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映画「侍タイムスリッパー」 2024年新語・流行語にノミネート(2024年12月02日 第1628号)

“お米も映画も丁寧につくっています”

農業の現状 多くの人に知ってほしい

映画監督の安田 淳一さん
京都の米農家・農民連会員

映画「侍タイムスリッパー」

 いま全国の映画館で上映されている「侍タイムスリッパー」という映画をご存じでしょうか。
 江戸時代末期、会津藩士である主人公が家老の密命を受け、長州の志士を討つべく京の山門で相対したとき、突然まばゆい閃光(せんこう)に包まれ意識を失い……気がつくと、そこは現代の京都、時代劇撮影所だった。侍に待ち受ける試練、運命やいかに――。
 この映画の監督で撮影・脚本・編集を手がけた安田淳一さん(57)は京都府城陽市で1・4ヘクタールの田んぼを耕す米農家でもあります。映画がヒットした今だからこそ伝えたいこと、日本の農業や農民連についての思いを聞きました。

田植え機に乗る安田さん

 「泣いて笑ってドキドキしてもらえる娯楽映画にしたいと思って撮りました」。安田さんは振り返ります。主人公の侍(演じるのは山口馬木也さん)を取り巻く多彩な“現代人”とのやり取りのシーンは見る者を作中に没頭させます。散りばめられた笑いは、息をのむクライマックスでの緊張感を一層引き立てます。
 「私自身、低予算の自主製作映画でも『多くの人に楽しんでもらえる作品がつくれる』ということを証明したいと常に考えながら映画をつくっています」
 今年8月の初公開時、上映館はわずか一館でしたが、「面白い!」「主人公が本物の侍にしか見えない!」などなど、話題が話題を呼び、現在、全国338の映画館で上映されています(11月18日時点)。ユーキャンの「今年の新語・流行語大賞」にも「侍タイムスリッパー」がノミネートされました。また新藤兼人賞、報知新聞映画賞など日本映画界の名だたる賞にも続々とノミネート。映画のチラシには“お米も映画も丁寧につくっています”というフレーズが。

父の跡を継ぐ映画と安田さん

映画「ごはん」

 そんな安田さんが2017年公開でつくった映画が前作「ごはん」です。東京で派遣社員として働く主人公ヒカリ(沙倉ゆうのさん)が父親の急死によって京都に戻って米づくりを引き継ぐ、という物語です。
 「ごはん」は安田さん自身の生い立ちに大きく影響しています。「祖父も父も米農家で、米をつくるにはすごく手間暇がかかっていることを知ってほしくて『ごはん』をつくりました」
 22年、「侍~」撮影中の11月末、安田さんの父・豊さんが脳出血で倒れます。年が明けた23年の冬、安田さんは「自分が父の跡を継いで米をつくる」と決意します。「映画で描いた『代々守られてきた大事な農地を自分の代で終わらせるわけにはいかない』という思いそのものです。父が倒れた時、3・5ヘクタールの田んぼを管理していたので、自分の仕事の傍らでさすがに全てはできない、と半分以上を所有者の方々にお返ししました」
 そして実際に昨年、今年と米づくりを経験した安田さんは痛切な思いにかられます。「米づくりで黒字を目指すことがいかに難しいことか思い知らされました。父も晩年は人助けとして田んぼを預かっていたという現実を知り、これは本当に何とかしないといけない、主食の米が持続的に生産できないなんておかしい」という思いを強くします。

今こそ見てほしい映画!

 しかし同時に、「赤字になると分かっていて兼業で妥協せず米づくりを続けるのは難しい」との思いから、来年の作付けを見送ろうとも考えていました。
 そこに来て「侍~」が異例のロングヒット。経済的なゆとりが少しでき、「これで来年以降も米づくりを続けられるとホッとしつつも、機械が壊れたら自分も引退する、と言ってムリをしてがんばる高齢農家さんたちが支えてくれている日本の農業の現状。やはりこれを知ってほしい。令和の米騒動が起こり、来年の米不足も避けられない今だからこそ『ごはん』を見ていただきたいのです!」。映画、農業への情熱が語気を強めます。

これは小さな百姓一揆!

 安田さん自身の米づくりの経験から、最新版「ごはん」は撮り直しや追加編集が多く施されているそうです。「夏の草刈りがこんなにしんどいとは思わず、そういうシーンなども追加しています。大きな声で言うことではないですが、百姓のせがれの私が侍を題材にした映画をヒットさせ米づくりを続ける…、これは小さな“百姓一揆”だ!と思っています(笑い)
 父・豊さんは23年5月に亡くなりました。京都農民連の前会長として農民運動に長年携わった豊さん。「父ががんばって取り組んでいた運動ですし、私自身がどこまで農民連会員としてやれるか分かりませんが、きっと父も喜ぶと思い、先日入会しました。『ごはん』上映会、ぜひお気軽に相談ください」

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