おいしいブドウづくり半世紀以上探求つづける 異常高温の影響で品種切り換えも意欲 “もっと喜ばれるブドウを”(2024年11月25日 第1627号)
山梨県笛吹市石和町のブドウ農家、丹沢民雄さん(山梨農民連元会長)は「食べる人がよりおいしく、より安全に」と半世紀以上ブドウづくりを続けてきました。収穫シーズンを終えた丹沢さんのブドウ畑に行くと、木の植え替えのために自ら重機を操り、土を掘る元気な姿が。農民連ふるさとネットワークのカタログでも大人気の丹沢さんのシャインマスカット。おいしいブドウづくりの実践と取り組みを紹介します。
山梨県笛吹市石和(山梨農民連元会長)
丹沢民雄さん(87)
元肥は有機質施し方にも工夫

「食べた人の喜びの声が何よりも励みになる」と話す丹沢さん
土づくり、丈夫な木をつくるために収穫シーズン後に毎年行う元肥の施肥。以前は畑に全面散布していました。「全面散布を繰り返すと根がどうしても地表方向に伸びてきてしまう。根を広く深く張らせるためにはどうすればいいか」。6年前からやり方を変えました。
150センチメートルほどのカナテコバールを使い、木のまわりに30~40センチメートル間隔で穴を掘り(下が細くなる円すいの形で入り口の直径は約8センチメートル、深さ60センチメートルほど)、そこに肥料を投入します。「こうすることで根が上へ伸びることを抑えられる。中耕除草などの際に根を傷めることもない。果樹は永年作物だから、年月を経た木の根を傷つけるとそれが致命傷になることもある」。自分の手を使って掘ることで石か根か判断できると言います。
元肥として与えるのは魚粉、海藻ミール(2種類)、土壌改良剤の「ミネグリーン」と「コフナ」です。窒素・リン酸を魚粉から、カリを海藻から補います。ミネグリーンはミネラル成分が豊富な上に、ケイ酸が多いことが重要と話す丹沢さん。「この辺りの土地は笛吹川の氾濫でできた砂地でケイ酸が不足している。これをしっかり与えることで植物体としての組織が強くなる」。コフナは微生物の働きで土壌病害の予防と有機質肥料の分解・吸収を促進します。
色づき良化に光合成細菌

畑の横の堆肥場。ここにもコフナを混ぜて発酵を促します
約60アールの園内でシャインマスカットと甲斐キングを栽培していますが、いま徐々に甲斐キングの比率を高めていると言います。「異常高温と秋口の長雨の影響を受けるシャインはどうしても裂果が出てしまう」
甲斐キングは山梨県果樹試験場が開発した、ピオーネと巨峰を掛け合わせた品種で、丹沢さんの地域では8月中旬から下旬に収穫されます。「このブドウもとてもおいしい。高温の影響で全国的にピオーネなどの色付きが悪くなり、市場が“黒い”ブドウを求めている」と意欲をのぞかせます。重機を使った作業はシャインから甲斐キングへの植え替えです。
色づきの良い甲斐キングを作るために丹沢さんが昨年から活用しているのが光合成細菌です。生きた菌が入った液体を購入し、スピードスプレーヤーのタンクを改造した容器で保温・培養し、展葉後にかん水と混ぜて散布します。「光合成細菌はバラや茶、柿の着色が良くなるということで、私も以前クイーンニーナという赤系のブドウに使ったらよく色が出た。糖度も上がる」と期待を込めます。
農薬使用はできるだけ控えたい

植え替えのために抜いたシャインマスカットの幹や枝。年明けのせん定作業で出た枝と一緒に粉砕して堆肥場に入れます
農薬散布はこれまでカイガラムシ防除のために「スプラサイド」を使っていました。収穫したブドウは毎年全ての品種を農民連食品分析センターで検査し、農薬が残留していないことを確認してきましたが、昨年スプラサイドが製造中止に。今年はネオニコチノイド系農薬「トランスフォーム」を使用しました。「農薬、特にネオニコはできるだけ使いたくない。今回はどうしても使わざるを得なかったが代替品を探している」。6月に1度散布し、分析センターでの検査では残留は確認されませんでした。「農家がネオニコを使う理由もよく分かる。使う側のメリットとしては大きい。でも食べる人や環境中への影響を考えたら…」。これまで被害のなかったカメムシも昨年から徐々に増え、警戒を強めています。
自分のつくるブドウまだまだ
研究熱心な丹沢さん。話の中で微生物や成分分析の研究者の名前が頻繁に出てきます。灰色カビ病を防ぐための納豆菌の活用や、甲斐キングの「花ぶるい」(開花後に落下してしまうこと)を抑えるための肥料配分を探求中です。「自分のつくるブドウはまだまだ。味は何とか及第点だが、粒はもう少し大きくしないと。でも食べた人が『おいしかった』と言ってくれるのはうれしい」と笑顔で話す丹沢さん。おいしいブドウづくりの挑戦は続きます。