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食と農の危機を招いた自民党農政を転換するチャンス!今こそ強く大きい農民連をつくろう! 農民連第26回定期大会決議(案)(2024年12月23日 第1631号)

2024年12月11日 農民運動全国連合会常任委員会
はじめに

 2023年1月に開催した第25回大会からの2年間は、米価の大暴落、ウクライナ侵略と円安による食品やあらゆる資材、光熱費の高騰、酪農・畜産危機、食料安全保障を旗印にした基本法の改定、その直後の米不足など、国民の食料と農業にとって激動の連続でした。
 農民連は、全国各地で広範な諸階層と連帯してたたかって政治を動かし、政治とカネ、戦争する国づくりへの暴走など、自民党政治を終わらせる国民のたたかいとも合流し、総選挙で政権与党を過半数割れに追い込みました。少数与党ながら石破・自民公明政権は継続していますが、国民が、破たんした自民党政治に代わる新しい政治を模索する段階を迎えました。
 25年の参議院選挙を含め、各党が国民から鋭く問われることになります。
 こうしたもとでの農民連の当面のたたかいの基本は次の通りです。
 (1)自公の過半数割れを農民や国民の要求を実現する絶好のチャンスととらえ、安倍政権以来の新自由主義による最悪の農政を転換し、食と農の危機を打開するめに全力をつくすこと。特に25年3月に策定される改定食料・農業・農村基本法(基本法)に基づいた「基本計画」に食料自給率向上、食料支援制度、農家所得を確保するための支援策、米不足解消や酪農畜産支援などの実効ある計画を書き込ませること。
 (2)農民の多様な要求の実現に全力をあげ、アグロエコロジーの実践、離農防止と新規担い手を確保する要求運動、地域から生産を拡大する運動を発展させること。
 (3)要求実現や食と農の危機を打開する運動を農民が主役に発展させ、今期を組織の後退から前進に転化する契機にすること。運動と組織のすそ野を広げ、新聞「農民」の読者を広範な農民や農業関係者、市民に広げること。特に、次世代を担う青年のなかに組織を作ることに全力をあげること。
 今大会の任務は、こうした方針を確立し、その先頭に立つ常任委員会を選出することにあります。

【1】市民運動と野党の共同の再構築で食料自給率向上をめざす運動

 農民連は一貫して要求の一致を基本に、市民と野党の共同を追求し、さらに新しい活動ステージの歴史を開拓してきました。

1、2024年総選挙で生まれたチャンスを農民要求の前進に

 衆議院選挙で石破自公政権は過半数割れに追い込まれ、2012年以来の自民一強時代が終えんしました。「政治とカネ」だけでなく、安倍・菅・岸田と続く新自由主義農政に厳しい審判が下りました。
 農民連が要求の一致点での行動を絶えず呼びかけてきた立憲民主党・国民民主党・れいわ新選組・日本共産党・社民党は前回比で73議席前進させる一方、基本法改定に賛成した自民・公明・日本維新の会を81議席も減少させたことは、農業つぶしの農政からの転換への希望を切り開くものです。
 食料自給率の各党公約は、自民は食料自給率の数値目標なし、公明は現行基本計画の丸写し、維新は「検討中」でしたが、立憲は「まずは50%」、国民も「50%」、共産は「早期に50%を回復し60%」、社民も「早期に50%」、れいわ「まずは50%」と、50%で一致しています(日本消費者連盟の公開質問状への回答)。
 与党の過半数割れで要求を実現できるチャンスが生まれ、国民が新しい政治を模索するプロセスが始まっているなか、国民の運動がいよいよ重要です。このチャンスを生かし、農業つぶしの農政からの転換、食と農の危機打開のために奮闘しましょう。

政府は国民の主食・米に責任を持て9・10緊急行動

2、 食と農の危機へのかつてない国民の関心と運動の広がり

 農民連は23年1月の第25回定期大会で『アグロエコロジー宣言(案)』を発表し、6月には『食と農の危機打開にむけて~新農業基本法に対する農民連の提言~』パンフレットを発行しました。
 1961年の旧農業基本法から続く自民党農政の根本的批判と同時に、日本農業の危機を打開する世界の流れを汲(く)んだ希望の道としてのアグロエコロジーへの挑戦という、二つのパンフレットを使って全国各地で、食と農の危機を打開する学習運動、農協訪問、自治体要請など多様な草の根の運動に取り組みました。
 コロナ禍による米価暴落対策と水田活用直接支払い交付金見直しの撤回を求める運動(21年)、「日本から畜産酪農の灯を消すな」と全国の畜産農家の個人要望書を農水省に突き付け「山を動かした」酪農・畜産危機打開のとりくみ(22~23年)と連続し、さらに基本法改定反対のたたかい、「食料自給率向上を政府の法的義務とすることを求める」署名運動として発展させました。

3、 酪農・畜産危機打開の運動

 「国産の牛乳が飲めなくなる」。日本から畜産・酪農の灯が消えるかどうかの瀬戸際の中で、農民連は22年8月から「個人要望書」運動を提起し、全国の仲間が酪農家・畜産農家への訪問活動を展開しました。
 その提出行動である「11・30畜産危機突破中央行動」では農水省前に酪農、養豚、養鶏農家が家畜を連れて参加し、千葉県の酪農家・金谷雅史さんの「酪農やばいっす」の訴えはマスコミやインターネット、SNSで大きく取り上げられ、危機的事態を国民にアピールしました。以来、数次にわたる個人要望書提出行動を展開し、「2・14院内集会」では、メガ経営から家族経営の酪農家、消費者・生協、超党派の議員も参加し、国民世論の大きな高揚を作り出しました。
 酪農・畜産は、輸入飼料に依存した大規模化が推進され、新自由主義農政の先頭を走らされてきました。しかし、輸入飼料や資材の高騰と輸入乳製品の圧力の中、乳価は据え置かれて「搾っても赤字」で経営が行き詰まり、廃業が相次ぎました。酪農・畜産危機打開の取り組みは新自由主義農政に風穴をあけるたたかいです。
 23年2月から始めた酪農・畜産危機突破のネット署名は、1カ月で7万5千人を超え、「個人要望書」に記入した酪農・畜産農家は約2000人となり、この切実な声が酪農・畜産危機打開の運動で一貫して農民連がイニシアチブを持ち続けた力になりました。
 広がる運動に押されて政府は「畜産・酪農緊急対策パッケージ」を出さざるをえなくなり、23年度四半期飼料対策、自家配合飼料支援、1頭1万円支援などの要求が前進しました。
 農水省畜産局長が全国1万人の全酪農家に「手紙」を出すという異例の対応、6月には農民連に加入した金谷さんを参議院農水委員会に参考人として送り出したことも運動の広がりの結果でした。

4、 食料・農業・農村基本法改定との歴史的なたたかい

(1)食料自給率向上を 「政府の義務」 に!署名運動の歴史的意義

 農民連が「提言」で基本法改定のねらいを「自給率の向上を放棄するもの」として厳しい批判の論陣を展開したことは、歴史的な国民的大運動に発展させるうえで大きな役割を果たしました。
 99年に改定された基本法に「自給率向上」を明記したのは国民のたたかいで押し込んだ成果であること、そもそも、自給率目標は国内農業を守るたたかいが生み出した指標であることを明らかにし、国民運動を励ましました。
 23年8月、運動の幅広い共同と一致点を広げるために、「食料自給率目標を定める基本計画を国会承認とし、食料自給率向上を政府の法的義務とすることを求める」請願署名をよびかけました。
 24年1月26日、通常国会開会と同時に第1次署名提出行動を行い、6次にわたる署名提出と国会行動・議員要請を行って国会内外から政府・与党を追い詰めました。
 「食料自給率向上の請願署名」は10万3083人分、オンライン署名 8900人分と合わせて過去最大の11万人分余に達しました。署名運動が「国内増産で食料自給率向上を基本法の基本理念にする」ことで野党が一致して奮闘する力になりました。請願署名の紹介議員は衆参合わせて36人(立憲・共産・社民・国民・れいわ・無所属)に広がりました。
 基本法改定は5月29日、与党と維新の賛成で成立しましたが、与野党全面対決となり、「国内生産の増大を基本に食料自給率の向上」や「新規就農者支援」「農業所得の向上」「農村の役割の評価」などを明記した付帯決議が可決されました。参院の審議では、立憲民主党理事が農民連会長を参考人として推薦し意見陳述を行いました。
 野党共同の力が発揮され、基本法が否定・除外した内容が付帯決議で全会一致で可決されたことは、いかに運動が政府・与党を追い詰めたかを示しています。

(2)農民・市民・消費者運動として大きく広がった学習運動

 食と農の危機への関心の高まりの中で、1年間で基本法改定案などをテーマにした学習会・座談会が全国で500カ所以上で開催され、1万人を超える農民や消費者が参加しています。
 とりわけ、24年1月24日に新日本婦人の会中央本部で開かれた自給率署名推進のための学習会は全国からオンラインで300カ所がつながり署名活動に弾みをつける大きな力になりました。
 2月27日、基本法改定法案の閣議決定を受け、農民連の3月13日の「緊急院内集会」を皮切りに、3月14日には家族農林漁業プラットフォーム・ジャパン(FFPJ)、3月19日には東都生協など6生協が院内集会を開いて提言を発表しました。「6生協提言」では消費者団体として政府に農家への直接支払いを求めるなど生協運動の大きな変化が生まれています。
 主婦連合会も23年9月に農民連会長を講師に100人の参加で学習会を行い、24年2月に農水大臣に「基本法の柱に自給率の向上を掲げること」を要望しました。食健連も基本法改定案学習会を行うなど、多くの団体でとりくみが展開されました。

(3)「令和の米騒動」と米を守るたたかい

 24年7月から米がスーパーや米屋の店頭から消える「令和の米騒動」が発生し、米は「いつでもあって当たり前」と思い込んでいた国民はパニック状態になりました。
 原因は、コロナ禍で米消費が落ち込み生産者米価が暴落したことを口実に、生産者に「需要に応じた生産」を押し付け、政府が生産量を毎年20万トンも減らしたことにあり、無責任な政府の失政です。
 備蓄米を91万トンで固定し、「過剰」で生産者米価が下落しても買い入れもせず、不足時でも一粒も放出もしない市場任せの農政の結果です。「9・10緊急集会」を新婦人中央本部と共催し、農民・消費者・米屋さんが参加し「米が買えない・売れない・安心して作れない! 政府は国民の主食・米に責任を持て」と訴えました。
 21年の米価暴落は、20年に国民一人当たり米消費量が2・5キロも激減し、全体で20万トン在庫が増えた結果です。これは「過剰」ではなく、コロナ禍の失業や、格差・貧困の拡大で「食べたくても食べられない」人々が増え、買いたくても買えなかった米です。政府が買い上げて食料支援に回せと要求し、「食料支援制度」の創設を要求し続けてきました。24年8月の交渉でフードバンク・子ども食堂などへの備蓄米の無償提供の条件が大幅に拡充されました。

(4)農民の苦悩あるところ農民連あり

 畜産農家への個人要望書活動の重要な教訓は、「農民の苦悩(=要求)あるところに農民連あり」を示したことです。地域の酪農家は経営規模も大きく、耕種部門の会員が多い農民連にとって、いわば敷居の高い存在でした。しかし、実践したところでは、「よく来てくれた」と大歓迎され、すぐに要望書に名前を記入し経営危機の状況が語られ、訪問したことで農民連自身が大きく変わるきっかけになりました。
 農家がバラバラにされ競争させられることから脱却し、耕畜種は違っても仲間とともにたたかう農民の団結こそが農業危機打開の力になることを示しました。

(5)市民運動と農民連のたたかいが合流して大きな力に

 新自由主義政策の下で格差と貧困による国民の苦難に農民連が真正面から向き合い、運動をとりくんできたことが市民社会の中で認知され、市民と野党共闘を広げる要として、基本法改定や米・畜産危機を打開するたたかいの大きな力になりました。
 「戦争する国づくり」に向けた大軍拡や大増税に反対するたたかいで、農民連は「平和憲法と農業」、自給率の実態を語り広げました。すでに食料が生産できない国になっている真実を国民に知らせ、食料供給困難事態対策法(戦時食料法)で「いざというときはイモを食え」という農政への怒りを広げ、軍事予算8兆円と2・3兆円の農業予算を逆転させて食料を増産し、日本農業を再生することを呼びかけました。
 畜産危機の個人要望書運動で全国商工団体連合会や畜産団体と、食と農の危機、基本法改定反対の署名の学習運動では新婦人・主婦連、生協など、さらにFFPJや、アグロエコロジー推進では幅広い団体や個人と共同の輪を広げる努力がたたかいの大きな力を生み出してきました。

【2】自民党農政はもう終わり、食と農の危機打開を

1、 戦後最悪の食料危機と地球沸騰化

 気候変動や生物多様性の大喪失など地球環境の危機と、飢餓・貧困・格差などの社会的危機が深まっています。
 国連のグテーレス事務総長が「地球沸騰化の時代が到来した」と警告したように気候危機は新たな段階に入り、「100年に一度」の災害が多発しています。特に、農業への影響は甚大で、「気候変動に関する政府間パネル」(IPCC)の第6次評価報告書(23年)は、気候に起因する食料不安や食料供給の不安定性が増加すると警鐘を鳴らしました。国際労働機関(ILO)の報告書(19年)は、暑すぎて働けない時間が増えるため、30年までに失われる労働時間は8千万人分に相当し、その60%(4800万人分)が農業に集中すると予測しました。
 日本でも、すでに多くの農家が温暖化による作物の収量減、品質への影響、虫害や病気の増加に苦しみ、作付け時期や作物の変更、離農を強いられています。温暖化の影響は、農水省の気候変動適応計画さえ、「我が国の農林水産業・農山漁村の生産や生活の基盤を揺るがしかねない状況」と認めています。
 こうした中でコロナ禍とウクライナ侵攻をきっかけに発生したのが「戦後最悪の世界食料危機」です。飢餓人口はコロナ前の19年から約1億5千万人も増え、現在7億3340万人、世界人口の9・1%です。
 食料危機は、相対的貧困率が15%と高く、自給率が低い日本にとりわけ重大な打撃を与え、人口全体に占める飢餓人口の割合は3・4%に上昇し、先進国グループの経済協力開発機構(OECD)38カ国のなかで3番目の高さです。全国の子ども食堂の数は24年に1万866カ所に達し、公立中学校の数を1000以上上回りました。夏休みなどの給食のない長期休暇に1日3食を食べられない子どもの数も増えています。

2、世界と政治の流れに逆行する自民党政治を転換し、 食と農の危機を打開するチャンス

(1)日本農業の未来を奪い、 亡国と飢餓に導く財政審意見書

 日本の食料自給率は世界最低水準の38%であり、「令和の米騒動」のもとで、国民は食と農の危機を肌身で実感しています。総選挙では、こういう自民党政治への厳しい審判が下りました。
 しかし、総選挙からわずか1カ月後の11月29日、経団連トップが会長を務める財政制度等審議会(財政審)は「予算の編成等に関する建議」(意見書)を公表し、自給率向上政策の放棄を迫りました。

(1)大軍拡推進のために食と農を犠牲に

 財政審は「防衛力を将来にわたり維持・強化していく必要」があり、GDP(国内総生産)比2%、11兆円に倍増する防衛費を「安定的に支えるための財源措置が不可欠」と、大軍拡推進を求めています。
 一方、農業予算の増額は「農業の振興につながらない」と決めつけ、「多額の国民負担に支えられている日本の農業を自立した産業へと『構造転換』していくこと」を要求しています。まるで、農業は国民にとって“金食い虫”の“お荷物産業”だといわんばかりであり、農家減少による危機的状態を構造転換の「絶好の機会」とまで言い放っています。
 しかし、1980年には農水予算の3分の2(2・2兆円)にすぎなかった防衛予算は、24年には農水予算の3・6倍(約8兆円)になる一方、農水予算は3・6兆円から3分の2の2・3兆円に減りました。農業予算を減らしてきた張本人のこういう暴言は絶対に許すわけにはいきません。しかし、江藤拓農相は「一つのご意見としてうけたまわる」と、まともに反撃する素振りすら示していません。

(2)自給率向上を拒否、「基本計画」を全面否定

 自給率に対する攻撃はますますエスカレートしています。たとえば▼自給率を政策目標にするな、▼自給率を1%引き上げるためには財政負担が1200~1400億円かかるから無駄だ、▼国内生産の拡大ではなく輸入に頼ればいい、▼現在食料・農業・農村審議会で検討中の「基本計画」はやめてしまえ、と言いたい放題です。

(3)とんでもない!飼料米助成廃止

 農水省の試算では、飼料米だけで輸入トウモロコシの全量に匹敵する1100万トンの代替が可能であり、これを実現すれば飼料自給率は13%から40%強に高まります。「瑞穂の国」日本にとって最適の飼料穀物は米であり、飼料米は自給率向上の決め手です。
 しかし財政審は「飼料米は自給率の観点からも非効率」とウソをつき、飼料米に対する水田活用交付金の助成廃止を要求しています。しかし飼料米は転作面積の4分の1を占めており、助成廃止などという事態になれば田んぼは荒れはて、洪水防止などの機能は失われます。

(4)イザという時は国民に米不足と外米を押しつけ

 財政審は政府備蓄米の削減とあわせて、「緊急時にはミニマム・アクセス(MA)米を」主食に回すことまで要求しています。イザという時は国民に米不足と外米を押しつけ、それでも自給率は引き上げないという本音むき出しの議論です。歳出削減をいうならば、大赤字のMA米こそ削減・中止すべきです。

(2)旧農業基本法以来の輸入総自由化路線と新自由主義農政の押し付け

 1961年の旧農業基本法は、アメリカの戦略品目である小麦・飼料穀物と大豆の生産を放棄して、アメリカの食料戦略に屈服しました。改定前の食料・農業・農村基本法はWTO(世界貿易機関)協定の受け皿法として99年に制定されました。牛肉・オレンジの自由化に続いて米の輸入を押しつけられ、21世紀に入るとTPP(環太平洋連携協定)、日米・日欧FTA(自由貿易協定)などが強行され、究極の自由化の嵐が吹き荒れました。
 一方、旧基本法では「農業の自然的・経済的・社会的制約による不利を補正し、農業従事者が他の国民各層と均衡する健康で文化的な生活を営むことができるようにする」と規定し、米・麦、牛乳、砂糖、牛肉などの価格保障制度が次々につくられてきました。
 しかし、改定前の基本法はこういう文言をバッサリ削り、「価格は市場原理に任せる」という新自由主義政策を宣言して、価格保障制度の改悪を強行しました。
 その結果、米・酪農をはじめ、農家は資材価格の高騰と所得の異常な低下に直面しています。平均的な稲作経営の1戸当たり農業所得は、21、22年が1万円で、時給はわずか10円にすぎません。

(3)世界の流れに逆行する自民党政治転換のチャンス

(1) 「食料自給力」 論の正体は飢餓への道

 基礎食料である穀物自給率を75%⇒29%と3分の1に激減させたのは日本だけで、アメリカ、フランス、ドイツ(67%⇒117%)、イギリス(53%⇒73%)は大幅に引き上げています(1961年~2021年)。
 しかし石破首相は「自給率を政策目標にするな」「食料自給力だけで十分」と繰り返し、石破氏が農相だった際に導入した「食料自給力」が示す“イザという時の食事メニュー”は、1日イモ3食、米は1日1食、魚は1日1回、肉と卵は1カ月に1回という悲惨なものです。要するに、政府がやるのは、有事生産統制で農家に水田の半分、畑のほとんどをイモ畑にさせることだけであり、日本の農地の潜在生産力だけを当てにし、自給率向上のために何らまともな政策をとらない――これが「食料自給力」論の正体であり、飢餓への道です。

(2)再生産可能な収入実現に逆行

 いま大事なのは、価格保障・所得補償の充実をはかり、再生産可能な収入を実現することです。
 アメリカやヨーロッパでは、農産物がコストを下回るような価格になれば国が補てんして、農家収入の確保と食料の安定的な供給を両立させる政策が主流であり、公共調達や食料支援によって農家の経営と消費者の生活を両立させることが重視されています。
 アメリカの酪農や小麦、大豆への不足払いはコストと農産物価格の差額を補てんする価格保障であり、ヨーロッパでは、食料安全保障のための直接支払制度で農業所得と農地を支えています。農業所得に占める直接支払いの割合を比較すると、日本が30%に対し、スイス92%、ドイツ・フランスは77%・64%。これに加えて、EU(欧州連合)は23年1月から新共通農業政策の第一目標に「農業者に公正・公平な所得を確保する」ことをあげ、実効性のある価格転嫁対策を推進しています。
 一方、日本は「関係者の協議により、合理的なコストを考慮する仕組みを新たに法制化」すると称して、研究会をダラダラ重ねるだけで、めどは全く立っていません。

(3)「基本計画」に食料自給率向上、所得補償を盛り込ませよう

 アメリカやヨーロッパの政策からくみとるべきなのは、農家の経営と消費者の生活を両立させるために、農業予算を増額し、財政出動に踏み出すことが絶対に不可欠だということです。
 アメリカは80年~21年の間に農業予算を7・5倍に増やし、EUも4・7倍に増やして、価格保障や直接支払いを充実・強化してきましたが、農業予算を減らし続けてきたのは日本だけです。
 ほとんどの野党が自給率向上だけでなく、所得補償、新規就農支援、農業予算増額では一致しています。政権与党を過半数割れに追い込んだチャンスを生かし、3月に決められる「基本計画」に、自給率向上や農家の所得補償、ゆとりある米需給のための増産、新規就農者支援、食料支援制度の創設などを盛り込ませ、国民的運動で予算の大幅増額と農政の転換のために奮闘しましょう。

3、アグロエコロジーへの転換は世界の流れ

 気候危機、食料危機を激化させている主な要因の一つがアグリビジネス主導の工業型農業であり、これに対抗する唯一の解答はアグロエコロジーです。多量のエネルギーと化学肥料・農薬を使って単一栽培を進め、世界中に売りさばく工業的農業を軸とする世界の食料システムは温室効果ガス排出量全体の3割を占め、気候変動にもろく、不安定な供給網は、食料危機を繰り返し発生させてきました。
 食と農のあり方を根本的に変革すれば持続可能な未来を実現する力になります。それが、(1)循環型農業、(2)地域循環を軸にしたローカルな食制度、(3)食料主権に基づく公正な国際貿易制度を目指すアグロエコジーです。
 輸入依存を減らし、地域農業に依拠すれば運搬にかかる温室効果ガスが減少し、食料の安定供給と地域産業の活性化が進み、農村も都市も住みやすくなります。農薬・化学肥料などの外部からの投入を減らし、堆肥など地域資源を活用することで温室効果ガスとコストの削減が進み、環境と経営の持続可能性が高まります。
 アグロエコロジーは、国際農民組織ビア・カンペシーナが科学者や市民社会組織とともに運動を主導し、国連食糧農業機関(FAO)が推進に舵(かじ)を切り、特に南北アメリカや欧州などで発展してきました。
 アグロエコロジーは日本国内でも着実に根付きつつあります。農民連は23年に「農民連アグロエコロジー宣言(案)」を発表し、組織的なとりくみを本格化させてきました。宣言(案)は食と農に危機感をいだく広範な人々やアグロエコロジーに先駆的にとりくんできた人たちから歓迎の声が寄せられるなど、従来の枠を超えて共感が広がっています。
 各地で実践が進み、福島県二本松市の「あだたら食農スクールファーム」、奈良県の「生産する消費者との連携」など、新たな試みが始まるとともに、田んぼの生き物調査や堆肥作り、ものづくり交流会など、これまで続けてきた多様なとりくみも継続的に行われています。
 メディアや出版界も変化しています。東京新聞や日本農業新聞はアグロエコロジーを歓迎する社説を掲載し、出版でも、『アグロエコロジー入門』や『アグロエコロジー 持続可能なフードシステムの生態学』が相次いで刊行されました。
 24年10月に自治体研究社が出版した『アグロエコロジーへの転換と自治体』には、自治体、第3セクター、酪農、新規就農支援など多彩な実践が含まれるとともに、農民連会長の「食と農の危機打開に向けて―新基本法を問う―」が盛り込まれ、アグロエコロジーを進める上での農政転換や農民運動の役割にも焦点が当たるようになりました。

4、国際連帯とビア・カンペシーナのたたかい

 食と農への支配を強化しようとするグローバル資本主義に対して、ビア・カンペシーナは、市民社会組織と連携しながら、食料主権とアグロエコロジーを掲げて各地でたたかってきました。
 ビア・カンペシーナは現在、「農民の権利宣言」の実施、国連「家族農業の10年」の振興、WTOやFTAに代わる公正な貿易制度の確立にとりわけ力を注いでいます。そのため、農民の権利宣言を実施するために設置された国連人権理事会の作業部会や家族農業の10年を促進するための国際運営委員会のメンバーにもなり前進のために尽力しています。

5、食料主権、国連「家族農業の10年」「農民の権利宣言」の実現に向けて

 「家族農業の10年」と「農民の権利宣言」は、持続可能な食と農を実現する上での主体として小規模・家族農業を位置付け、その振興や権利の保障を掲げたものです。これは、世界の農民運動を励まし、EUの共通農業政策など各地域・国の政策の転換などを後押ししてきました。
 農民連は19年、市民社会組織や賛同する個人とともに、FFPJを設立し、事務局を担い、家族農業の再評価の流れを多くの人に伝え、政府に対して現在の新自由主義農政を改めるように提案してきました。
 「家族農業の10年」について、政府は、すでに家族農業を支える政策を行っていると強弁し、「農民の権利宣言」についても、日本では農民の権利は保障されているとし、新たなとりくみを行っていません。
 FFPJは23年3月、「家族農業の10年」が各国政府に策定を求める行動計画について、独自に行動計画を策定し、政府として行動計画を策定するように求め、24年3月にも改めて計画作成を要請しました。
 「農民の権利宣言」については24年8月、インドネシアでアジア地域のビア・カンペシーナ加盟組織による農民の権利侵害の実情や改善に向けた努力についての活動を交流する会議が開かれ、農民連からも代表が参加しました。その内容は、国連人権理事会に設置された農民の権利宣言に関する作業部会に報告されました。

【3】地域から消費者とともに食料自給率を高める運動へ

1、米危機打開へ、 さらに反撃と国産食料の増産へ転換を

(1)無責任・無能な政治のもとで起きた米不足

 主要食糧法第1条は「米穀の需給及び価格の安定をはかる」と定めていますが、政府は、コロナ禍による米需要の「消滅」と米価暴落を放置し、「需給及び価格の不安定」をますます激しくさせました。
 いま、主食・米の需給と価格の安定に責任を持つ政府機関は存在しないという無政府状態であり、政府がやるのは輸入米と備蓄の管理、減産の押しつけだけです。
 こういう無責任・無能な政治のもとで、米生産農家は2000年の175万戸から23年には58万戸と3分の1に激減しています。
 24年の米不足は減産による供給不足に消費増が重なって起きましたが、「米の消費は毎年減り続けるもの」という固定観念にしばられ、思考停止状態に陥った政府が作成する米の需給計画は誤りを繰り返してきたのが実態です。24年産米の「早食い」が進んでいる現状では、25年の端境期には深刻な「米不足」が発生する可能性があります。
 それどころか「国産米が食べられなくなる」おそれさえあります。JA全国農業協同組合中央会の山野徹会長は24年11月20日の農政審で「農業者の急減によって、将来的に国内需要を国内生産で賄えない可能性がある」と指摘し、三菱総合研究所は、2040年に生産量351万トン、需要量507万トン、その差156万トンと予測しています(23年7月「食料安全保障の長期ビジョン」)。

(2)いまこそ 「減産」 から 「増産」 に転換を

 国民の主食である米の生産と需給、価格を市場任せにせず、国が責任を持って安定させること、水田つぶしをやめ、水田の生産力、環境維持の力を生かすこと、「基本計画」の生産目標に備蓄造成分の増産をめざすことが求められます。
 日本の水田稲作は、アジアモンスーン気候に適合的で、数千年にわたって継続している農業形態です。日本の水田を最大限活用し、飼料用・加工用・備蓄用を含め年間生産量を数十万トンレベルで生産拡大することが食料安全保障としても重要です。
 米を作ること、売ること、食べることにも安心できる農政に転換させること、「軍拡」より「農拡」が、いま強く求められています。

2、日本から酪農・畜産の灯を消すな

 農民連などの運動で23年3月に政府の「畜産緊急支援パッケージ」が実現し、全国各地で自治体による支援策も勝ち取りました。しかし継続した支援がなく、円安などによる飼料価格や光熱費、資材価格の上昇で酪農・畜産危機は継続し、酪農家は全国で1万戸を割り込みました。感染症の広がりや飼養衛生管理基準変更による負担増に生産者は苦しめられています。政府は鶏・豚への肉骨粉の使用解禁を決め、交差汚染への不安が広がっています。
 畜産農家が自ら声をあげて主体的な運動にするために「畜産個人要望書」のとりくみを広げ、野党との共同を力に持続可能な対策を要求して運動を強めましょう。

3、「みんなが担い手」 の立場で、 地域を支える「地域計画」を

 農地の80%を担い手に集積することを前提に「人・農地プラン」の法定化による「地域計画」作りが推進されています。
 政府は、家族農業は非効率と決めつけ、「効率的かつ安定的な農業経営」をめざしてきました。圃(ほ)場整備事業の支援を集積目標でしばり、農機具購入支援に規模要件をつけるなど、農家を選別してきました。
 そのため、現場では担い手確保や経営の見通しがたたず、「計画の作りようがない」のが現実で、24年7月の段階で作成した地域は3%にすぎません。自給率向上を投げ捨て、家族経営を支援の対象から外し、所得補償などの支援を行わないままでの計画作りは破綻しています。自治体も「25年3月が期限」などとあおり立てないで「今後検討中」の白抜きのままでの対応も必要です。
 一方、様々な困難があるなかで地域の農業と農地、コミュニティーを維持することは切迫した課題です。「みんなが担い手」の立場で、助け合いを基礎に地域を支える話し合いを大いに進めましょう。

4、新規就農者支援の運動

 各地で様々な新規就農支援のとりくみが広がっています。山口県連は、会員が有機農業の技術指導を行い市独自の認証制度で販路を確保する支援を行っています。大分県連は塩トマトの生産で新規就農者を定着させるとともに、都会から移住した農外の人々に声をかけて若い夫婦と一緒に循環型の米作りを行っています。
 福島県は、新規就農者からの要求で申請ごとに窓口が変わり、煩雑だった申請や相談を一カ所で受け入れできるワンストップサービスを開設し、農協や福島県農民連が新規就農者を受け入れて就農者を増やしています。その中で会員が増えています。
 農業や農的暮らしに魅力をもち、農村を志向する若者が大勢おり、農民連のとりくみがいざないと定着の懸け橋になっています。
 こうしたとりくみに学び、全国で農民連が新規就農者を受け入れて定着を促進する運動にとりくみましょう。福島県の行政、JA、農民連が連携した就農支援を全国に広げましょう。新規就農支援で野党の公約は一致しています。共同して新規就農支援制度の抜本的な拡充を求める運動を強化しましょう。

5、「食べたくても食べられない」 人々への食料支援制度の創設は急務

 消費者米価が高騰し、10月の消費者物価指数で58・9%上昇しています。「買いたくても買えない」人々が激増しており、フードバンクや子ども食堂などへの無償提供、生活困窮者などへの食料支援の制度化は緊急課題です。
 アメリカは、生活困難者に対し、食料品購入カードを発行して一人1カ月3・2万円を支援する制度を実施し、4350万人、国民の7・7人に1人が受給しています。消費者への支援は、農産物需要を喚起し、農家支援にもつながっています。
 日本では子ども食堂などにわずか数百トンの政府備蓄米を提供しているだけで、食料支援制度はありません。政府が生活困窮者に食料支援することは憲法上の義務です。
 国民の6人に1人が相対的貧困にある日本で、本格的な食料支援を行えば食料の需要が大幅に増え、農業支援策としても有効です。農民連の支援活動を強化するとともに、食料支援にとりくむ団体と共同を広げて政府に食料支援制度の創設を求めましょう。

6、学校給食の「無償化と地場産・国産を」 の運動

 文科省が24年6月に発表した調査によると、23年度で全国775自治体(全体の43%)が何らかの形で給食費の無償化を行っています。その成果として保護者の経済的負担が軽減され、児童は栄養バランスの良い食事の摂取や残食を減らす意識が向上したと回答しています。
 文科省が21年度から「学校給食地場産物使用促進事業」を実施する中で、各地で地場産利用が促進されています。全国トップは山口県で87%、最下位の大阪は7%と地域差が著しく、無償化と公共調達を推進しながら地場産・国産利用を促進し、さらにオーガニックへと進めることは、住民参加でアグロエコロジーを推進するうえでも重要な実践です。無償化と豊かな給食を参議院選挙の大きな争点として運動をさらに広げましょう。

7、 新婦人産直の原点に返り、 改定 「4つの共同目標」 の実現のために

 米不足や価格高騰のなかで「新婦人産直で米が届いて助かった」など、産直が歓迎され期待が高まっています。
 新婦人と農民連は、改定した「4つの共同目標」に基づいて食と農を守り、互いの組織を前進させる産直運動をめざし、定期的な協議を行い課題を共有しています。全国で新婦人県組織との協議や学習会が数多くとりくまれています。
 運動では、学習を力に米を守る集会、食料支援制度の創設と備蓄米支援の拡充を求めて力を合わせてきました。誠実に「4つの共同目標」の実現に力を尽くし、運動で切り開く産直運動の原点を貫いてとりくみを発展させましょう。
 24年産米をめぐる事態は、収量減、資本が参入した米の奪い合いによる価格高騰など、政府が需給と価格への責任を投げ捨てた失政により、農協や地元業者の集荷も6割程度となるなど、異常な事態になりました。
 こうした事態は産直運動に重大な影響をもたらし、新婦人と約束した米の確保に苦慮し、県によっては十分に届けられない状況も生まれています。
 「4つの共同目標」を踏まえた新婦人との産直運動の意義を議論するとともに、会員への協力を呼びかけ、生産会員を増やして対応できるよう努力を傾けましょう。
 同時に、米をめぐる異常事態は、アメリカいいなりに米を自由化し、主食への国家責任を放棄して市場に丸投した政府の責任によって起きていることをお互いに理解しあうことが重要です。そのうえで双方の実情を率直に出し合い持続可能な方向について知恵を出し合いましょう。
 米をめぐる異常事態の背景や原因を双方で学習し、政府に米政策の転換を迫る運動を共同して巻き起こしましょう。


 「新婦人と農民連の産直運動4つの共同目標」(2022年5月27日改定)

 1、新婦人と農民連は、安全で新鮮でおいしい国産の農畜水産物を作って食べて、日本の食料自給率を向上させ、自らと家族の健康を守り、食文化を次世代へ継承します。
 2、私たちは、お互いの顔と暮らしが見える交流を活発にして、持続可能な地域社会と農業の担い手づくりをめざします。
 3、私たちは、気候危機の打開、SDGs(持続可能な開発目標)の達成に大きな役割を果たす家族農業が大切にされる社会への転換を求め、アグロエコロジー、食料主権の確立をめざします。
 4、私たちは、お互いの組織の発展に貢献する産直運動をめざし、定期的な協議を行い、課題を共有して改善に努めます。


8、「食料自給率向上都市宣言」 運動を広げよう

 政府が食料自給率を向上させる責任を投げ捨てることを国民世論は認めていません。自給率向上は国民と政府の最も鋭い矛盾点であり運動の焦点です。
 農民連関東ブロックから実践が始まっている地方自治体の「食料自給率向上都市宣言」運動は、地域から政府に対して自給率向上を迫る運動であり、自治体が住民の食と生産を守る運動です。全国で学習会や自治体への請願を積み上げて運動を広げましょう。

9、市民・消費者が参加する生産点での学習・実践運動を広げよう

 17年に種子法が廃止されて以降、24年4月までに35道県が種子条例を制定し、さらに4県で市民が条例制定運動を起こしています。
 輸入小麦を原料にした学校給食のパンにグリホサートが残留していることが農民連食品分析センターの調査で明らかになり大きな波紋が広がっています。保護者が農民連と提携して小麦を作り、学校給食に納入させた和歌山市の実践は全国に大きな希望を与えています。
 遺伝子組み換え食品やゲノム編集食品、残留農薬などの食の安全、破壊される生産基盤、農政の実態など、食と農の危機を多くの国民とともに学び、市民が「自分事」として草の根から広げる学習運動を全国でとりくみましょう。

10、多様な要求運動で農民経営と地域農業を守る

 生産コストの上昇、消費税・インボイス(適格請求書)、社会保障の負担増、米価が上昇したもとで、稲作農家への徴税攻勢も予想されるなか、税金のとりくみは重要です。広く農家を対象に「なんでも勉強会」、記帳簿の普及と記帳運動、税金対策部員の養成を進めましょう。
 選挙でインボイス廃止を公約して当選した議員が多数になった情勢を生かしてインボイス廃止の運動を広げましょう。納税者の自主申告を守る運動を広げましょう。
 中山間地等直接支払い、多面的機能支払いは地域の維持に大きな役割を果たしています。政府は中山間地直接支払いの集落機能加算の廃止を打ち出し、多くの関係者が怒りの声をあげています。地域では加算を原資に多様なとりくみを行っており、打ち切りは中山間地の維持に重大な影響をもたらします。加算の打ち切りに反対し、直接支払いの拡充を求める運動を強めましょう。
 本年から、中山間地等直接支払いの第6期が始まります。会員がこうした制度の運営に積極的に関わりをもつことが求められています。
 有害鳥獣対策の強化も切実な課題です。政府・自治体に有効な対策と予算の拡充を要求しましょう。
 燃油高騰が経営に重くのしかかっている中、宮崎県連では免税軽油の要求で多くの会員を迎え入れています。この経験に学んで、全国でとりくみを広げましょう。重税から都市農業を守る運動、電力会社の補償打ち切り圧力を跳ね返す高圧線下補償など、多様な要求運動を広げ、会員拡大に結実させましょう。

11、 農民連食品分析センターを維持・発展させるとりくみ

 市民の募金で発足した農民連食品分析センターは、26年に30周年を迎えます。いま、食品分析センターはPFAS(有機フッ素化合物、ピーファス)・PFOA(ピーフォア)など、新たな分野での検査にとりくむなど、食の安全や命と健康、環境への不安をもつ市民から認知度が高まり、期待は強まっています。
 24年11月から、老朽化した分析機器の更新と体制強化のためにスタートした機能強化募金への協力がかつてなく広がっています。食品分析センターに期待を寄せていただいている多くの団体・個人のみなさんに機能強化募金への協力を呼びかけ、成功させましょう。
 食品分析センターの経営は厳しいものがあり、継続的に分析センターを支えるサポーターのとりくみを広げましょう。分析センターを活用し農産物の検査を各都道府県で定期的に行うことは生産点での安全・安心を担保するうえでも重要です。

12、 能登半島地震・気候危機のもとで頻発する自然災害への支援活動

 24年1月に発生した能登半島地震や各地で多発する豪雨被害、今後も頻発が予想される自然災害に対し、被災地への支援活動と被災者の要求を実現する運動を強めます。山形県連では、豪雨被害地域の会員すべてにアンケートをとり、要望を国や自治体に届け、回答してくれた会員を訪問して返していく活動が会員の励ましとなっています。自然災害に抗うことはできませんが、被災した農家を一人も離農させないために力を尽くします。

13、憲法破壊、大軍拡から平和と暮らしを守る運動

 総選挙で改憲勢力が3分の2を下回ったものの、石破首相は憲法改悪をねらっており、改憲阻止、憲法を生かした政治の実現は引き続き重要な国民的課題です。戦争する国づくりと大軍拡阻止、核兵器廃絶、原発再稼働をやめて再生可能エネルギーへ転換させる課題にとりくみましょう。

【4】農政の転換へ、今こそ強く大きな農民連づくりを

1、運動で農政を動かし要求が通る新たな情勢のもとで

 自公が過半数割れして単独で悪政を強行することはできず、国民の要求に向き合わざるをえなくなっているいま、食と農を守る運動を広げて野党共闘を発展させれば要求を実現できる条件が広がっています。それは要求運動と結んだ組織作りの絶好のチャンスでもあります。
 この間、各地で多様な要求や、農政に怒り「政府にガツーンと言ってやりたい」など、どこでも加入した方から「農民連があってよかった」という声が出されています。
 食と農の危機を打開・再生する政権を作るために25年夏の参議院選挙はとりわけ重要で、農村で大きな影響力を持つ農民連を作ることが求められます。

2、 前大会以降の組織づくり、「年間を通した仲間づくり」 の成果と教訓

 組織づくりを前進させるために「春の大運動」集中型の拡大運動から、年間を通した持続的な拡大運動に発展させる努力を強めてきました。23年は「春の大運動」に続いて、3年間にわたるコロナ禍の困難から打って出る契機にするため、全ての都道府県連が会員10人、「農民」読者10人以上を拡大することを目標に、6月~8月に拡大集中期間を設定しました。現勢の小さい県連の奮闘をはじめ、5県連が10名10部の目標を達成しました。また、10月から24年1月まで全国委員会をめざす拡大集中期間に設定しました。
 24年も春に続き夏と秋の集中期間を設定しニュースの発行など全国のとりくみを共有しながら推進しました。会員、読者数とも減少数を上回ることはできず、後退に歯止めがかかっていないものの、年間を通した拡大により後退の幅を減少させていることは重要な教訓です。各都道府県で後退数を上回る目標を設定し年間を通した持続的拡大運動で前進に転じるために全力をあげましょう。

3、 たたかいの中で組織を作る、 要求に強い農民連づくり

 前大会以降、米価暴落や酪農・畜産危機、基本法改定、インボイス導入など、たたかいの連続でした。この中で農民や市民との結びつきを広げ、「たたかいの中で組織を作る」ことを呼びかけてきました。
 24年は全国で基本法やアグロエコロジーなど、食と農に関わる多様なテーマで学習会や集い、シンポジウムがとりくまれ、参加者が食と農を“我がこと”とし、その場で会員と「農民」読者が増える事例が相次ぎました。
 酪農・畜産のたたかいでも「個人要望書」運動や国会行動など、これまで結びつきの少なかった畜産農家との共同のたたかいで組織を前進させています。
 こうしたとりくみとあわせて税金対策部員養成や農民連の行動綱領や組織づくりを学ぶ役員・専従者研修会、専従者を配置して自己回転できるための単組の再編、個別の組織援助などの努力をしてきました。今期を組織の後退に歯止めをかけて前進に転換する契機にするために組織づくりを太く位置づけ、全国で奮闘しましょう。

4、 都道府県連の機能と地域活動の強化

 1989年に農民の一致する要求での団結を基礎に、国民諸階層と連帯して統一的にたたかうことを目的に、その核となる強大な農民運動の全国センターの建設をめざして結成された農民連が、いまほど役割の発揮が求められているときはありません。農民連の基本的構成組織である都道府県連も、それぞれの地域のセンターとして同様の役割を担う時です。都道府県連は、それぞれの管内の農民の要求実現と全国的統一と団結、食料と農業に関わる課題に責任を持つことが求められます。
 全国の方針を正面から受け止めて具体化し、単組や支部を援助して一緒に実践し、全国や県内の進んだ経験に学び、県内の経験を集約して教訓化し普及しましょう。そして、最大の任務は組織建設であり、空白地域に組織をつくることです。
 茨城県連が毎週、単組のとりくみを集約して役員会で共有・交流していることは全国が学ぶ教訓です。地域の運動と組織を発展させるために、郡や複数自治体にまたがる単位で単組を再編し、事務所と専従者の配置をめざしましょう。

5、 今期の組織づくりの課題

 *後退に歯止めをかけて前進に転ずるため、2年後に開催される第27回大会で第26回大会現勢を突破することを全国的な目標とし、都道府県連にも同様の基本点に立った積極的目標を呼びかけます。すでに超過している組織はさらに積極的目標を持って全国的な前進に貢献しましょう。
 *全ての都道府県連が3桁組織になるための奮起を呼びかけ、全国・ブロック、近隣組織からの援助を強めます。
 *一定の現勢をもつ組織が、全国をけん引する役割を果たすためには、県連が会議を定期的に開き、学習を力に方針を意思統一し、単組が自主的に活動できるように援助することが求められます。そして若手の組織を担う人づくりを意識的に進めましょう。本部が行う交流会や研修会、要求別講座を大いに生かしましょう。

6、農業と運動の担い手確保・世代継承は差し迫った課題

 農業と地域の担い手を確保して次世代につなぐこと、農民連の組織と運動の担い手確保や世代継承は、組織の存続に関わる差し迫った課題です。
 自分が農業経営をどう次につないでいくのかを農民連のなかで議論することが求められています。そして、農外から参入した新規就農者を訪ねて対話し、激励して加入を働きかけましょう。若い人が若い人を誘い会員拡大や紹介によりつながりを広げている福島県の教訓に学びましょう。全ての都道府県連に青年部を立ち上げ、自主的に活動できるように援助しましょう。

7、 多様な要求実現のため、 要求運動に強い組織づくりを

(1)農民の多様な要求を実現する運動を広く粘り強く

 税金や生産、暮らしなどに関わる多様な要求でいかに広く農家に働きかけるかが組織づくりのカギであり、働きかけの規模をいかに広げるかです。また、様々な運動や要求運動に目的意識的に組織づくりを位置づけなければ組織は作れません。

(2)生産の継続、 新たな生産者を増やす運動、 要求運動に強い組織づくり

 離農・廃業が相次ぎ、地域の生産を維持することが困難に直面し、農民連の組織にも深刻な影響をもたらしています。農家の減少を食い止める最大のカギは家族経営を支援する農政に転換することですが、離農の原因は複合的であり、農民連が地域で広く農家と結びつき、経営の状況や要求に耳を傾け、一緒に解決するとりくみが求められます。同時に、組織をあげて農業の担い手を確保するとりくみを、組織と生産を維持する重大課題に位置付けてとりくみましょう。福島県連の実践に学んで、自治体やJA、農業委員会、地域の多様な団体と連携しましょう。担い手確保の実践交流会を全国やブロック、県単位で開催しましょう。
 新規参入者や循環型農業を実践している農家への働きかけを特別に重視しましょう。税金や免税軽油、政府や自治体の制度の利用など、要求に強い組織づくりのために研修や交流を全国、ブロック、都道府県で行いましょう。

(3)自治体に要求を届け、 地域農業を守る運動と結んだ組織づくり

 この2年間、地方創生交付金を活用した自治体の農家支援が各地で前進しています。
 宮城県連では県内の畜産農家の約1割から「個人要望書」を集め、これが契機となり、畜産農家が自主的に自治体に対策を要求するとりくみが広がったことは教訓的です。
 新規就農者などにビニールハウスを貸与、農機具購入補助、収入保険掛金補助など、地域の農家と力をあわせて自治体に要求を届けて実現し、組織づくりに結実させましょう。

8、 ジェンダー平等を農民連活動のすべてに貫いて

 CEDAW(セドー、国連女性差別撤廃委員会)の日本報告審議に向けて、農民連女性部は、NGO代表団として役員をスイス・ジュネーブに派遣するとともに「農村女性地位向上に関するアンケート」調査にとりくみ、全都道府県から630人の回答を得ました。
 集計結果から農村女性の長時間労働の実態や健康問題、農業収入の減少の深刻さが明らかになりました。農業が生業(なりわい)として成り立ち、安心して生産が続けられなければ農村のジェンダー問題は解決できません。価格保障や所得補償など家族農業への支援が急務です。
 「家族農業の10年」「農民の権利宣言」でもジェンダー平等が大きな柱に位置付けられています。農村でのジェンダー平等は、女性だけの課題ではありません。男性も含めて、地域全体、組織全体で、あらゆる差別をなくし、農村に生きる一人ひとりの尊厳を守る社会をどう実現していくかが問われています。農業経営や組織の在り方と運営、役員体制、運動の進め方など、すべてにジェンダー平等を貫くことが重要です。当面の共通課題として「女性も等しく会員」としての女性会員登録、全国・地方の役員に女性を抜てきして力を発揮できるようにしていきましょう。

9、 新聞 「農民」 を広く農民・消費者の共同の新聞に

 新聞「農民」のテーマは「みんなでつくろう、もの言う農民」であり、地域でがんばる農民の声や要求、現場の情報を紙面にどれだけ反映させるかがカギです。そのためには各地からの通信が不可欠です。
 1年に1回はすべての都道府県の記事が掲載されることを目標に通信活動を強めましょう。掲載された記事を活用し、読者拡大に生かしましょう。
 めまぐるしく変わる情勢の中、新聞「農民」は情勢を的確に伝えて世論を変える力であり、農民の要求に寄り添って激励し、農政を動かす大きな役割も果たしています。
 各地で多彩な学習や集いの中で新聞「農民」が活用され会員や読者が増えています。宣伝紙の大量活用にとりくみましょう。あらゆる活動に読者拡大を貫き、減紙があれば力を集中して取り戻し、「毎月、減らさず前進」を握って離さず追求しましょう。
 拡大・学習に役立ち、読者に問題の本質を伝え、幅広い世代に親しまれる紙面づくりをめざします。

10、SNSの活用の強化

 リニューアルしたホームページをさらに充実させ、映像・画像をふんだんに使い、速報性の追求など充実させます。X(エックス、旧ツイッター)、META(メタ、旧フェイスブック)などSNSを運動に役立てるとりくみを強化します。

【5】25年春の大運動の成功に向けて

 25年春の運動は、税金をはじめとする要求運動に力を集中するとともに、3月の「基本計画」に食料自給率向上を明記させることをはじめ、米の増産、酪農・畜産危機打開など、農政を具体的に動かす大事な局面が続きます。そのたたかいは夏の参議院選挙で自民党政治を終わらせ、農政の抜本的な転換をめざす連続するとりくみです。
 歴史的な大変動とチャンスの今、大事なことは「対話こそ、運動と担い手を広げるカギ」という組織活動の原点に立ち返って活動することです。コロナ禍や農業経営の危機の中で、新自由主義政策による「自己責任論」がまん延し、人と人とのつながりがバラバラにされ希薄になった中だからこそ、いま、農民は対話を求めています。地域に打って出て、私たち農民連の歴史的奮闘で日本農業の危機打開をめざしましょう。
 いまこそ、すべての組織で食と農の危機打開の学習や集いを対話の絶好の機会として広げることが特別に重要です。