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広がるネオニコ汚染 DPJが創立5周年シンポ開く ネオニコ汚染の実態報告

市民による検査を蓄積

「農薬規制値 日本は緩すぎる」

秋田、沖縄、釣り団体や医学博士ら研究や取り組みを発表

(右上から時計回りに)安田さん、八田さん、友利さん、柏瀬さん、木村―黒田さん、天笠さん

 人の体内に入った農薬を調べる市民による共同プロジェクト、デトックス・プロジェクト・ジャパン(DPJ)は10月11日、設立5周年シンポジウムを国会議員会館内で開催しました。
 開会のあいさつでDPJ共同代表の安田節子さん(食政策センタービジョン21代表)は、「グリホサートによる汚染状況を調べるために国会議員23人の毛髪検査の結果を公表した2019年9月にDPJはスタートした。政府があてにならない中、市民が自前で検査を行うDPJと農民連食品分析センターの存在意義はあらためて重要だ」と述べました。
 シンポジウムのテーマを「水はいのち――広がるネオニコ汚染」として5人が登壇しました。


農薬出荷量に見合った検出数

 農民連食品分析センターの八田純人所長はネオニコ系農薬尿検査について報告。21年からDPJが取り組む同検査(全国の誰でも検査できる)のうち、直近1年間の検査結果(データの取りまとめができている138検体)を解説しました。
 八田さんは「129人(93%)から対象農薬(全15成分)が1つ以上検出された」と述べ、さらに検出傾向として農薬出荷量が最も多い「ジノテフラン」が118人から検出され(80%)、出荷量第2位の「クロチアニジン」が92人から検出された(65%)と報告。「出荷量に見合った形で私たちも口に入れ暴露し、尿から出ていることが分かる。この傾向は昨年と同じ」と述べました。

秋田市の水道水 高濃度ネオニコ

 秋田県秋田市「子どもサ、安全な水ドゴ届ける会」共同代表の今野茂樹さんは秋田市の水道水から高濃度のネオニコが検出された問題について報告しました。
 22年8月に秋田市の水道水から1リットルあたり868ナノグラム(ナノグラムは10億分の1グラム)、翌23年8月には同3060ナノグラムの「ジノテフラン」がそれぞれ検出されました。これについて秋田市は、「国の水質管理目標値はジノテフランの場合、1リットルあたり60万ナノグラムだから問題ない」として何ら対応しない姿勢をとっていません。しかし今野さんは、「EUの農薬規制値は飲料水中で、1リットルあたり100ナノグラムを超えてはならない、としている。日本の値はあまりにも緩すぎる」と重大視。
 主に田んぼでカメムシ防除として使われた「ジノテフラン」が1級河川の雄物川に流れ込み、最も下流の秋田市の水道水に入り込んでいると報告し、「私たちは問題解決のための具体的提案として、カメムシ被害額としての1等米と2等米の価格差を交付金などで縮小させる案を県に訴えている」と述べました。

宮古島で子どもの健康被害急増

 医学博士で「宮古島地下水研究会」共同代表の友利直樹さんは、「沖縄県宮古島市では主力産業のサトウキビ栽培で使われている『クロチアニジン』などによる農薬複合汚染が地下水で広がり、深刻な危機をもたらしている」と報告しました。
 友利さんは特に胎児や小児への健康被害を強調。市内では2012年からの10年間で発達障害児童・生徒数が44倍に増え(県平均の4・4倍、全国平均の20倍)、これは市内の農薬年間供給量と相関関係にあると解説。「人が毎日、一生涯にわたって摂取し続けても健康に影響がない物質量『1日摂取許容量』を基準に水道水中の基準値を設定しているが、これは体重50キログラムの成人で設定している。この値を胎児や小児にも適用していいはずがない。子どもたちの健康と未来のために私たちは活動している」と述べました。
 公益財団法人「日本釣振興会」の柏瀬巌常任理事は、「私たち釣り人は近年ウグイやオイカワが釣れなくなり、エサのカワムシもいなくなったのは、ネオニコが影響している可能性があることを知り、独自の調査を始めた」と解説。全国の河川採水調査などを進める中で柏瀬さんは「国や行政や政治家は、国民の健康や環境保全のことを本気で考えているのかという疑問を抱かざるを得ない」と述べ、自分たちが社会啓発や運動を広げていく、という意義を強調しました。

農薬再評価制度 公平・透明性を

 医学博士でDPJ顧問の木村―黒田純子さん(環境脳神経科学情報センター副代表)は「農薬再評価」制度についての状況を報告しました。
 18年の「農薬取締法」改正により、これまでの形式的な確認作業による再登録を廃止し、農薬再評価制度を導入し、使用者への健康影響の評価などを充実させた。しかし、再評価に必要な「公表文献」の収集・選択・評価を農薬企業が行うことを木村―黒田さんは問題視。「利益相反にあたる企業自身が再評価を公平に行えるのか。第三者が実施するよう農水省や食品安全委員会に繰り返し改善を求めている。再評価の審議内容についても原則非公開だが、できる限り公開し、透明性を高めるべきだ」と述べました。
 閉会あいさつでDPJ共同代表、ジャーナリストの天笠啓祐さんは、「いま市場に徐々に出回ってきたネオニコ代替農薬8種類の全てが浸透移行性で、その内7種類がフッ素含有でPFAS(ピーファス、有機フッ素化合物)に分類される。今後とも皆さんと監視を強めていきたい」と述べました。