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亡国と飢餓を進める財政審建議に対する抗議声明〈抗議声明〉 2024年12月4日 農民運動全国連合会(2024年12月16日 第1630号)

 (1)これほど日本農業の未来を奪う農業政策論があっただろうか
 財政制度等審議会(財政審)は11月29日、「令和7年度予算の編成等に関する建議」を公表した。十倉雅和経団連会長(住友化学会長)がトップを務める財政審は、これまでも農業政策などに一々口を出して政策を変更させてきた実績を持つ「トップ審議会」である。しかし、今回の建議は、大軍拡推進のための歳出削減しか念頭にない財政原理主義をむき出しにし、食と農を守るという大局的見地を捨てた冷酷で近視眼的なものであり、これほど日本農業の未来を奪う農業政策論がかつてあっただろうかといわざるをえないものである。
 われわれはこの建議に心の底からの怒りをこめて抗議し、政府が建議を不採用にすることを強く要求する。
 (2)防衛予算倍増、農業予算削減を要求
 財政審は「防衛力を将来にわたり維持・強化していく必要」があるとし、GDP(国内総生産)比2%、11兆円に倍増する防衛費を「安定的に支えるための財源措置が不可欠」と、大軍拡を推進することを公言している。ここには、「歳出削減」の文字はない。
 その一方、「農業予算は高水準で推移」しているが、農業予算の増額は「農業の振興につながらない」と決めつけ、「多額の国民負担に支えられている日本の農業構造は持続不可能だ」、「食料の安定的な供給への処方箋(せん)は日本の農業を自立した産業へと『構造転換』していくことにほかならない」とまで述べている。まるで、農業は国民にとって“金食い虫”の“お荷物産業”だといわんばかりである。
 しかし、第1に歳出削減が必要な“金食い虫”は防衛費である。安倍・菅・岸田軍拡のもとで、1980年には農水予算の3分の2(2・2兆円)にすぎなかった防衛予算は、24年には農水予算の3・6倍(約8兆円)になっており、27年には5倍の11兆円に膨れ上がる。農水予算は3・6兆円から3分の2の2・3兆円に減った。
 第2に、世界の動向からみても「農業予算は高水準」などではない。アメリカの農業予算は80年比で21年に7・5倍増の28・6兆円になり、EU(欧州連合)の農業予算も4・7倍増の6・9兆円になっているのであって、異常に農業予算を減らし続けてきたのは日本だけである(農水省「主要国の農業予算の推移」、24年2月)。アメリカ・EUは農業予算を数倍に増やし、価格保障や直接支払いを充実・強化してきたが、日本は全く逆行してきた。
 ここに財政審の圧力が働いてきたことはいうまでもない。
 (3)自給率向上を拒否、「基本計画」を全面否定
 自給率向上を放棄した新農業基本法成立に悪のりして、財政審の自給率に対する攻撃はますますエスカレートしている。
 たとえば▼自給率向上に意味はない、▼自給率を政策目標にするのは不適当、▼自給率よりも財政負担最小化の視点が重要、▼国内生産の拡大ではなく友好国からの輸入に頼ればいいと、言いたい放題である。
 とくに重大なのは「食料自給率を1%引き上げようとすれば、畑地で400~500億円程度、水田で800~900億円程度の国費が必要」という財務省試算まで示して、自給率向上放棄を迫っていることである。
 しかも「現行の基本計画が対象とする5~10年を超えた、より長期的な計画を策定すること」まで要求しているが、これは、現在食料・農業・農村審議会で検討中の「基本計画」の全面否定であり、農政当局・農政審の検討そのものをやめてしまえといわんばかりの干渉・圧力である。
 (4)攻撃の最大の焦点は米政策
 政府は来年3月の基本計画改定で、米政策の大転換をねらっているが、財政審は転換の方向をあけすけに語り、先手をとっている。
 第1に、財政審は飼料米を「自給率の観点からも非効率」と断定し、飼料米の水田活用交付金助成単価を引き下げたうえで、2027年からは助成対象からはずせと要求している。しかし、飼料米は転作面積の4分の1を占めており、助成廃止などという事態になれば水田・米政策が大きく揺らぐことは必至である。
 農水省の試算では、飼料米の利用可能量は1110万トンであり、これは輸入飼料(トウモロコシ)の8~9割を代替できる水準である(農水省「飼料用米をめぐる情勢」24年10月)。現在、13%にすぎない飼料穀物の自給率を40%台に引き上げ、カロリー自給率を向上させるうえで、飼料米こそが最大の決め手である。
 飼料米助成廃止は撤回し、飼料用米と多様な転作作物への支援を拡充し、水田を食料の安定供給の重要な基盤として生かすことを要求する。
 第2に、財政審は政府備蓄米の削減とあわせて、「緊急時には市場に影響を与えない範囲でミニマム・アクセス米を」主食に回すことまで要求している。「令和の米騒動」のさなかに備蓄米削減を言い出すのは正気の沙汰(さた)ではないと同時に、米不足につけこんだ惨事便乗型の提案である。“イザという時は国民に米不足と外米を押しつけ、それでも自給率は引き上げない”という本音むき出しの議論である。歳出削減をいうならば、大赤字のミニマム・アクセス米こそ削減・中止すべきではないか。
 (5)農家減少は「絶好の機会」と冷酷に宣告
 財政審は「基幹的農業従事者が116万人から、今後20年間で30万人程度まで減少する可能性がある」と危機的状況に寄り添うふりをしながら、本音は全く違う。減少の大部分は「稲作を中心とする副業的経営体」だからたいしたことはない、むしろ「農地の最大限の集約化や法人経営・株式会社の参入推進などにより構造転換を進める観点からは、絶好の機会」だと冷酷に宣告しているのである。「ピンチをチャンスに変えろ」とも言っているが、野球の逆転ホームランではあるまいし、財政審路線では担い手と期待されている法人経営や大規模層が真っ先につぶれかねない。
 (6)亡国と飢餓の政治を転換するチャンス
 ほとんどの野党が食料自給率向上、所得補償、新規就農支援、農業予算増額では一致している。政権与党を過半数割れに追い込んだチャンスを生かし、農民連は、亡国と飢餓に追い込む与党・財政審・経団連の攻撃をはねかえす国民的大運動をいっそう強め、自給率向上や農家の所得補償、ゆとりある米需給のための増産、新規就農者支援、食料支援制度の創設、そのための予算の大幅増額と農政転換のために奮闘する決意である。