旬の味
昨年10月に初めてわが家の3歳の雌和牛を精肉してもらった。意外かもしれないが、牛飼いが自分たちで育てた牛を口にする機会は稀だ。と畜するための費用や、販売する手間が膨大だからだ▼島根の場合、と畜場に運んでもらい、と畜して枝肉にしてもらう。そこから出雲の食肉加工施設で精肉、そうしてやっと食卓に並ぶ肉の状態になる▼3年間、山間部で放牧され、草だけで育てた和牛の肉は、想像よりも脂が乗っており、滋味と呼ぶにふさわしい牛本来の味の深みが感じられた。肉を購入してくれた人たちにも、香りが違う、肉の味が濃いと好評だ▼戦前、牛たちが農村に当たり前にいた時代、牛は家族であり、労働力であり、最後にはおいしい食料にもなる、欠かせない動物であっただろう▼飽食のこの時代、お金さえ出せば世界中の美食を口にすることも容易だ。だからこそ、単においしいだけではない、真に命を頂くという意味を、自分たちが考え、消費者にも考えてもらえる、いい機会になったと思う。(T)