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持続可能な未来は食と農の転換で ドイツ 環境先進国を訪ねて 農民連国際部長 岡崎 衆史

有機化で温暖化防止へ 運動と生産の努力進む

燃料税減税廃止に農民反発「移行には支援が必要」

 気候危機への対応が不可避になるなかEU(欧州連合)や政府の対策への反発から大規模な農民デモが相次ぐ欧州。欧州の農民はいまどんな状況に置かれ、どのような未来を見据えているのか? 9月後半、中欧ドイツを訪ねました。

三重苦の上に減税廃止

AbLのシュミッツ事務局長(ハム近郊のAbL会員の農場内にある直売所で)

 「持続可能な未来には食と農の転換が必要だが、それを担う家族農業は新自由主義農政と気候危機、物価高の三重苦に直面している」。こう話すのは農民連と同じく国際農民組織ビア・カンペシーナに加盟する農民的農業連盟(AbL)のベルント・シュミッツ事務局長です。本部のある中西部の都市ハム近郊の組合員の農場で説明してくれました。
 三重苦は、(1)新自由主義農政(特に、自由貿易協定の推進、ウクライナ産穀物の無関税での流入、生乳生産割当制廃止による乳価の乱高下)、(2)気候危機による干ばつや豪雨などの極端な気象と頻発する災害、(3)物価やエネルギー価格高騰。このような状況下で政府が打ち出したのが、農業用ディーゼル燃料への減税廃止でした。ディーゼル燃料税は1リットル当たり47セント(約75円)ですが、農業用については25・5セント(約41円)。この減税をなくす提案に怒った農民の抗議行動は昨年12月から瞬く間に広がり、1月15日には首都ベルリンに5000台のトラクターと3万人が集まりました。

農政の根本転換求めて

放牧中の牛たち(クレッポルト農場)

 「ディーゼル燃料の使用削減に反対してはいないが、移行には特別な支援と農政の根本転換が必要」とシュミッツさん。AbLは環境団体などとデモを行い、年間使用料が1万リットル未満の中小農民には28年までの減税継続を求めてきました。
 農政の転換を求める署名も1月から開始しました。要請項目は、(1)酪農家の価格交渉力の強化、(2)動物福祉向上への支援強化、(3)農家への農地の保障、(4)環境保護努力への財政支援、(5)EU共通農業政策(CAP)の公正な分配、(6)遺伝子組み換え作物規制の強化。署名は9月末には8万6千人分を超えました。

有機農業には手厚い支援

飼料用トウモロコシを手に循環型農業について語るヨハネス・クレッポルトさん

 有機農業やCSA(地域支援型農業)など持続可能な生産と消費の努力も進んでいます。
 南部バイエルン州にあるクレッポルト農場は、ドイツ最大の有機農業生産者団体ビオラントに加盟しています。120ヘクタールの農場を経営するのはヨハネス・クレッポルトさん。妻のアナさん、ヨハネスさんの父母、研修生1人、農繁期の季節労働者とともに作業しています。繁殖牛50頭を飼育しつつ、自家製堆肥を活用し、小麦などのパン用穀物、食用大豆、実取り用トウモロコシなどを栽培し、週3回農場内直売所も運営しています。「有機小麦は、収量は慣行農法より落ちるが、倍の値段で売れる」とヨハネスさん。農産物販売による収入に加えて、EUが支払う農地1ヘクタール当たり300ユーロ(約4万8千円)、バイエルン州が支払う有機農地1ヘクタール当たり300ユーロの直接支払いが下支えしています。
 比較的安定した所得が保障され、環境にも健康にもいい有機農業はドイツで急増。全農地に占める有機農地の割合は23年に11・4%、有機農家数も全農家の14・4%です。

連帯農業も本格化

 一方、同じバイエルン州で3500世帯に有機農産物を届けるドイツ最大のCSAを実践するカルトッフェル・コンビナート農場も訪ねました。CSAはドイツでは「連帯農業」と呼ばれ、2010年には連帯農業協同組合ネットワークが設立され、22年には全国で500農場を超えました。
 応対したダニエル・ユーバーアルさんは、「モデルは日本の産直。どこで誰がどのように生産しているか分からないスーパーに対抗して地域の生産者による旬の農産物を届け、生産者と消費者をつなげるために創設した」と胸を張りました。
 従業員は40人。野菜の種類は50種類以上、冬には独自の加工品やビールも届けます。連帯農業がドイツで本格化したのはここ10年で、現在も広がっていると話します。
 ドイツ政府が設定する農業部門の温室効果ガス削減目標は、90年比32・2%減の6100万トン、これを2030年までに削減するというもの。有機農業は全農地の30%とする目標を掲げています。実現に向けて、市民社会主導の農政転換を求める運動と、生産点での努力が進んでいることを確認できました。