畜産・酪農の危機 さらに深刻 農民連 畜産対策で農水省から聞きとり(2024年11月18日 第1626号)
小規模・家族経営への支援強化を早急に

オンライン併用で行われた農水省からの聞きとり
ここ数年、日本の畜産農家・酪農家はかつてない飼料・資材の高騰に直面し、離農・廃業が相次いでいます。「日本から酪農・畜産の灯を消すな」を合言葉に、農民連をはじめ市民と野党が共同した広範な運動が広がるなかで、昨年3月、生産者の願いに一部応えた内容の「畜産・酪農緊急対策パッケージ」が実施されました。しかし、今年2月時点の畜産統計を見ても酪農家は5・6%(700戸)減、肉用牛では5・4%(2100戸)減、養豚では7・1%(240戸)減と、離農・廃業がますます加速し、畜産・酪農危機は深刻化しています。こうした危機的な状況を打開していく力にしようと、農民連は11月6日、畜産問題に絞って農水省からの聞き取りを行いました。
今回、農民連から農水省に説明を求めたのは、(1)配合飼料価格安定制度の変更点、(2)牛の肉骨粉の飼料向け使用解禁、(3)家畜の飼養衛生管理基準の変更点、(4)新農業基本法にも盛り込まれた、生産コストを価格に反映する「適正な価格形成」の法制化に向けた議論の進展状況などの5項目です。
どの項目でも、畜産農家・酪農家の負担がどのように変わるのか、あるいは増える心配がないのか、また制度改定や新法制定によって畜産農家にどのような影響があるのかについて、重点的に説明を求めました。
配合飼料価格安定制度をめぐっては、輸入穀物価格の高騰が長引くなかで、基金財源の枯渇と借金の膨張による制度の行き詰まりが大問題となっています。とくに国と飼料メーカーが1対1で基金を積み立てる異常補てんは、この拠出割合を見直さない限り、国が拠出を増やすと飼料メーカーも同額を積み立てなければならず、メーカーの借金が増大しています。
農水省は、「畜産農家への補てん額を、エサの購入先ごとに3つに分かれている基金ごとに自分たちで変更できるようにして(現在は3基金同額)、国からの拠出も減るが、各基金の借金も少なくできるように運用を改善した」と説明。参加者からは、「実際には畜産農家への補てんが減額されることになる。国とメーカーの拠出金の割合を見直し、国の負担を増やしてほしい」との声が上がりました。
また生産コストの価格転嫁については、予算拡充をともなう農家支援が検討されているかをただしましたが、「現在はない」との回答でした。
農民連では、今後も「個人要望書」を集めながら畜産農家との対話を進め、畜産危機打開に向けて運動を推し進めていくことにしています。
価格転嫁で需要減が心配
(千葉県千葉市・酪農)金谷 雅史さん
生産コストを価格に反映したいのは当然だが、牛乳・乳製品の価格がその分まるまる上がってしまったら、消費需要が落ちてしまうのではと、とても心配。この議論が不十分なまま、法律で価格を引き上げるのが本当に正しいのか、疑問だ。全国的に見れば、消費が落ちることで、さらに減産を強いられる生産者が出るのではないか。
規模拡大を補助するクラスター事業の再開を望む声もあるが、一部の生産者が億単位の補助を受ける制度で、公平性に欠け、大規模と小規模の格差をより拡大する補助制度だと思う。
その分の予算を、自給飼料の増産などにもっと手厚く助成すれば、輸入飼料依存も打開でき、需給バランスもより改善していくのではと思う。
基準順守の費用に支援を
(静岡県浜松市・養豚)森島 倫生さん
近年、とくに今年の夏は、異常気象では済まされない猛暑になり、生産性が悪化した。国は畜産での暑熱被害の実態やデータをつかんでいるのか。
飼養管理基準の引き上げ自体には反対ではないが、順守には非常に多大なコストがかかる。わが家ではパン工場の残さをエコ飼料として活用しているが、基準の引き上げで加熱処理が求められ、その施設への投資が1000万円もの負担になる。政策の実行を生産者に求めるのなら、予算措置をしっかりしてほしい、というのが率直な思いだ。
豚熱対策で農場周囲に柵を設置した際には、国から9割が補てんされ、とても助かった。やはりこれと同じくらいの支援を行ってもらいたい。そうでなければ、管理基準がつくられても、生産者は続けていけない。このままでは小規模の養豚農家は全滅してしまうのではないか。
配合基金の国負担増額を
(千葉県横芝光町・養豚)山﨑 義貞さん
配合飼料価格安定制度について、昨今の飼料高騰ではこの異常補てんが拠出されて、生産者は非常に助かっていた。今後も世界情勢などを考えれば、飼料の価格高騰は大いにあり得ると思う。
異常補てん制度は、現在は飼料メーカーと国が1対1で積み立てることになっており、飼料メーカーの借金は将来的にはエサ代を払う生産者の負担になる。配合基金も肉牛や豚の経営安定交付金(いわゆるマルキン)制度の積み立て(※国が3に対して生産者1)のように積み立て割合を見直し、国が拠出を増やす必要があると思う。
また飼養衛生管理基準は、大規模なら畜舎ごとに管理作業を完結できて守りやすいが、小さな豚舎を行き来して作業する小規模養豚には、非常に無理な基準項目もあると思う。
農業人口の減少は深刻
(北海道別海町・酪農)岩崎 和雄さん
いま酪農地帯では、後継者がどんどん減り、大規模化している牧場も含めて、農業に従事する人が足りなくなってきた。このまま離農が続くと、自給飼料の耕作組合の機械の運転手も足りず、外国人労働者でも仕事がまかなえなくなり、将来は増産もできなくなると心配している。
去年はエサも高く、生産調整もせねばならず、大変だった。余ったら減産しろ、足りなくなれば増産しろと、政策的にきわめて不安定だ。
地獄のような暑熱被害
(神奈川県愛川町・養豚)松下 憲司さん
今夏の暑熱被害は地獄のようだった。豚がまったく育たない。受胎率がものすごく悪く、非常に苦労している。今後もずっと温暖化が進むと考えると、畜産をやっていけるのか心配だ。豚舎を冷やすのは非常にお金がかかる。今から来年の暑熱対策をどうしようかと、本当に頭を痛めている。