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財務省・財政審 自給率向上に敵意むき出し 飼料用米助成は廃止、政府備蓄米を減らせ(2024年12月02日 第1628号)

亡国と飢餓進める勢力は少数派

  11月11日、財務省は「財政制度等審議会(財政審)」に、農業予算についての報告を行いました。その内容は、食料自給率向上政策は“意味がない”“金がかかりすぎる”として放棄を迫り、家族経営が大部分を占める農業は“お荷物産業”だとして「構造転換」を求めるというもの。

まるで「ザイム真理教」

 エコノミストの森永卓郎氏は、財務省は「オウム真理教」ならぬ「ザイム真理教」だと批判していますが、大軍拡の予算確保のため、農業予算を削れという財政原理主義はいっそう過激化しています。ポイントは5つ(表)
 これまでも、とくに安倍政権以来、財政審の会長には経団連会長が就任し、別格のトップ機関として、自給率や米政策などに一々口を出して政策を変更させてきました。まるで農水省は「財務省農水局」扱いです。
 自民党政権が復活した直後の12年11月には戸別所得補償を「非効率な小規模農家の温存」策だとして総攻撃し、廃止に道を開きました。
 劇的だったのは、民主党政権が掲げた食料自給率向上目標50%を45%に引き下げたこと。14年12月の建議で財政審が引き下げを要求し、農水省・農政審が鵜呑(うの)みにして、15年3月の「食料・農業・農村基本計画」で45%を決定しました。

自給率向上は無意味

 この成功体験に味をしめ、新農業基本法成立に悪のりして、自給率に対する攻撃はますますエスカレートしています。今回の報告を要約して紹介すると――。
 ▼自給率向上に意味はない、▼個人の食生活に左右される自給率を政策目標にするのは不適当、▼自給率よりも財政負担最小化の視点が重要、▼国内生産の拡大ではなく友好国からの輸入に頼ればいいと、言いたい放題です。
 とくに「自給率を数年で数%上昇させることにどれほどの意義があるのか」と非難していますが、これは37%から45%に引き上げるという現在の「食料・農業・農村基本計画」を否定するものであり、食料自給率向上は基本計画から完全に消えてしまいます。

攻撃の焦点は米政策

 自民党政権は来年3月の基本計画改定で、自給率向上を放棄するとともに、米政策の大転換をねらっています。財務省・財政審は本音をあけすけに語り、先手をとっています。

飼料米助成ゼロを要求

 財務省は飼料米を「自給率の観点からも非効率」と断定していますが、とんでもありません。
 小松泰信・岡山大名誉教授は「飼料米生産は、自給率の向上はもとより、稲作農家にとっても畜産農家にとっても重要。さらに、水田が守られ、多面的機能の持続的創出に貢献する公益性の高いものである」と強調しています。
 飼料米は転作面積の4分の1を占めており、助成廃止などという事態になれば水田・米政策が大きく揺らぐことになります。財政審の後に開かれた農政審畜産部会では、飼料米助成廃止に反対する声が相次ぎました。
 農水省の試算では、飼料米の利用可能量は1110万トン。これは輸入飼料の8~9割を代替できる水準です(24年10月「飼料用米をめぐる情勢について」)。現在、飼料穀物の自給率はわずか13%ですが、飼料米こそが自給率向上の最大の決め手です。
 飼料米助成廃止はただちに撤回し、飼料用米と多様な転作作物への支援を拡充し、水田を食料の安定供給の重要な基盤として生かすことを要求します。

とんでもない備蓄米削減

 米の政府備蓄はタテマエは100万トンですが、安倍政権以来の実績は91万トン。これをさらに80万トンに減らせ――「令和の米騒動」のさなかに備蓄米削減を言い出すのは、正気の沙汰(さた)ではありません。
 また、ミニマムアクセス(MA)米77万トンのうち、特例的に主食にあてられている10万トンのほかに、「緊急時には市場に影響を与えない範囲で」MA米全体を主食に回せとも提案しています。これは1993年に国論を二分した米の輸入自由化反対の世論を受け、「MA米を導入しても転作は強化しない」との約束(閣議了解)を反故(ほご)にするものです。
 イザという時は国民に米不足と外米を押しつけ、それでも自給率は引き上げない――亡国と飢餓に追い込む与党・財政審・経団連の攻撃を跳ね返す国民的大運動をいっそう強めましょう。
 国会で多数を占めている野党の多くは自給率50%、直接所得補償実現で一致しています。いま、政治を前向きに変えるチャンスです。