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ミツバチファーストの養蜂実践 分析センター・八田所長の講演がきっかけで農民連知る

ミツバチがつなげた人の縁

分析センター利用したいと入会

岩本 祥太さん(36)(福井市)


生き物が自然に暮らせる地域作りたい

笑顔の岩本祥太さん(左)、麻理恵さん夫妻

 昨年10月に農民連に入会した養蜂家の岩本祥太さん(36)。福井県福井市の美山地区に移住し、365日自然のものだけにこだわった「ミツバチファースト」の養蜂を追求しています。
 愛知県豊田市出身の岩本さんは福井大学大学院で脳科学と香りを研究。大阪府の香料メーカーに就職しました。「科学的に香りを生み出す仕事を日々する中で、体調を崩してしまったこともキッカケとなり、人工物よりも自分自身の体がしっくりくる自然が生み出す香りの素晴らしさを改めて感じていました。そんな時、美山地区の里山で自然に囲まれたカフェを訪れ、初めて食べた蜂蜜の香りから、野山を飛び回るミツバチの美しい自然そのままの風景が感じられ衝撃を受けました。そこで、一念発起し自然に関わる仕事がしたいと決意しました」
 カフェを運営している萌叡(ほうえい)塾の方から空き家の情報や養蜂家の紹介を受け、移住を決断し、2019年に会社を退職。師匠となる養蜂家の下で1年間修業し20年に独立しました。

徹底した「ミツバチ優先」

ハチの世話をする祥太さん

 岩本さんは「ミツバチファースト」を方針として、砂糖水の給餌や除草剤・薬品などの化学合成物質を一切投与しません。
 「本来ハチは、栄養豊富な蜂蜜を食べて夏の暑さや冬を乗り切ります。経済効率を優先して蜂蜜を採り、その代わりに砂糖水を与えてもミツバチは元気にはならず抵抗力が弱まり、ダニの被害や病気が発生し、防除で薬品が必要になると考えています」
 岩本さんは採蜜を4~6月に限定し、ハチが蜜を十分に貯められるように配慮。また農薬の影響を避けるため、3~5キロメートル以内に農地がない山奥に巣箱を置き、無農薬自然栽培の田んぼ50アールを借りて菜の花を植え、春先の蜜源としています。
 「師匠から3群を譲り受けて独立後、1群まで減ったこともありましたが、地道に手間を惜しまず続けた所、ある時を境にミツバチたちが元気で生き生きとした姿を取り戻していくのを目の当たりにしました。24年は15群でスタートし、越冬時には30群まで増えました」
 岩本さんは、ハチのストレスを減らすことにも腐心しています。
 「基本的に顔のみ防護し、素手で作業を行います。羽ばたきや体温からわずかな体調の違いや振動を感じ、怒っているときは作業を中断するなど、素手だからこそできる判断があります」
 接し方でハチの様子も変わるといいます。「家族や赤ん坊に接するようにお世話をすれば、ミツバチたちも穏やかに優しくなり、刺されることもなくなります。蜂蜜の味や色も優しく透き通るような美しい色に変わってきます。自分の対応が鏡写しで帰ってくるので、まるで人と接しているかのようです。ミツバチたちのお世話を通して人生で大切なことを学んでいます」
 「ミツバチたちと自然を大事にしたい一心で、道なき道を切り開いてきました。最初は『そんな方法でできる訳がない』と心配されましたが、今ではたくさんの方とご縁が広がっています。お客様から『がんばってね、応援しているよ』と言っていただけるのが、とても励みになっています」

商品は麻理恵さんがデザイン

 実は結婚もミツバチが縁です。福井大学在学中に妻の麻理恵さんと知り合いましたが、就職で県外に出て疎遠になっていました。「初めて採蜜した蜂蜜を手にしたとき、ふと妻の顔が浮かび、自慢のかわいいミツバチたちがつくった蜂蜜を食べてもらいたいと、まるで背中を押してもらったように連絡を取り、今では夫婦になりました。ミツバチたちに感謝しています」
 共に様々な種類の蜜源植物を育て研究をし、商品のリーフレットやパッケージのデザインを手がけ、北陸・関西・近畿・中部地方でのイベント出店やSNSで発信するなど、手を取り合って夫婦二人三脚でハチに向き合っています。

農民連と出会い 八田所長の講演

 岩本さんと農民連の出会いは20年2月に越前市で行われた農民連食品分析センター(分析センター)の八田純人所長の学習会でした。
 「『市民の力で調査に取り組んでいるすごい組織があるのか』と印象に残っていました。私たちの蜂蜜は無農薬自然栽培をしていますが、裏付けや証明する方法として必要と考え、分析センターで検査をお願いしたく、入会しました。新しい機器が入ったらぜひ依頼したい。企業のしがらみなく検査できる機関はここだけなので、今後も応援しています」と期待を寄せます。

自然と共生実現 農民連とともに

 岩本さん夫妻には、ある夢があります。
 「将来、山や広い土地を買って、ミツバチたちや人と植物、クマなどの動物たちが集まり、季節の移ろいを感じ、自然と人がさりげなく生きるような場所を小さくとも作りたいと思っています。蜂蜜はJAS有機の基準もなく、なかなか他の生産者に理解されにくいのが現状です。農民連の皆様やお客様など、ミツバチのご縁で知り合った方々に現状を知っていただき、日本の養蜂を少しずつでも変えていければと思っています」と熱く語っていました。