の後片付けの最中にもかかわらず、社長の末政博司さんと政田将昭さんが話をしてくれました。
 同社は震災でほ場のひび割れのほか、使用していたすべての水源が被害を受け、対策を取りながら、米83ヘクタールと田んぼに大豆を17~18ヘクタール、畑に小豆6ヘクタールを作付け。県の単独補助事業で緑肥を20ヘクタール作付けし、若い職員の雇用の維持と、耕作放棄地も出さないように奮闘していました。
 3分の1を刈り取りしたところで大雨が降り、残っていた水田はすべて浸水しました。事務所前の田んぼは2回挑戦してあきらめるなど、泥やごみ、流木の流入で、刈り取り不能な田んぼも出ています。収量がどうなるかわからない状況です。
 事務所内は60センチほど、外は1メートルほどの浸水に見舞われ、事務所の玄関や向かいの倉庫は水圧でシャッターや扉がゆがみ、倉庫内の軽トラやフォークリフトが水没しました。倉庫内の新米6トンや昨年産の大豆、小豆も大半が廃棄に。幸いにしてトラクターなど大型農機具はほとんど被害なしでしたが細かい機器はかなり被害があり、ドローンは全滅しました。
 農水省から震災と同様の対応をすると話がありましたが、法人の持ち出し分だけでも結構な負担になります。収入保険も6月決算なのでそれ以降の支払いになります。
 ほ場の被害調査が終わらず、来年の計画が立ちません。地域では地震被害による農業用機械の再取得支援事業を多くの人が申請していますが、大雨前までに1円も払われていないなど、助成事業の支払いまでに時間がかかっています。政田さんは「せめていつごろ結果が出るのかだけでも教えてほしい。これでは資金繰りに悩む生産者も増えるのではないか」と危惧しています。
 収入保険についても「せめて物価高騰分は反映させてほしい」と要望。「米価も上がり、作付けが減っても一定売り上げが確保でき、借り入れせず資金繰りができそうだと期待していたところに大雨被害が来て本当にがっかり。同時に今後の資金繰りに不安があります」と話していました。

稲刈りをあきらめた田を見つめる宮岸さん(右)と黒梅さん

 大地震の被害から復旧半ばでの大雨で、大きな被害が発生しました。林業など1次産業の衰退による山の荒廃も、被害の拡大に拍車をかけました。集落がほとんど避難するなど地域の未来の姿が見えない地域もあります。
 激甚災害指定された地域の復旧を放置せず、国の責任で復旧を急ぐとともに、なりわいの再生に責任を持つ行政の取り組みが必要です。農民連は今回の調査結果をもとに近日中に農水省に対し、被災農家の救済を求め要請を行う計画です。