アイコン 新聞「農民」

農政に一言 全国農業会議所専務理事 稲垣 照哉さん

基本計画策定 国は農業者に寄り添った取り組みを

農業・農村の振興に大きな役割を果たす農業委員会

地域計画の重要性をアピールする稲垣専務

 2013年の農地バンク法制定、14年の農業委員会改革論議、15年の農業委員会法改正等、切ない思いをしてきた農業・農村及び農業委員会組織にとって、今回の「食料・農業・農村基本法」改正は、農政を地域に取り戻し、農業は地域のみんなでやるという現場の常識に近づけたものだと認識しています。
 22年2月24日にロシアによるウクライナ侵攻が始まったことで、世界は変わり、食料安全保障の確保が重要な課題になりました。
 今回の改正により、(1)国民一人一人の食料の円滑な入手、(2)環境と調和のとれた食料システムの確立、(3)農業の持続的な発展、(4)地域社会が維持される農村政策が重要な理念として位置づけられました。
 この理念法である基本法を具体化する基本計画の策定(来年3月)に当たっては、農業者、農地、生産、所得などを減らさず増やすこと、維持することをキーワードに、希望のもてる農業・農村をめざして取り組んでいく必要があると思います。

主体の形成・育成図ること重要

 政府が基本計画を策定するのと並行して農業・農村の現場では、市町村で地域の農業の将来像を話し合いで明らかにし、10年後の農地ごとにその農地を担う者を明らかにした目標地図を備えた地域計画策定の取り組みが来年3月末日をめざして進んでいます。
 大事なことは策定期限の来年3月はゴールではなくスタートであるということです。「担う者」が特定できた地域計画ではそれを実現するため農業委員会が、権利設定に向け農地のマッチング活動に重点的に取り組みます。そうではない「担う者」が特定できず、白い部分の多い地図の地域は、それを埋めることに取り組む必要があります。そのためには新規就農者を呼び込んだり、集落営農を組織したり地域の内外の需要を取り込める主体の形成・育成を図ることが重要です。

現場に寄り添い共感持てる施策を

 そういうなかで私たちは、「担い手」がいないから地域計画ができないという考え方を払しょくし、中小・家族経営、兼業農家をはじめ、定年後就農や多様な職業の一つとして農業を選択する人などを巻き込んで、地域全体でつくり上げていけるよう、サポートしていきたいと思っています。
 農業者の確保のためにも、希望者が農業を選択できる環境を整備することに加え、高齢化が進む認定農業者の経営継承を支援し、新規就農者のために、トレーニングファーム的な取り組みを強化する必要があると思います。
 いま国民の農業への関心は高まっています。農業委員会の中には、市民・消費者とともに遊休農地を解消し農作物を育て、共に頂く取り組みを行っている委員会もあります。
 農業委員会は地域で、農業・農村の価値を大いにアピールし、理解を広げるとともに、国には引き続き、農業の現場に寄り添い共感を持った施策の展開を求めていきたいと思います。