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悩みを聞くだけでも農民連の財産 毎月拡大に奮闘中の滋賀県連

若手生産者の入会に大喜び
有機農家 稲垣光志さん(40)

農薬の大量使用への疑問から有機農家に

トラクター譲って、出荷相談に乗って…
若い仲間が増えれば日本も変わる

 滋賀県農民連では5月から毎月、会員と新聞「農民」の読者を増やしてきました。「農業はピンチだが、拡大をチャンスに変えよう」と呼びかけ、「農地にいる農業者はすべて対象者」の構えで、とにかく声掛けをしようと役員に呼びかけています。
 中井良久事務局長は「すぐに入会につながらなくても、話をして悩みを聞くだけで農民連にとっては財産になる。つながりが作れればその先へつながる」と積極的に声掛けを進め、日野町の「農と食を守る会」でつながっていた有機農家の稲垣光志さん(40)を11月に農民連に迎え入れました。

稲垣さん

 稲垣さんは大阪の高槻市出身。2016年の12月に日野町の山間部の平子(ひらこ)地区に移住し、有機栽培で米60アールと野菜8アールほどを作付けしています。
 「なかなかやりたいことが見つからず、5~6年の間、職を転々とする中で農業への思いが芽生えました。最初はとにかく大きな農家にとネットで調べて、30歳前くらいから福岡県の大規模キャベツ農家に5年間勤めました。しかし農薬を真っ白になるまでかける様子を見て『自分のやりたいことと違う』と感じていました」と稲垣さんは振り返ります。
 日野町に住んでいる知り合いの米農家から「借りられる田んぼも畑もある」と聞き、平子地区への移住を決断しました。
 「周りに田んぼも残っているので、やっていけるだろうと思っていましたが、移住してみると周囲の田んぼは獣害で水が出ない所ばかりでした」

有機志向の人に直接販売の販路

農地の隣のテラスにて、稲垣さん(左)と中井さん

 大都市圏の有機志向の人たちに直接販売や父親の会社を通じて広げた販路を使って販売をしています。
 知り合いに野菜の売り先を相談したことがきっかけで、中井さんと知り合い、有機米の生産者同士で交流をしてきました。
 「とりあえずやってみようと、剣先スコップ一本と耕運機1台で畑を耕すところから始めましたが、30日かかってしまいました。見かねた中井さんからトラクターを譲ってもらい、次の年は1日で作業を終えることができました。根の張りが深くなるので収量が上がると期待していたら、その年はバッタが大量発生して食べられ、増えませんでした」

サルよけにマネキンかかし

 山間で、イノシシやサル、シカの獣害も多い地域です。糖蜜などの発酵液を自作し、柵につるしてイノシシよけにしています。「シカは柵で防げることが多いですが、サルは有刺鉄線も乗り越え、イノシシは柵の下から持ち上げて侵入してきます。サルよけにマネキンでかかしを作り、半年に1度はひと山向こうまで追いかけて追い払う必要があります」

ミミズの糞はボカシより効果

収穫したニンジンを手にする稲垣さん

 土づくりにも工夫をしています。米ぬかからボカシを自作。刈った草も土に戻しています。「2~3年前までは牛糞(ふん)堆肥を使っていましたが今は使っていません。その代わりミミズをまいています。ミミズの糞は、良い肥料となるのでボカシなどよりも効果がある気がします」
 山間部で獣害が多く米の収量は厳しいですが、寒暖差が大きく野菜の甘みが増しおいしくなります。しかし、寒いので平野部に比べ収穫時期はずれてしまいます。「雪で作物が越冬できないので、春先の収穫はありません。4月半ばまでみぞれが降り、霜が降りることもあり、大根がだめになったこともありました。でもキャベツとニンジンは寒さに強く失敗したことはありません」
 ニンジンは青臭さが少なく柔らかいのに歯ごたえがしっかりしており、ニンジン嫌いの子どもが喜んで食べると評判です。

農民連で有機への理解深めたい

 稲垣さんは「農民連に入って中井さんたちと一緒に有機農産物への理解を深めて、地元・滋賀でも食べてくれる人を増やしたい」と話します。
 中井事務局長も「安全な作物を求める声にこたえるために、産直野菜ボックスの方向をシフトしていけたらと思っています。稲垣さんみたいな仲間が増えれば、日本も変わるのではないかと大いに期待しています」と話していました。