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自給率向上都市宣言 あなたの自治体でも! 地域の農業振興と食育推進の基本(2024年12月23日 第1631号)

2006年に採択 匝瑳市(千葉)の取り組み
家族農業・地域農業を持続可能にするために
地元産農作物を公共調達し地域で利用

 「自給率向上都市宣言」――。国に対して食料自給率向上を求めるだけではなく、自治体としての農業振興、食育推進などを施策として実践していこう、という宣言です。今年5月に成立した「食料・農業・農村基本法」改定以降、自給率向上を国の責任で取り組むことを事実上拒否する日本政府。しかし先進国といわれる国々の中で日本の食料自給率は最低です。不安定さと緊迫の度合いを増す世界情勢の中、「食料の確保は自国での生産を基本に」を自分たちの住む地域で取り組むために、いま、この「宣言」が注目されています。千葉県匝瑳(そうさ)市は2006年にこの「宣言」を採択しています。

米・大豆・落花生農家、元匝瑳市職員 長平弘さん(72)

「米は県育成品種の『粒すけ』を栽培し、飲食店と年間契約し販売しています」と話す長平さん

 元匝瑳市職員の長平弘さんは「自給率向上都市宣言」の肝は、「生産者の販路確保と価格保障を通じて、日本の農業を支える家族農業・地域農業を持続可能なものにしていくための取り組みです」と話します。「宣言」に基づいて匝瑳市は現在、「第3次食育推進計画」を実施しています。
 生産者と消費者の距離が拡大し、「食」を大切にする意識が希薄になる中、計画では「地産地消の推進」や「学校等における食育の推進」などの基本施策を掲げています。長平さんは、「具体的行動の中で特に重要なのは『給食施設での地元農産物の利用促進』です」と強調。「地域の生産者がつくった農産物を公共調達として自治体が買い取り、地域の子どもたちに食べてもらう。これが地域の自給率向上、地産地消の基本だと思います」
 市の職員として働きながら25歳のときから米づくりを続けてきた長平さんは、住んでいる旭市(匝瑳市と隣接)で有機農業・減農薬・無農薬栽培に取り組む農家のネットワークづくりも進めています。「慣行栽培の農家さんとの“差別化”を目指すのではなく、栽培の努力に“激励”という形で応えてもらう。それが公共調達であり、再生産可能な販路の確保と価格の保障だよね、と皆で話し合っています」

直売所も併設されている「ふれあいパーク八日市場」に設置されている「宣言」看板

 06年「宣言」採択は当時、匝瑳市議会議員で千葉県農民連の会長だった大木傳一郎(でんいちろう)さん(21年に80歳で没)の尽力が大きかった、と長平さんは話します。「当時の農政は小泉内閣のもと、米価支持政策を全面廃止、米価暴落が起きる中、市民運動と保守も革新も一緒になった議会での合意形成により『宣言』が採択されました。“理論と柔軟性”あふれる傳ちゃんの功績は大きい」と振り返ります。「しかし同時にいま、消費者の食と農への関心が高まっていることを強く感じます。今こそ各地で『宣言』に取り組み、私たち一人ひとりの食料を確保していける仕組みづくりを全国で展開していけたらと思います」

農家の価格保障・所得補償を実現させるために
匝瑳市議会議員、堀川西営農組合元代表椎名勝英さん(80)

「消費者の関心の高まりをしっかりと『宣言』につなげたい」と話す椎名さん

 私は千葉県内の旧農林省食糧事務所の職員でした。当時、「食糧管理法」のもと米の検査や需給調整の実務を担っていました。22年から匝瑳市議会議員となり、議会で「農業経営の安定化」などを取り上げてきました。その中で「学校給食の無償化を求める意見書」(今年6月)、「農業経営者に対する緊急対策を求める意見書」(昨年3月)などを議会として国に提出しました。こうした合意形成も「宣言」によるところが大きいと思います。今年から学校給食に月に1度、有機米が提供される取り組みも始まっています。
 当時、食管法のもとで働いていた者として思うことは、やはり農家が毎年続けられるよう、国が価格保障・所得補償を実現しないといけない、ということです。今の市場任せのままでは農家の後継者は減る一方です。
 「宣言」に基づいて匝瑳市が地道に取り組み、“農業の大切さ”が幅広い市民に認識され、国を動かす“声”になることを今後も目指します。

地域運動広げて 「宣言」 実現へ

 農民連第26回定期大会決議案でも「全国で学習会や自治体への請願を積み上げて運動を広げましょう」と、自給率向上都市宣言に取り組むことを呼びかけています。
 愛媛県今治市は、1988年に「食の安全性と安定供給体制を確立する都市宣言」が市議会で採択され、「食と農のまちづくり条例」も制定されました。「地域の食文化と伝統を重んじ、地域資源を活かした地産地消を推進することにより、食料自給率の向上と、安全で安定的な食料供給体制の確立を図るものでなければならない」とうたい、食材の選定では、今治産の食材を優先的に使用しています。
 東京都東大和市では開会中の市議会定例会に「自給率向上宣言を行うことを求める」陳情が市民団体から提出されています。