アイコン 新聞「農民」

2025年は被爆80年 核兵器の開発よりも食料の増産を

核兵器廃絶、食料自給率向上の年に

新春対談
ノーベル平和賞受賞した
日本被団協(日本原水爆被害者団体協議会) 代表委員 箕牧 智之さん
農民連会長 長谷川敏郎さん

米一粒が平和につながっている

食料増産こそ安全保障の要

ノーベル平和賞の授賞式で賞状とメダルを授与された被団協代表委員の(右から)箕牧さん、田中重光さん、田中熙巳さん=12月10日、ノルウェー・オスロ(日本被団協提供)

 昨年(2024年)のノーベル平和賞を日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)が受賞しました。日本被団協は12月10日、ノルウェー・オスロで開かれた授賞式に出席し、13日に帰国しました。農民連の長谷川敏郎会長は17日、日本被団協の代表委員の一人で農業を営む箕牧智之さん(82)を広島県北広島町の自宅に訪ね、核兵器廃絶、平和、農業について語り合いました。

箕牧さんも米とソバを作る農家

「平和と食料を守ろう」と決意を新たにする箕牧さん(左)と長谷川会長

 長谷川 ノーベル平和賞受賞、おめでとうございます。
 箕牧 ありがとうございます。オスロでは警備が厳しく、観光はほとんどできませんでした(笑い)。帰国してからも連日、取材への対応や行事の出席などで忙しくしています。私は、1ヘクタールで米とソバをつくっていますが、もうこの年なので半分は大規模農家にやってもらっています。今回の代表団で農業者は私一人でした。
 長谷川 今回は、箕牧さんがあるメディアで語った「米一粒が平和につながっている」という言葉を見て、農業、米と平和、核兵器の問題はつながっていると、改めて思ったことから対談をお願いしました。
 箕牧 昨年、米代は少し上がりはしましたが、農家はまだまだ赤字です。国の政治は工業化と軍備増強に力を入れ、農民は長い間痛めつけられてきました。
 長谷川 私も島根県邑南(おおなん)町で1・3ヘクタールの田んぼと繁殖和牛、冬は山仕事を営む小さな農家です。稲作の肥料は牛の堆きゅう肥を主力に米ヌカ、木灰です。
 箕牧 私も地域の酪農家から堆肥を買っています。有機肥料です。いま私の地域でも農家の高齢化が進み、若い人も3人ほどしかいません。若いといっても60歳代ですが。この人たちがやめてしまったら田畑や山が荒れてしまうという危機感をもっています。
 長谷川 今年は夏に米パニックが起こりましたが、政府は、米の増産に背を向けています。財務省の財政制度等審議会は、備蓄米を100万トンから80万トンに減らし、飼料用米への助成も廃止するよう要求しています。さらに毎年77万トンの輸入米のうち、現在は10万トンが主食用にあてられているのを、「10万トンからもっと増やせ。国民はもっと輸入米を食べろ」と迫っています。
 箕牧 戦争になったら食料など簡単に輸入できなくなります。私たちは戦争を体験しているからこそ、米一粒でも大切にしています。稲刈りではもみ一つでも取りこぼさずにしていました。また米が一粒でも落ちていたら、拾って食べたものでした。米一粒のありがたさが、命の尊さや食料の大切さ、そして平和への思いに結びついていると思っています。

自給率低い日本 核戦争で飢餓に

 長谷川 いま世界では、気候変動や各地の紛争により、食料の奪い合いが起きています。日本では新自由主義政策のもとで貧困と格差が進み、「食べたくても食べられない」人々が増えています。国連食糧農業機関(FAO)は日本を飢餓国に認定しました。日本の食料自給率は38%で、穀物自給率に至っては28%です。近隣の国々では中国が99%、ASEAN(東南アジア諸国連合)の10カ国も軒並み高く、100%を超えている国が5カ国です。日本、韓国、台湾は10~20%台です。食料増産こそ、安全保障の要です。農業は平和を支える産業ですね。
 箕牧 オスロで私たちの訴えが核保有国にどれだけ響いたのか不安です。核保有国は、核兵器があるから平和が保たれていると言いますが、一つの国が核兵器を使えば、他の国も使うという悪循環で人類の破滅です。日本政府が核兵器禁止条約に参加しないのも大問題です。
 長谷川 米国のラトガース大学の研究チームが「局地的な核戦争が勃発した場合、直接的な被爆による死者は2700万人だが、『核の冬』による食料生産の減少と物流停止により2年後の餓死者数は、世界で2億5500万人、うち日本が7200万人」と警告しています。死者数の3分の1が日本に集中する理由は、38%という圧倒的に低い食料自給率のためです。「核の冬」というのは、核戦争による大火災で生じる大量のばい煙や粉じんによって太陽光が遮られるため、地球の気温が大幅に下がる現象を指します。日本が戦場にならなくても、どこかの国同士で核戦争になったら、日本人の6割が飢え死にしてしまうだろうという恐ろしい推計です。
 箕牧 核戦争が起これば、農作物も食料も放射能に汚染されますね。
 長谷川 私も11月に農民連東北ブロック主催のツアーで、福島県の浪江、双葉両町を視察しました。東日本大震災から13年を経て人生も生業も、何もかもを奪い去った原発事故。目の前にある豊かであっただろう農山村の、人の立ち入りを許さない光景にがく然としました。

農業と核廃絶後継者に引継ぐ

 箕牧 農地が荒れることでは、核戦争、原発事故、そして農業後継者の不足による耕作放棄地の増加と問題が共通です。後継者がいないと農業も持続できないし、戦争や核兵器の脅威を後の世代に語り継ぐこともできず、平和を維持できなくなります。
 長谷川 核兵器が平和と食料を脅かすことを考えると、日本はアメリカの核の傘と食料支配から抜け出さなければなりません。
 箕牧 今年(2025年)は参議院選挙がありますが、アメリカの顔色をうかがいながら、防衛費を増やし、戦闘機を輸出し、憲法を改悪しようとすることを許してはなりません。核兵器の開発よりも食料の増産を、と声を大にして言いたいですね。
 長谷川 私たちも、核兵器廃絶、原発ゼロの課題とともに、食料自給率向上、農家の経営支援を引き続き政府に求めていきます。ご一緒に発信していきましょう。
 箕牧 ノーベル平和賞受賞は一つの通過点にすぎません。私も体が続く限り、平和と核廃絶運動をがんばります。一緒に訴えていきましょう。

 みまき・としゆき
 1942年、東京都板橋区生まれ。45年3月に東京大空襲に遭い、45年5月に父の故郷である広島に疎開。3歳のとき広島市内で被爆。その後、鋳物工場などで働き、57歳から14年間、北広島町に合併前の旧豊平町で町議会議員などを務めた。被爆者としての活動は2005年から積極的に始め、21年に広島県被団協理事長、22年に日本被団協代表委員に就任した。日本被団協の代表委員3人のうちの1人。