日販連がセミナー開催 東京都の学校給食から “これから”を考える
地産地消、食育の現状学ぶ
生産の現場をいかに知ってもらうか
生産者やJA職員など集まる

講演する山内さん(左)と中塚会長
日販連(日本販売農業協同団体連合会)は1月23、24の両日で「東京都の学校給食を学ぶセミナー」を東京都内で開催しました。北海道は酪農学園大学の学生から、沖縄県は米卸会社の社長まで、日販連とつながりのある各地の有機米生産者を中心に、JA職員やNPO団体職員など全国から31人が集まりました。
初日は文京区にある東京都学校給食会の研修室で講演と意見交換を実施。開会にあたって、日販連の中塚敏春会長は、「東京都の学校給食のいまを知ることで、皆さんの地域で取り組んでおられる学校給食の現状を再確認し、情報を交換して、一緒に大きな取り組みにしていけるようにと企画しました」とあいさつ。
東京都学校給食会の山内紀美代事務局長が、「東京都の学校給食 今とこれから」をテーマに講演しました。山内さんは東京都学校給食会の歩みや概要について説明しつつ、“地産地消”や“食育”をキーワードに語りました。
学校給食会は戦後、国内で学校給食を普及させるために当時の文部省が都道府県に1つずつ設置した団体で、いまは公益財団法人として学校給食への物資の供給などを行っています。
東京ならではの困難を抱える
現在、東京都学校給食会として全都の小中学校に供給している物資はパン、麺と調味料などの一般物資で、それ以外の食材は各学校や自治体ごとに買い先を見つけています。「当会としては、全都に供給できる量を確保することが基本になるので、取り扱い物資を増やすことはなかなか難しいです」と話す山内さん。都内の小中学校の児童・生徒数は約85万人で、教職員合わせると1食が約90万人分になります。
そして一大消費地である東京都には、それだけの量を生産する産地がありません。「2005年に『食育基本法』が制定され、各都道府県の学校給食会も地産地消や食育に力を入れるようになりました。当会も何とか努力して“都の地場産物”として八丈島沖でとれるムロアジとトビウオ、伊豆諸島産あしたば(冷凍、生食用)などを供給してきました」。しかし昨今の温暖化の影響で海流が変化し魚の漁獲が激減、あしたばも高温の影響で生食用の供給ができなくなったと山内さんは話します。「東京都として地産地消の取り組みが難しい中で、当会としても他県のお米農家さんと学校をオンラインでつなぎ、子どもさんたちに生産現場を知ってもらうなどの食育活動に何とか取り組んでいます」
東京都学校給食会としての米の供給は、2000年に政府米から自主流通米に切り替わって以降は部分供給です。
昨年の米騒動を受けて東京都学校給食会にも普段取引のない学校からの問い合わせが増え、対応に苦慮している話が紹介され、山内さんは「原料の確保が困難な中、主食の安定供給のために今後は、事前に需要数量を提出してもらうことを給食会として検討している」と述べました。
地域と東京の子どもたちのため

「なぜ有機か」についても議論しました
講演後の意見交換では、「東京だけではなく、地域圏で考えていきたい。JAやさとは地元の石岡市の学校給食に米、野菜、納豆などを供給している。東京の子どもたちにも食べてもらいたい、という思いもある。加工や配送含めて仕組みを築いていこう」(茨城県石岡市、JAやさと専務理事、廣澤和善さん)、「私たちの会社は『農地を守る』ことを使命に有機でできるところは有機に、そうでないところは慣行で栽培面積を広げている。その中で地元の子どもたちが食べる米を作りながら東京の子どもたちにも、という構図を考えていきたい」(埼玉県加須市「中森農産」遠井広信さん)などの意見が出されました。
また、「これからは“市場からの安定供給”ではなく、“生産者との関係でつくる安定供給”の時代になる。私たちはその中で取引だけじゃなく、取り組みを強めて生産現場のことを理解してもらう必要がある」(青森県黒石市「アグリーンハート」代表取締役、佐藤拓郎さん)、「生産の現場に来てもらいたいし、伝えていきたい。『農業をやりたい』と思ってもらえる農家になりたい」(福島県南相馬市「みさき未来」渡邊大将さん)などの活発な議論が交わされました。
「春には米が足りなくなる」

精米工場で説明する馬込さん(右端)
翌日は精米会社「マゴメ」の八王子市にある有機精米工場を視察。有機米の年間取扱量は約1200トンで、生協や八王子市を含む都内の学校給食にも納めています(給食提供は特別栽培米)。学校給食に納めることや有機米を取り扱うことによる現場の実際の作業などの説明を受けました。
代表の馬込和明さんは昨年夏からの米騒動について、「今も注文量と入荷量が全く釣り合わず、出荷量を抑えている」と強調。「このままだと3~4月には米がなくなる。新米の時期まで給食提供を続けるのは難しいと八王子市にも伝えた。農業に限らず、地方の衰退が激しい。今日ここに来てくれた若い皆さんに託したい」と話しました。
中塚会長は「生産者の顔が見える関係を各地で築き、同じ目標を持つチームとして今後も交流を重ね、仲間を増やしていきましょう」とまとめてセミナーを終えました。